天才・新井場縁の災難

ノベルバユーザー329392



 外に出た縁を追うように、桃子は立ち上がって、3人に言った。
 「縁を見てくる……皆はここで待っていてくれ」
 そう言うと桃子は縁の後を追って、店の外に出た。
 外に出ると、店の外でキョロキョロしている縁がいた。どうやら何かを探しているようだった。
 桃子は縁に言った。
 「何を探している?」
 「こんなとこには無いか……」
 そう言うと縁は店の裏側に歩いて行った。
 「まて……私も行くぞ」
 桃子もその後を追った。
 店の裏には従業員用の車が3台分駐車できる駐車場と、倉庫のような小さなプレハブ小屋があった。
 縁はキョロキョロしながら呟いた。
 「結構広いね……うん?あれか……」
 そう言うと縁は店の裏口の側にあるゴミ箱を発見した。
 縁はゴミ箱にいくと、蓋を開けて中身を物色している。
 「うわぁ、汚ねぇ……」
 はたから見ると異様な行動をしている、縁に桃子が言った。
 「縁……何のつもりだ?ゴミ漁りなんかして……」
 縁は桃子の声が聞こえているのか、いないのか……ゴミ箱を漁り続けている。
 すると、縁の手が止まった。
 「やっぱりあった……」
 何かを見つけた縁はスマホのカメラで、それを撮った。
 桃子は怪訝な表情で言った。
 「何をしているんだ?」
 縁は言った。
 「うん……ちょっとね」
 ゴミ箱を片付けて蓋を閉じると、次に縁はプレハブ小屋を見た。
 「何の小屋だ?」
 縁は小屋に近づき扉を確認した。
 「鍵が掛かっているねぇ……」
 縁の言う通り、扉には南京錠が掛けられていた。
 桃子は言った。
 「物置小屋か?」
 縁は顎を撫でた。
 「なるほど……」
 すると、縁の携帯に着信が入った。
 縁がスマホを確認すると……瑠璃からだった。
 「もしもし?」
 スマホ越しに瑠璃が言った。
 「何処へ行ったの?ぜんぜん戻って来ないから……」
 縁は瑠璃に平謝りをした。
 「ごめんごめん……あっ、そうそう……雨家さん」
 「何?」
 「今野さんと青山さんの家に行ってくんない?達也も連れて……」
 「別にいいけど……新井場君と小笠原さんは?」
 「俺と桃子さんは、まだ調べる事があるから……あっ、そうそう……今日変わった事なかった?」
 急に質問された瑠璃は、少し考えて言った。
 「変わった事……そう言えば、今日は仕事がスムーズだった気がする」
 「スムーズ?」
 「うん……何でかわからないけど、確かにスムーズだった」
 縁は口角を上げた。
 「そう……ありがとう。それともう1つ聞かせて」
 「何?」
 「青山さんの家は店から見て東……従業員で東から来ている人はいる?」
 「私の知る限りは……いないよ……」
 「そう……わかった。ありがとっ!んじゃ今野さんをよろしく……」
 そう言うと縁は無理矢理電話を終えた。
 桃子は言った。
 「今野刑事達と別行動をとるのか?」
 縁は頷いた。
 「ああ……今野さんには青山さんの親に、事情を説明してもらわないと……そのためには雨家さんも一緒のほうがいい……それに……」
 「それに?なんだ?」
 縁は苦笑いをした。
 「達也はこっから先はいないほうがいい……取り乱す展開が目に浮かぶ」
 桃子も苦笑いをした。
 「なるほど……それは言えてるな」
 「だからこっから先は……いつも通りさ……」
 桃子は言った。
 「どう言う事だ?」
 縁は口角を上げて言った。
 「ピースは揃ったって事……」
 そう言うと縁は裏口から店に入った。
 裏口から店に入ると、廊下があり、すぐ左側にドアがあった。
 縁は躊躇う事なく、そのドアを開けた。
 中に入ると、どうやら休憩室のようで、大きなテーブルがあり、そこに男性が2人座っていた。2人とも制服姿だったので、おそらく従業員だろう。
 1人は縁と同じくらいの身長で高さはあまりないが……肉付きがよく、太っていた。もう1人は身長が高いが、細身だった。
 細身の男性がキョトンとして言った。
 「何ですか?あなた達は?」
 縁は言った。
 「青山美香さんの友人です……」
 太った男性が言った。
 「美香ちゃんは……今日は休みだけど……」
 縁は言った。
 「知ってますよ」
 二人の男性は、この状況に理解できていないようだった。
 細見の男性が言った。
 「どういったご用件です?」
 桃子が言った。
 「青山美香が行方不明になった……」
 桃子の言葉に、男性2人は驚いた様子になり、細身の男性が言った。
 「ゆ、行方不明って……どう言う事です?」
 縁は言った。
 「そのままの意味ですよ」
 太った男性が言った。
 「無断欠勤をするような娘じゃないから……おかしいと思ったが……警察には?」
 縁は言った。
 「警察が現在捜索中です……」
 細身の男性が言った。
 「では、あなた方は?」
 縁は言った。
 「青山さんの同級生の、新井場です……で、こっちが」
 縁が手を差し出すと、桃子が言った。
 「小笠原だ……」
 太った男性が言った。
 「店長の高木たかぎです……ここには何をしに?」
 縁は口角を上げて言った。
 「もちろん青山さんを探しに……」
 細身の男性が言った。
 「副店長の浅野あさのです……探すって……さっきも言ったけど、青山さんは来てないよ」
 縁は言った。
 「どうして……そう言えるんですか?」
 浅野は言った。
 「どうしてって……欠勤してるじゃないか……それに実際、僕も彼女を見ていないよ」
 縁は言った。
 「副店長って事は……あんたは午後1時からの出勤でしょ?」
 浅野は驚いて言った。
 「ど、どうして知ってるんだ?」
 縁は壁を指差した。
 「そこに書いてあるから」
 縁の指差した方には、シフト表が貼ってあり、確かに副店長の浅野は午後1時出勤になっていた。
 縁は言った。
 「青山さんは正午から……あんたは、1時から……会うわけないよね」
 店長の高木が言った。
 「そう言う問題じゃなくてね……それ以前に、来てないから会うわけないでしょ」
 縁は口角を上げて言った。
 「それはどうでしょう……」
 浅野が言った。
 「何が言いたいんだ?」
 縁は言った。
 「青山さんは一度この店に来てるよ……」
 高木と浅野は呆気に取られている。
 縁は言った。
 「まず青山さんは午前11時20分頃に自宅を出て、近くのパン屋でサンドウィッチを購入した。そして11時30分過ぎにこの店に到着した」
 高木は言った。
 「どうしてわかるんですか?」
 縁は言った。
「パン屋の夫婦が言っていたし、青山さんの家からこの店までに、防犯カメラが3台あって、そのどれにも青山さんが映っていたからね……」
 浅野が言った。
 「この店をスルーして、何処かに行ったかも知れないじゃないか」
 縁は首を横に振り、スマホを取り出した。
 「この写真を見て欲しいんだけど……」
 スマホの写真には、白いトレーにラベルが付いている物だった。
 縁は言った。
 「これ……そのパン屋のサンドウィッチが入っていたトレーなんだけど……これ青山さんが買ったサンドウィッチなんですよ……表のゴミ箱に入っていたよ」
 高木と浅野の表情が変わった。
 桃子が言った。
 「つまり青山美香がここで、サンドウィッチを食べた事になる……」
 高木が言った。
 「他の従業員が買ってきたんじゃ……ないんですか?」
 縁は言った。
 「それはないでしょ……パン屋と青山さんの家は店の東側……この店に東から来ているのは青山さんだけなんだから……」
 浅野が言った。
 「確かに……東から来ているのは青山さんだけだ……この店に来たのか?」
 縁は言った。
 「そうなりますね……」
 高木が言った。
 「この店で消えた?そんなバカなっ!」
 高木と浅野の様子を見て縁は言った。
 「とぼけちゃって……俺、最初に言ったよね……ここに青山さんを探しに来たって……」
 桃子が言った。
 「縁……まさか、いるのか?ここに……」
 縁は頷いた。
 「いるよ……青山さんはこの店に」
 そして縁は言った。
 「ですよね……店長の高木さん」
 縁の言葉に高木は言葉を無くし、浅野は驚いて言った。
 「店長が?……どう言う事?」
 浅野は理解しきれていないようだ。
 縁は言った。
 「おかしいと思ったんだ……何で正午からの出勤が青山さんだけなのか……」
 高木は言った。
 「業務上の都合です……」
 縁は言った。
 「最初はそうかと思ったけど……でも、実は青山さんを拉致するための、シフトだったんじゃないかなって……」
 桃子は言った。
 「シフトを利用して青山美香が一人になる時間帯を作ったのか……」
 縁は言った。
 「だったら犯人は絞られてくるからね……シフトを作っている店長と副店長に……そうなると、副店長の浅野さんは1時出勤だから、自然と犯人は店長の高木さんになる」
 高木は激昂した。
 「ふざけるなっ!そんなんで犯人にされちゃあ、たまったもんじゃないっ!」
 縁は言った。
 「浅野さん……今日って、材料の補充ってやりました?常温倉庫から……」
 その言葉に高木の表情は反応した。
 浅野はキョトンとして言った。
 「いや、常温倉庫からの補充はやっていなけど……何で補充の事を知ってるんだい?」
 縁は言った。
 「表のプレハブ小屋に鍵が掛かっていました……あれって常温倉庫ですよね」
 桃子は言った。
 「ただの物置小屋ではないのか?」
 縁は言った。
 「だだの物置小屋に、あんな厳重な鍵を付けないよ」
 桃子は言った。
 「しかし、鍵を付けてしまったら……バイトが使用できないぞ」
 縁は言った。
 「バイトに使用させないために付けてるんだよ」
 桃子は理解できてない様子だ。
 縁は言った。
 「SNS対策さ……」
 縁の言葉に浅野は黙って頷いた。
 縁は言った。
 「食品や材料をイタズラに遊びに使って、その写真をSNSにアップする……目立ちたいがためにね……そういったバイトの軽はずみな行動で、食に対する信用を失って、潰れてる会社は結構あるからね」
 桃子は言った。
 「それを防止するために……鍵を?」
 浅野は言った。
 「社会問題になった時に、本社からの指示でね……材料の補充は鍵を持っている店長と僕でやるんだ。でもどうしてわかったんだい?」
 縁は言った。
 「雨家さんが今日の業務は理由はわからないけどスムーズにいったと、言っていたからね……予め1日分の材料を補充しておけば、補充にタイムラグで出なくなり、自然とスムーズになるからね」
 縁は続けた。
 「つまり鍵を持っている店長が開店前に、終日使う常温材料を補充しておけば……それにかかるタイムラグが解消され、バイト達の業務がスムーズになる」
 桃子は言った。
 「なるほど……この暑い時期に冷凍や冷蔵の材料は出しておけない……それらは無くなったら補充するようにして、気温の影響を受けにくい常温材料を出して置けば……」
 縁は言った。
 「雨家さんにとっては、理由がわからないくらいの、スムーズさが生まれるわけ」
  桃子は言った。
 「しかし、業務がスムーズなるのなら、いいじゃないか」
 縁は言った。
 「それだけが目的ならね……」
 桃子は目を見開いた。
 「まさか……」
 縁は口角を上げて言った。
 「そう言うこと……そこに青山さんはいるのさ……」
 浅野は唖然とした。
 「青山さんが……常温倉庫の中にいるってのか?」
 縁は頷いた。
 「さぁ……店長の高木さん……何か言いたい事は?」
 高木は下を向いたまま震えている。
 浅野は言った。
 「店長……ほんとに店長が……」
 すると、高木は制服にしまっておいた、カッターナイフを取り出した。
 「だったら……だったらどうだって言うんだっ!!」
 桃子は言った。
 「正体を表したか……」
 縁は呆れて言った。
 「そんなもの出して……どうするつもり?」
 カッターナイフをみて驚かない縁と桃子に、高木は言った。
 「これが見えないのかっ!何、余裕かましてやがるっ!切り殺すぞっ!!」
 高木の豹変ぶりに浅野は驚いて声が出ないようだが、縁と桃子は動じない。
 桃子は言った。
 「無駄な事は止めろ……そして、さっさと青山美香を解放しろ……」
 すると、高木は激昂して桃子に襲いかかった。
 「だから……余裕かましてんじゃねぇよっ!!」
 カッターナイフを振りかざし、襲いかかった高木に対して、桃子はまずは冷静にカッターナイフを持つ高木の右手首を掴み……そして、高木が怯んだところで、正拳突きを顔面にお見舞いした。
 正拳突きをもろに喰らった高木は、カッターナイフを離して、後ろにぶっ飛び気絶した。
 気絶した高木を見て縁は言った。
 「桃子さんが言ったろ……無駄な事は止めろって……」



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