天才・新井場縁の災難

ノベルバユーザー329392

後編①



 天菜の予言通りに、金尾は絶命した……あまりにも呆気なく……まるで何かに取り憑かれたように……。
 風間がスペアキーを持って部屋に戻って来た頃には、金尾は絶命した後だった。
 風間は殺伐とした部屋の様子を見て、肩を落とした。
 「やはり……こうなりましたか……」
 同じ頃に騒ぎを聞き付けて、横瀬もやって来た。
 横瀬は倒れている金尾を見て、思わず声を荒げた。
 「金尾さんっ!……こっ、これはどう言う事ですかっ!?」
 桃子は横瀬に言った。
 「見ての通りだ……天菜の予言通りになった……」
 横瀬は表情を険しくした。
 「予言だと!?……何をふざけて……」
 すると縁が言った。
 「ふざけてなんかないよ……金尾さんは部屋に鍵を掛けて引き籠っていたんだ。それに部屋の入口で、有村さんと風間さんが見張っていたけど……不審者はいなかったんだ……」
 横瀬は縁に突っ掛かった。
 「子供が偉そうに……」
 縁は言った。
 「わかんねぇのか!……この部屋は完全に密室だったんだよっ!」
 縁の態度に横瀬は怒りを露にした。
 「ガキが、生意気にっ!」
 横瀬は今にも縁に飛び掛かりそうな勢いだ。すると、有村が2人の間に入った。
 「はいはい……そこまで……」
 横瀬は今度は有村に絡んだ。
 「何だ?あんたは……そこを退けよっ!」
 有村は横瀬に言った。
 「そうはいかない……ここは僕と縁に任せてもらうよ……」
 「あんたに何の権限が……うん!?」
 横瀬は納得いかない様子だったが、すぐに大人しくなった。
 有村は警察手帳を横瀬に見せていた。
 「僕は警視庁の警視だ……今からこの部屋の物に手を触れる事を禁止する」
 横瀬はバツが悪そうに言った。
 「あんた……警察だったのか……」
 有村は言った。
 「色々言い分はあると思うけど……人が死んだんだ……捜査には協力してもらう」
 「チッ……わかったよ……。ただ、あんたはわかるが……そのガキは何なんだ?」
 横瀬は悪態をついている。
 すると桃子が横瀬を睨み付けて言った。
 「貴様っ!さっきから黙って聞いていれば……私の縁に向かって、ガキとは何だ!?」
 縁は呟いた。
 「私のって……どさくさ紛れに何を言ってんだ……」
 有村は横瀬に言った。
 「現状、警察官は僕だけだからね……縁の協力が必要だ。警視の権限で縁を捜査に加える……まぁ、貴方の反対を受け入れるつもりもないが……」
 横瀬は言葉を失い、黙ってしまった。
 すると、風間が言った。
 「これからどうすれば……」
 有村が言った。
 「風間さんはこの村から誰も出さないように、封鎖の手配をしてもらえますか?……警察には僕から連絡しておきます」
 「わっ、わかりました……」
 そう言うと風間は、有村の指示に従うために、この場を離れた。
 風間が去ったのを確認して縁は言った。
 「有村さん……現場検証を始めよう……」
 縁に促されて、有村は横瀬に言った。
 「そうだね……横瀬さんは部屋に戻っておいてもいいよ……友人の死体がある場所になんて、いたくないでしょ」
 少し落ち着いたのか、横瀬は声のトーンを元に戻して言った。
 「わかりました……部屋に戻ります」
 「後で部屋に伺います……話を聞きたいので……」
 有村がそう言うと、横瀬は黙って頷き、部屋に帰って行った。
 すると桃子は言った。
 「私は戻らないぞ……」
 縁は言った。
 「言わなくても、わかっているよ……」
 桃子はニヤリとして言った。
 「ならいい……」
 縁は部屋を見渡した。部屋の形状は、荒らされている事以外は、縁の部屋と変わらず、間取り等は同じだった。
 柵付きの窓か1ヶ所に、ベッド、椅子に机があり、後は縁の部屋と同じく、ティーセットが置いてあった。
 すると死体を調べていた、有村が言った。
 「外傷は無いな……て事は……死因はショック死か」
 縁は言った。
 「毒殺か?……だとしても、いったいどうやって……それに、この部屋の状況は明らかに争った後だぜ……」
 桃子は言った。
 「金尾のあの叫び声は……誰かがこの部屋にいたとしか思えない……」
 縁が言った。
 「それはあり得ない……窓は鍵が掛かっていて、さらに柵付きだ。入口も鍵が掛かっていて、外には有村さんと風間さんがいたんだ……。中に人がいたなんて……あり得ないっ」
 すると背後から声がした。
 「だから言ったでしょ……罪に取り憑かれて死ぬと……」
 その声に部屋にいた3人は反応した。すると、入口に天菜と福島が立っていた。
 福島は薄ら笑いを浮かべている。
 有村は言った。
 「彼は呪い殺されたと?」
 福島は首を横に振った。
 「それは違います……彼は罪に殺されたのです」
 桃子が言った。
 「罪が人を殺すだと?」
 福島は頷いた。
 「そうです……彼は過去に、自ら犯した罪に、殺されたのです」
 縁は言った。
 「過去の罪?……それは、金尾が犯罪者だと?」
 福島は言った。
 「それを調べるのは貴方の仕事ですよ……有村警視殿……」
 有村は苦笑いをした。
 「はは……とうとうバレた……」
 福島はニコニコしながら言った。
 「先程、風間先生から聞きましたよ。身分を偽り、この村に来た理由は存じませんが……手間が省けました」
 桃子が言った。
 「手間が省けただと?」
 福島は淡々と言った。
 「人が死にましたからね……警察を呼ぶ手間が省けた、と言う意味ですよ」
 すると、縁が言った。
 「だったら、あんたたちにも、話を聞かないとな……」
 福島は笑顔で、縁に言った。
 「勇ましい少年ですね……しかし君は天菜様の力を、その身をもって体験したはずですが……」
 縁は言った。
 「あくまでも、金尾は罪に取り憑かれて、死んだと言い切るのか?」
 福島はニヤリとして言った。
 「その通りです。現に彼は死んだ……この密室空間で叫びながら……」
 すると縁は笑い出した。
 「ククク……ははははは……」
 縁の笑いに、福島の表情は一瞬ピクッとなった。
 「何が可笑しいのですか?」
 縁はニヤニヤしながら言った。
 「ははっ……可笑しいよ……。罪が人を殺す?……馬鹿馬鹿しい、そんなものあるわけがない……」
 福島は縁を少し睨んだ。
 「天菜様の力を目の当たりにしても……」
 縁はそんな福島を無視して、天菜の方に迎い、天菜の目の前に立った。
 福島は縁の行動に驚いた表情をした。
 「何を……」
 縁は福島を無視して、天菜に言った。
 「金尾が……仮に毒殺されたとしたら……あんたが俺に使った術の正体は……ほとんどわかったぜ……」
 縁は目を見開いき、口角を上げた。そんな縁を、天菜はじっと見つめている。
 すると福島が声を荒げた。
 「天菜様に向かって……無礼なっ!離れなさいっ!」
 縁は福島を無視して、表情を変えずに言った。
 「必ず……あんたの化けの皮を剥いでやるよ……」
 福島は激昂した。
 「貴様っ!無礼にも程が……」
 しかし縁は気にせず、薄ら笑みのまま、言い放った。
 「楽しみにしてなよ……殺・人・犯さん……」
 縁の挑発とも取れる行動に、福島の表情は怒りに満ちていたが、天菜は表情を変えなかった。
 すると天菜は縁達に背を向けて、福島に言った。
 「フッ、行くぞ……村長……」
 福島は納得できない表情で言った。
 「しかし……天菜様……」
 天菜は納得できていない福島を、気にする事なく、部屋を出て行った。
 「くっ……」
 福島も天菜が部屋を出て行ったので、仕方なく後を追って、部屋を出た。
 天菜と福島が部屋を出ると、縁は振り返り、桃子と有村を見た。すると有村は頭を抱えて、桃子は少し頬を赤らめている。
 頬を赤らめた桃子は、興奮気味に言った。
 「縁っ!……お前と言う奴は……何て格好い……いや、素晴らしい啖呵を切ってくれたのだっ!」
 桃子とは正反対の反応をして、有村は頭を抱えて言った。
 「喜んでる場合じゃないよ……これでここの村人は全員が敵になったようなもんだよ……」
 有村の言っている事は、あながち間違いではなかった。この村の絶対的な存在である、窟塚天菜を侮辱したのだ、天菜を慕う村人の反感を買ってもおかしくない。
 有村は諦め顔で言った。
 「まぁ……言っても仕方がない……で、さっきの話は本当かい?」
 縁は言った。
 「さっきの話?」
 有村は目を丸くして言った。
 「天菜の秘密がほとんどわかったって、言っていただろ?……」
 縁は苦笑いして言った。
 「ああ……まぁ、半分はハッタリだけど」
 桃子は目を丸くして言った。
 「ハッタリ?……」
 縁は笑いながら言った。
 「ははっ……揺さぶりをかけてやろうかと、思ったんだけどさぁ……表情が全然変わらないだよ……」
 桃子は呆れて言った。
 「何を呑気な……」
 しかし縁はニヤリとして言った。
 「でも……大体はわかってるぜ……後は方法だ……」
 有村は言った。
 「方法?」
 「まぁ、それはおって話すよ……それより今は、この状況だ……」
 桃子は言った。
 「何故死んだか……だな……」
 縁は頷いた。
 「そう……金尾はどう言う状況で死んだのか……この部屋が密室であった事は間違いない……そして、死因はおそらく毒によるショック死……」
 有村が言った。
 「ただ毒殺としたら、犯人はどうやって飲ませて、どうやって脱出したのか……」
 縁は辺りを見渡し、部屋の隅に落ちていたティーカップを拾った。底には紅茶の水滴が残っている。
 縁は言った。
 「毒だとすれば……多分これだな」
 縁はティーカップの取手を摘まんでプラプラさせている。
 有村は言った。
 「後で鑑識に見てもらおう……僕は警察庁に連絡をいれてくる……」
 そう言うと有村は部屋を出て行った。
 部屋に残された縁と桃子は、引き続き部屋を調べた。
 すると机の下にA4サイズのノートが落ちていた。縁はノートを拾って、中を確認した。
 「取材ノートかな?……」
 縁はしばらくノートの中身を確認した。すると、窟塚村に関する記録のページがあった。
 「この村の事が書いてある……うん?」
 ページを確認すると、『N氏と天菜』と書かれた項目が出てきた。どうやら次回連載の仮タイトルのようだったが、内容までは書いてなかった。
 「肝心の内容が無いな……一応警察に渡す前に、写真に撮っとくか……」
 縁はそのページをスマホのカメラで撮った。
 一通り部屋を調べ終わり、縁は呟いた。
 「横瀬から話を聞くしかないか……」
 桃子が言った。
 「こちらに有益になる事を……奴が話すか?」
 「この『N氏と天菜』と言うタイトルが、事件に関係しているなら……横瀬も危ないぜ……。命の危険があるって言ったら、話してくれるだろ……」
 「やはり他殺なのか?」
 縁は目を丸くして言った。
 「今更何を言ってんだ?」
 桃子は表情が険しくなった。
 「もしかして……金尾は本当に罪に取り憑かれて……自殺をしたのでは……」
 縁は呆れて言った。
 「桃子さんまで、何を言ってんだ?」
 桃子は少し声を荒げた。
 「しかしっ!この部屋は密室で……それに争った形跡まであるんだっ!」
 少し取り乱した桃子を、縁は目を丸くして見ている。
 桃子は続けた。
 「過去に犯した罪の幻影を見て……奴は自殺をしたのでは……」
 縁は顎を撫でて、呟いた。
 「幻影を……」
 縁を気にせず、桃子は言った。
 「だからこんなにも、部屋が荒れているんだ……」
 すると、有村が部屋に戻って来た。
 「警察には連絡を入れておいた……けど……」
 縁は言った。
 「けど?」
 有村は笑顔で言った。
 「明日の朝になるって……」
 縁は言った。
 「笑顔で誤魔化そうとするな」
 有村は頭を掻いた。
 「この村に来るまでに時間も掛かるし……現状を考えても明日の朝で問題はないだろ……それに僕もいるからね」
 確かに有村は警察官なので、すでに村には警察が来ている事になる。
 縁は言った。
 「仕方ない……現場を維持して、証拠になりそうな物は、袋でも借りて保管しよう……」
 桃子が言った。
 「そうだな……後、部屋の鍵もこちらで預かろう……もちろんスペアキーもな……」
 そして3人は事務所でビニール袋を借りて、証拠品を保管して、部屋を施錠し、鍵は有村が預かった。
 すると、有村が言った。
 「僕は横瀬さんに話を聞きに行くから……縁と桃子ちゃんは、縁の部屋で先に休んでいてくれ……」
 縁は言った。
 「俺も話を聞きたいんだけど……」
 有村は首を横に振った。
 「縁と桃子ちゃんはダメ……横瀬さんと喧嘩になる。それに僕は警察だから、横瀬さんも僕1人だと話やすいだろ?」
 確かに有村の言う通り、桃子は何かと金尾や横瀬には、挑発的な態度を見せ、縁に至っては横瀬が縁に好意的ではない。
 縁と桃子は仕方なく部屋に戻った。
 部屋に戻った2人は、それぞれくつろいでいた。縁はベッドに横たわり、桃子は椅子に座っている。
 桃子はベッドに横たわる、縁に言った。
 「殺人だとすれば……犯人は天菜なのか?」
 「さぁ……どうだろうね……俺からすれば村長の福島も怪しいけど……」
 「あの男か……ただの村長ではなさそうだな……」
 縁は布団を被った。
 「明日、村を調べてみる……」
 「村を?」
 「気になる事があるんだ……」
 「気になる事?」
 「ああ……だからもう寝ようぜ……」
 「そうだな……明日のためにもう寝るか……」
 するといつの間にか、桃子は縁の隣で、一緒に布団を被っていた。
 縁は目を細めた。
 「何をしてる?」
 桃子はニコニコしながら言った。
 「何って……寝ようと言ったのは縁だぞ」
 縁は頭を抱えた。
 「あのなぁ……」
 桃子は首を縁に向けた。
 「どうした?……そうか、腕枕だな……腕枕をしてほしいんだな」
 縁は勢いよく起き上がって、桃子に言った。
 「出ていけぇーっ!!」



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