天才・新井場縁の災難

ノベルバユーザー329392

一休み①





……喫茶店風の声……




 夏の暑い日の午後、有村は風の声でアイスコーヒーを飲み、カンウター席でくつろいでいた。
 もうすぐ8月も終わり、9月になる……休暇らしい休暇もとれないまま、秋になろうとしていた。
 「結局休暇がとれなかったよ」
 有村は警察官になり、ここまで突っ走ってきた。
 時には理不尽に合いながらも、警視になるまでに出世もした。
 しかし、上に行けば行く程に、警察官になりたての頃の理想とは駆け離れていき、日々葛藤と闘い過ごしている。
 しかし、事件は待ってはくれない。
 店主の巧は言った。
 「警視さんは独身だよね……彼女はいないの?」
 有村は少し考えた。
 「彼女か……今はいないねぇ……」
 巧は苦笑いをした。
 「そっか……忙しそうだもんねぇ……」
 巧の言葉は有村の心に何故か刺さった。
 忙しいから……。
 確かにそれもあるかも知れないが、それを理由に逃げいていただけかも……。
 すると、店に縁と桃子がやって来た。
 巧は来店した2人に言った。
 「いらっしゃい……お二人さん」
 縁は有村を見て言った。
 「何だ、有村さん……またサボリかよ」
 有村は苦笑いをした。
 「サボリとは……酷い言われようだね」
 桃子が言った。
 「では何だ?」
 有村はニコニコしながら言った。
 「巧君のアイスコーヒーを飲みに来ただけさ」
 縁は呆れて言った。
 「やっぱりサボリじゃんか」
 縁と桃子はそれぞれアイスカフェを注文した。
 縁は有村の隣に座り、有村に言った。
 「この前の事件の事だけど……」
 「この前の?ああ……紅い爪の事件ね……。それがどうかしたかい?」
 縁は言った。
 「俺も後でわかって、びっくりしたんだけど……船の爆破はフェイクで、目的は現金輸送車だったって……」
 「そうだよ……なんとか検挙できたけど」
 縁は怪訝な表情で言った。
 「よくわかったな……」
 有村はニコニコしながら言った。
 「そりゃあ……日本の警察は優秀ですから……」
 縁は言った。
 「俺の勘なんだけど……誰かのアドバイスか?」
 有村の表情は一瞬だけ険しくなったが、すぐに元通りニコニコした。
 「まさか……警察が総力を上げたんだ、当然の結果でしょ」
 縁は特に気にした様子もなく言った。
 「ならいいんだけど……」
 有村は立ち上がった。
 「じゃあ……僕はそろそろ戻るよ。縁にサボリだと思われたら体裁が悪いからね」
 縁は言った。
 「何だよ……冗談で言ったんだぜ」
 「わかってるよ……じゃっ、またね」
 そう言うと有村は会計を済ませて店を出た。
 店を出た有村は車に乗り、エンジンを掛けて少し考えた。
 「縁には自分の事は黙っておいてくれって言っていたけど……あの少女は縁とどういう関係だ?」
 少し考えたが、有村は笑った。
 「フッ……まぁ考えても仕方ないか……」
 有村は車を発進させて本庁に戻って行った。
 季節が変わり秋になろうとも……事件が無くなる事は無い。
 ならば、自分の出来る事をするまでだ。
 アスファルトが陽炎を作る中、有村の黒いセダンは疾走する……己の道を進むべく、ただまっすぐと……。





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