天才・新井場縁の災難

ノベルバユーザー329392

前編①



 暗い闇…………。その中に縁は立っていた。
 「暗い……どこだ?」
 闇の中でかん高い音と破裂音が鳴り響く。
 ヒューー………パァーンッ………。
 破裂音と共に美しい花火が闇に広がった。
 「花火の続きか……桃子さんは……どこだ?」
 縁は辺りを見渡したが、すぐに闇が広がった。
 しかし、またすぐに花火が上がり、辺りを照らす。
 すると……花火の光のおかげで、誰かがいる事がわかった。
 「うん?桃子さん?」
 頼る明かりが花火の光だけなので、途切れ途切れでしか確認できない。
 「桃子さんじゃ……ない……あれは……」
 縁は信じられない感じで言った。
 「ジジイ……何で?」
 花火の光で途切れ途切れになりながらも、その人物は縁の方へと向かってくるのがわかる。
 すると、花火が急に途絶え光と共にその人物も消えた。
 「ジジイっ!」
 すると男の声がした。
 「ジジイはもういねぇよ……」
 縁は辺りをキョロキョロしながらその声に言った。
 「誰だっ!」
 しかし誰もいない。
 だがすぐに声はした。
 「フフフ……お前が望んだんだろ?エニシ……」
 縁は目を見開いた。
 「その声……お前はっ!」
 「綺麗な花火だったな……俺は花火が好きだ……その一瞬の輝きのために存在する。だから美しい……」
 縁は表情を歪めた。
 「お前……」 
 男の声は続いた。
 「それは花火に限らず、全ての物にも共通する美しいさ……物は壊れるから儚く、美しい……それは人の命も同じだ……」
 縁は叫んだ。
 「もう止めろっ!」
 縁の叫びも虚しく、男の声は続いた。
 「言ったはずだぜ……俺は美しい物が好きだ……だから散らすと……」
 「だからって……壊すのか?」
 「全てをっ!」
 そう言ったと同時に目が覚めた。


 ジリリリリと、鳴る目覚ましの音が、耳に障る。
 「夢か……」
 縁は顔面蒼白で汗だくだった。
 「最悪な目覚めだ……」
 最悪な目覚めだったが、縁は起き上がり、着替えの準備をした。
 新学期が始まって……2週間経った。夏祭りの日監禁されていた、達也の彼女、青山美香も先週から学校に通っている。
 美香はバイト先の店長でもある高木と言う男に、店の倉庫に閉じ込められていた。
 百合根署の今野刑事の話によると、高木は美香に付きまとっていたストーカーだったようだ。過度な愛情表現がこのような事件を引き起こした……。こう言った事件が昨今多くなっているのは、現代社会のストレスも起因しているのかも知れない。
 縁はシャツを着て、赤のネクタイを絞めた。縁の高校の制服は黒のブレザーに黒のズボンだ。
 夏休みが終わったとは言え、まだまだ暑い日が続いているので、ブレザーはまだ必要ない。
 縁は軽めの朝食を済ませて、学校に向かった。
 学校は相変わらず平和だ……クラスメートは皆それぞれ年相応の話を弾ませ、ワイワイガヤガヤやっている。
 至って普通の光景だが、浮き世離れした縁にとっては、新鮮であり……縁が望んだ普通の高校生活だった。
 新学期が始まってからは、桃子ともあまり会っていない。
 別に避けている訳ではなく、桃子は現在どこかの村に取材に行っているようだ。
 縁は呟いた。
 「桃子さんがいないと……平和だ……」
 縁は平和を満喫しながら学校へと歩いて行った。
 いつも通りに学校に通学し、授業を受けるも、縁にとってはつまらなかった。
 飛び級でアメリカの大学を卒業した縁にとっては、つまらなくても仕方がない事だ。
 学力飛び抜けているとは言え、縁は決して浮いた存在ではなかった。縁は頭の良さを鼻にかけて、他者を見下すような態度は決してしないからだ。
 普段、桃子と一緒にいる事が多いので、わかりにくいかも知れないが、達也を始め友人はそこそこいる。
 やがて午前の授業も終わり昼休みになると、クラスメートの女子が何かを話していた。
 縁は達也と昼食を終え、ちょうどその話が聞こえてきた。
 「窟塚村くつづかむらのカリスマ教祖って知ってる?」
 「知ってる知ってるっ!元々凄い占い師でしょ……」
 「今日TVで特集があるんだってっ!」
 「知ってるっ!天才美人作家VSカリスマ教祖って、タイトルでしょっ!」
 縁は天才美人作家と言うフレーズに反応した。
 「天才美人作家……なんか嫌な予感が……」
 達也は縁に言った。
 「どうした?縁……」
 縁は苦笑いをした。
 「いや、別に……それにしてもカリスマ教祖って、いかにも胡散臭いなぁ……」
 達也は言った。
 「確かにな……教祖って事は宗教か?」
 「だろうな……」
 達也は興奮気味に言った。
 「すっげぇ超能力とか使ったりして……」
 縁は笑って言った。
 「はははっ!んなもんあるわけねぇよ……あったら見てみたいよ」
 「俺今日……そのTV見てみるよ……」
 達也がそう言うと、縁は言った。
 「まじか……何をするのか知らないけど、どうせインチキじゃないの?」
 達也は人差し指を立てて左右に振った。
 「チッチッチ……それは縁君……そう言った演出も含めてTVは面白いのさ」
 縁は呆れて言った。
 「何を気取ってんだ……」
 そんな話をしているうちに、昼休みは終わり、午後の授業も終えて、あっという間に放課後になった。




……午後8時…新井場邸……




 縁が夕食を終えてリビングでくつろいでいると、インターフォンが鳴り響いた。
 母が玄関に向かい来客に対応していると、声が聞こえてきた。
 「あら……桃ちゃん久しぶりねっ!」
 どうやら桃子が家に訪ねて来たようだ。
 「桃子さん……帰ってきたのか」
 縁がそう呟くと、母が桃子を連れてリビングに入ってきた。
 「縁……桃ちゃんよ……」
 縁は愛想なしに答えた。
 「見ればわかるよ」
 桃子は縁に言った。
 「どうだ新学期は?私に会えなくて寂しかったか?」
 縁は呆れて言った。
 「何を言ってやがる……桃子さんがいなくて平和だったよ」
 母が言った。
 「縁ったら……照れちゃって」
 桃子は言った。
 「お母様……それも縁の可愛いところです」
 縁は呆れて言った。
 「勝手な事を言うな……んで、何しに来たの?」
 桃子は言った。
 「縁……TVを付けてくれ……もう始まっている頃だ」
 「TV?……なんか視たい番組でもあるのか?」
 「いいから付けろ……8chだ」
 「へいへい……」
 そう言うと縁はリモコンでTVを付けて、チャンネルを8に合わせた。
 するとちょうど何かの番組が始まったところだった。
 縁はタイトルを見て驚いた。
 『世紀の対決!天才美人作家VSカリスマ教祖!』
 縁は呟いた。
 「この番組……クラスで話題になっていた……まさか……」
 桃子は言った。
 「この美人作家とは私だ」
 縁は頭を抱えた。
 「やっぱり……取材って、ここに行ってたのか」
 桃子は満足そうに言った。
 「そうか……縁のクラスで話題になってたか」
 「何を嬉しそうにしてやがる……んな、訳のわからん番組にまで出やがって……」
 桃子は縁の言う事を気にする事なく言った。
 「有名人の宿命だな……」
 桃子出演の番組内容は、窟塚村でカリスマ教祖が起こす不思議な現象を、桃子が解いていくと言う、至ってシンプルな内容だったが……結果は桃子の惨敗だった。
 桃子と対談しカリスマ教祖が桃子の心を読むコーナーなど、心理的要素の多い内容になっていたが……。
 番組が進むに連れて、桃子は不機嫌になっていく。
 「やはり……今思い出しても腹立だしい」
 縁は呆れて言った。
 「結果を知ってるのに何で視るんだ?」
 番組が終了すると、桃子が言った。
 「どうだ縁……わかったか?」
 「わかるわけねぇだろ……」
 桃子はニヤニヤしながら言った。
 「天才縁もわからない事があるのか……」
 「そう言う問題じゃなくて……その場にいないのにわかるわけねぇだろ」
 桃子は言った。
 「その場に行けば謎が解けると?」
 縁は怪訝な表情で言った。
 「TVで視るよりかは……」
 すると桃子は勢いよく立ち上がった。
 「決まりだ!」
 縁は嫌な予感がした。
 「決まり?」
 桃子は笑顔で言った。
 「行くぞ……窟塚村に」
 縁は声を荒げた。
 「何だってっ!?」
 「現場に行けばわかるのだろ?」
 「それ以前に……勝手に決めんなっ!それに俺、学校が……」
 桃子は縁の母に言った。
 「お母様……そう言う訳で、縁をお借りしたいのですが」
 母はニコニコしながら言った。
 「桃ちゃんと2人で旅行なんて……素敵ねぇ……反対する理由はないわ。縁っ!しっかりねっ!」
 「何をしっかりするんだっ!?それに俺の気持ちは無視か!?」
 桃子は縁に言った。
 「そう言う訳だ……ちょうど退屈していただろ?」
 縁は頭を抱えた。
 「災難だ……」





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