天才・新井場縁の災難
④
 港には警察や救急隊、消防隊と様々な団体が到着していた。
 有村の姿も港にあった。
 有村は炎上しているQueensshipを見て言った。
 「何故爆発した?爆弾犯はさっき捕らえたぞ……」
 有村の言う通り、爆弾犯は先程無事に逮捕された。予想通り海上保安庁の巡視船に潜んでいたのだ。
 すると所轄の今野刑事が有村に言った。
 「警視っ!乗客、船員はほぼ無事に脱出したようですっ!」
 有村は今野に言った。
 「今野君……縁と桃子ちゃんは?」
 今野はバツの悪そうな表情で言った。
 「確認は……出来ていません……」
 有村は先程から縁と桃子の携帯に何度も電話をしているが、一向に繋がらなかった。
 すると一人の刑事が有村に言った。
 「警視っ!救急ボート回収は全て終了したとの事ですっ!しかし……」
 有村は言った。
 「しかし……何だ?」
 「乗客2名と船長は未だ……船に……」
 有村は悟った……乗客2名が縁と桃子だと。
 有村は言った。
 「そうか……。引き継ぎ海上保安庁と海上自衛隊と連携し、事後処理に当たってくれ……」
 有村は険しい表情をした。
 「縁……桃子ちゃん……」
 すると有村に付いてきた、麦藁帽子の少女が言った。
 「ミスターアリムラ、出て来た救命ボートは全て手ごき式でしたか?」
 有村は言った。
 「そうだけど……それが?」
 少女はニヤリとして言った。
 「まだ諦めるには早いかもしれませんよ……」
 有村は言った。
 「しかし……船は時期に沈む」
 有村の言う通り、炎上した船は真っ二つに割れて沈んで行く……沈みきるには最早時間の問題だった。
 少女は表情を変えずに、ニヤリとして呟いた。
 「彼なら……必ず脱出する……エニシなら活路を見いだせるはず」
 すると、炎上した船に変化があった。
 船の後尾から何かが出て来た。
 それに有村は反応し、持っていた双眼鏡で確認した。
 「あれは……ボートだ!エンジン式のボートが1隻出て来たっ!」
 ボートに乗っていたのは、縁と桃子そして、気を失った神田だった。
 ボートを操縦していたのは縁だった。
 桃子は風になびく綺麗な髪を手で抑えながら言った。
 「縁っ!よく操縦ができたな!」
 縁は言った。
 「ジジイに散々やらされたんだよ!」
 「しかし、間一髪だったなっ!」
 「ああ……神田船長が非常口の鍵を持ってなかったらアウトだったぜ……桃子さんの運が、俺たちに活路を与えてくれたのかもなっ!」
 縁達は操縦室を出て1層目に降りることなく、2層目に通路をワゴンを押し、F区間を目指し駆け抜けた。
 そして、神田のポケットから非常口の鍵を取り出し、ワゴンを捨てて、縁と桃子が神田を担ぎ、階段を駆け降り……非常口の奥にあったエンジン式のボートで船から脱出した。
 すると、気を失った神田が目を覚ました。
 「うっ……わ、私は……」
 桃子は神田に言った。
 「気が付いたか……」
 「小笠原様……ここは?」
 「脱出用のボートの上だ……操縦は縁がしている」
 神田は起き上がり、その場で座り込んだ。
 「私は……死ねなかったのですね……」
 桃子は言った。
 「私は……余計な事をしたとは、思っていないぞ」
 神田はボートに積まれている絵を発見した。
 「この絵も……持ってきてくれたのですね」
 「大事な物なのだろ?」
 絵に描かれた子供はとても穏やかな表情で笑っていた。
 桃子は言った。
 「私にはその絵の子供は笑っているように見えるが、今の貴方に……その絵の子供は笑っているように見えるか?」
 神田は桃子の言葉に目を見開いた。
 桃子は言った。
 「私は……貴方の子供は知らない……だが……今の憎しみに支配された貴方を、笑って見てくれるか?」
 神田は下を向いている。
 桃子は言った。
 「生きろ……死んでいった家族と……貴方が殺した者の分も……」
 神田は下を向いていたが、泣いているのはわかった。
 風の音で泣き声は聞こえなかったが……神田は声を出して泣いていた。
 一方港では縁と桃子の安否を確認した有村が、縁と桃子の乗ったボートが帰還するのを待っていた。
 すると少女が言った。
 「ミスターアリムラ……私はこれで」
 「もう行くのかい?縁には?」
 「会う必要はありません……今回の任務は終了しましたので……」
 有村は畏まり少女に言った。
 「この度は御協力ありがとうございました……貴方の言う通り、指摘されたポイント5箇所で紅い爪の工作員の確保も、なんとかできました」
 少女は言った。
 「もっとも、私の標的はいなかったようですが……今後もいい関係を継続し、捜査協力をしていきましょう……では……」
 そう言うと少女は黒塗りのセダン車に乗り去って行った。
 そばにいた今野が言った。
 「FBIの捜査官と聞いてましたが……若すぎますね」
 有村は言った。
 「あの実力なら、年齢は関係ないよ……しかし」
 今野は言った。
 「なんだか縁君みたいですね……」
 有村は思った。
 縁みたいと言うよりは……まるで縁そのものだと……。
 有村は呟いた。
 「彼女はいったい……」
 すると、縁の操縦するボートは肉眼でも確認できる程に近づいてきた。
 有村は言った。
 「縁達が戻ってくるぞ!受け入れ準備だ!」
 今野は敬礼した。
 「はっ!」
 間一髪船から脱出した縁と桃子は、無事に港に到着した。
 到着した縁と桃子は有村と今野に出迎えられた。
 有村は言った。
 「縁、桃子ちゃん……よく無事でいてくれた」
 縁は言った。
 「今回はさすがにヤバかったよ」
 「無茶させて、悪かったね」
 桃子は言った。
 「まぁ……私のおかげて脱出できたような物だ」
 縁は言った。
 「よく言うぜ……何も考えないで乗り込んで来たくせに……」
 桃子は少し膨れて言った。
 「そんな言い方をしなくても……」
 縁は微笑んだ。
 「でも……サンキュー……桃子さん」
 桃子は目を見開き少し頬を赤くして、後ろを向いて言った。
 「わわ、私は、と、当然の事を……した、したまでだ……」
 そんな桃子を見て、縁と有村はニヤニヤした。
 有村は言った。
 「柄にもなく照れてるよ……」
 すると縁の目に警察に連行されて行く、神田の姿が写った。
 縁と桃子は神田のところへ行った。
 縁は言った。
 「神田船長っ!」
 神田は立ち止まり、縁と桃子を見た。
 神田の表情はどこか穏やかで、解放された感じがあった。
 縁は絵を神田に渡した。
 「これを……」
 神田は手錠で拘束された手で、絵を受け取った。
 「ありがとうございます……」
 桃子は神田に言った。
 「笑ってるように……見えるか?」
 神田は目に涙を浮かべて言った。
 「はい……笑ってくれています」
 神田は連行され、縁と桃子はそれを見送った。
 桃子は言った。
 「終わったな……」
 縁は頭をかいた。
 「散々な船旅だったよ……」
 桃子は少し笑った。
 「フッ……私達らしくて、いいではないか……」
 縁は溜め息をついた。
 「はぁーっ、確かに……飽きない夏休みだったけど……普通に楽しみたかったよ」
 桃子は言った。
 「そう言うな……何か食べに行こう……お腹が空いた」
 縁は呆れて言った。
 「ほんとにたいした人だよ、桃子さんは……」
 桃子は笑って言った。
 「今さら何を言ってる……それより、何故あれが船長の子供の絵だとわかった?」
 「それは……一緒だったからさ」
 「一緒だった?」
 「ジジイが……家族写真を見ている時の目と、同じだったんだ……」
 桃子は意味深な表情で縁を見た。
 縁は縁はそれに気付いて、話を変えた。
 「それじゃあ……帰りますか……腹も減ったしね」
 こうして縁と桃子の船旅は終わった。
 熱くて永い船旅の1日が……終わった。
……翌日午後…喫茶店風の声……
 店内のテレビでは昨日のQueensship爆破事件の和大で持ちっきりだ。
 紅い爪爆破事件をカモフラージュした、現金輸送車の強奪計画を画策していたと、報道番組で伝えられていた。
 店主の巧はテレビを見ながらニヤニヤしている。
 縁はそんな巧を見て怪訝な表情言った。
 「何をニヤニヤしてんだ?」
 巧は嬉しそうに言った。
 「いや、面白過ぎでしょっ!いつも事件に巻き込まれてるけど、まさかこんな大きな事件まで……」
 「笑い事じゃねぇよっ!これで俺の夏休みはパアだっ!」
 巧は言った。
 「俺……思うんだけどさ……先生が事件を呼んでるんじゃなくて、縁が呼んでんじゃないの?」
 縁はカウンターにおでこを付けた。
 「んなわけねぇだろ……目立たないようにしてんのに……」
 とは言ったものの、縁もそれは感じていた。桃子ではなく、もしかしたら自分が事件を呼んでいるのではと……。
 縁は首を横に振って呟いた。
 「いやっ!ないないっ!それはないっ!」
 その時店に客が来た。
 巧は言った。
 「あっ、先生……いらっしゃい」
 店にやって来たのは桃子だった。
 桃子は店内のテレビを見て、上機嫌になった。
 「マスター、見たか?」
 巧は笑顔で言った。
 「もちろんっ!」
 桃子はニヤニヤしながら言った。
 「私の機転でこうして縁は無事に、マスターの作るアイスカフェを飲む事ができるのだ」
 縁は呟いた。
 「よく言うぜ……」
 巧は言った。
 「でも先生……これでますます有名になったね」
 桃子は胸を張った。
 「有名作家の宿命だな……」
 縁は呟いた。
 「俺は波乱を背負う宿命だ……」
 桃子は縁に言った。
 「さっきから何悲観的な事を言っている?」
 縁は言った。
 「帰国してもう2年……ジジイから解放されて……やっと普通の生活が多少できると思ったのに……」
 縁は立ち上がり力説した。
 「事件ばっかじゃねぇかっ!京都旅行も、船旅も……事件だった。あげくに船は爆発しちまうし、散々だよ」
 桃子は言った。
 「刺激的でいいじゃないか……」
 縁は言った。
 「刺激はくさる程感じてきた……」
 巧が言った。
 「つまんないよりましだろ?何も無いより何かあるほうが……いいんじゃない?」
 桃子が言った。
 「そんな刺激を求める縁に朗報だ」
 縁は言った。
 「話を聞いてたのか?俺は刺激を求めていないっ!」
 桃子は構わず言った。
 「これから昨日の事件の事で取材がある……縁も付いてこい、先方にはもう言ってある」
 縁は言った。
 「めんどくさいうえに、刺激も関係ねぇだろっ!」
 桃子は聞く耳を持たない。
 「時間が無い……行くぞっ!それに言ったろ?私とお前は運命共同体だと……」
 桃子は縁の手を引いた。
 手を引かれた縁は呟いた。
 「災難だ……」
 有村の姿も港にあった。
 有村は炎上しているQueensshipを見て言った。
 「何故爆発した?爆弾犯はさっき捕らえたぞ……」
 有村の言う通り、爆弾犯は先程無事に逮捕された。予想通り海上保安庁の巡視船に潜んでいたのだ。
 すると所轄の今野刑事が有村に言った。
 「警視っ!乗客、船員はほぼ無事に脱出したようですっ!」
 有村は今野に言った。
 「今野君……縁と桃子ちゃんは?」
 今野はバツの悪そうな表情で言った。
 「確認は……出来ていません……」
 有村は先程から縁と桃子の携帯に何度も電話をしているが、一向に繋がらなかった。
 すると一人の刑事が有村に言った。
 「警視っ!救急ボート回収は全て終了したとの事ですっ!しかし……」
 有村は言った。
 「しかし……何だ?」
 「乗客2名と船長は未だ……船に……」
 有村は悟った……乗客2名が縁と桃子だと。
 有村は言った。
 「そうか……。引き継ぎ海上保安庁と海上自衛隊と連携し、事後処理に当たってくれ……」
 有村は険しい表情をした。
 「縁……桃子ちゃん……」
 すると有村に付いてきた、麦藁帽子の少女が言った。
 「ミスターアリムラ、出て来た救命ボートは全て手ごき式でしたか?」
 有村は言った。
 「そうだけど……それが?」
 少女はニヤリとして言った。
 「まだ諦めるには早いかもしれませんよ……」
 有村は言った。
 「しかし……船は時期に沈む」
 有村の言う通り、炎上した船は真っ二つに割れて沈んで行く……沈みきるには最早時間の問題だった。
 少女は表情を変えずに、ニヤリとして呟いた。
 「彼なら……必ず脱出する……エニシなら活路を見いだせるはず」
 すると、炎上した船に変化があった。
 船の後尾から何かが出て来た。
 それに有村は反応し、持っていた双眼鏡で確認した。
 「あれは……ボートだ!エンジン式のボートが1隻出て来たっ!」
 ボートに乗っていたのは、縁と桃子そして、気を失った神田だった。
 ボートを操縦していたのは縁だった。
 桃子は風になびく綺麗な髪を手で抑えながら言った。
 「縁っ!よく操縦ができたな!」
 縁は言った。
 「ジジイに散々やらされたんだよ!」
 「しかし、間一髪だったなっ!」
 「ああ……神田船長が非常口の鍵を持ってなかったらアウトだったぜ……桃子さんの運が、俺たちに活路を与えてくれたのかもなっ!」
 縁達は操縦室を出て1層目に降りることなく、2層目に通路をワゴンを押し、F区間を目指し駆け抜けた。
 そして、神田のポケットから非常口の鍵を取り出し、ワゴンを捨てて、縁と桃子が神田を担ぎ、階段を駆け降り……非常口の奥にあったエンジン式のボートで船から脱出した。
 すると、気を失った神田が目を覚ました。
 「うっ……わ、私は……」
 桃子は神田に言った。
 「気が付いたか……」
 「小笠原様……ここは?」
 「脱出用のボートの上だ……操縦は縁がしている」
 神田は起き上がり、その場で座り込んだ。
 「私は……死ねなかったのですね……」
 桃子は言った。
 「私は……余計な事をしたとは、思っていないぞ」
 神田はボートに積まれている絵を発見した。
 「この絵も……持ってきてくれたのですね」
 「大事な物なのだろ?」
 絵に描かれた子供はとても穏やかな表情で笑っていた。
 桃子は言った。
 「私にはその絵の子供は笑っているように見えるが、今の貴方に……その絵の子供は笑っているように見えるか?」
 神田は桃子の言葉に目を見開いた。
 桃子は言った。
 「私は……貴方の子供は知らない……だが……今の憎しみに支配された貴方を、笑って見てくれるか?」
 神田は下を向いている。
 桃子は言った。
 「生きろ……死んでいった家族と……貴方が殺した者の分も……」
 神田は下を向いていたが、泣いているのはわかった。
 風の音で泣き声は聞こえなかったが……神田は声を出して泣いていた。
 一方港では縁と桃子の安否を確認した有村が、縁と桃子の乗ったボートが帰還するのを待っていた。
 すると少女が言った。
 「ミスターアリムラ……私はこれで」
 「もう行くのかい?縁には?」
 「会う必要はありません……今回の任務は終了しましたので……」
 有村は畏まり少女に言った。
 「この度は御協力ありがとうございました……貴方の言う通り、指摘されたポイント5箇所で紅い爪の工作員の確保も、なんとかできました」
 少女は言った。
 「もっとも、私の標的はいなかったようですが……今後もいい関係を継続し、捜査協力をしていきましょう……では……」
 そう言うと少女は黒塗りのセダン車に乗り去って行った。
 そばにいた今野が言った。
 「FBIの捜査官と聞いてましたが……若すぎますね」
 有村は言った。
 「あの実力なら、年齢は関係ないよ……しかし」
 今野は言った。
 「なんだか縁君みたいですね……」
 有村は思った。
 縁みたいと言うよりは……まるで縁そのものだと……。
 有村は呟いた。
 「彼女はいったい……」
 すると、縁の操縦するボートは肉眼でも確認できる程に近づいてきた。
 有村は言った。
 「縁達が戻ってくるぞ!受け入れ準備だ!」
 今野は敬礼した。
 「はっ!」
 間一髪船から脱出した縁と桃子は、無事に港に到着した。
 到着した縁と桃子は有村と今野に出迎えられた。
 有村は言った。
 「縁、桃子ちゃん……よく無事でいてくれた」
 縁は言った。
 「今回はさすがにヤバかったよ」
 「無茶させて、悪かったね」
 桃子は言った。
 「まぁ……私のおかげて脱出できたような物だ」
 縁は言った。
 「よく言うぜ……何も考えないで乗り込んで来たくせに……」
 桃子は少し膨れて言った。
 「そんな言い方をしなくても……」
 縁は微笑んだ。
 「でも……サンキュー……桃子さん」
 桃子は目を見開き少し頬を赤くして、後ろを向いて言った。
 「わわ、私は、と、当然の事を……した、したまでだ……」
 そんな桃子を見て、縁と有村はニヤニヤした。
 有村は言った。
 「柄にもなく照れてるよ……」
 すると縁の目に警察に連行されて行く、神田の姿が写った。
 縁と桃子は神田のところへ行った。
 縁は言った。
 「神田船長っ!」
 神田は立ち止まり、縁と桃子を見た。
 神田の表情はどこか穏やかで、解放された感じがあった。
 縁は絵を神田に渡した。
 「これを……」
 神田は手錠で拘束された手で、絵を受け取った。
 「ありがとうございます……」
 桃子は神田に言った。
 「笑ってるように……見えるか?」
 神田は目に涙を浮かべて言った。
 「はい……笑ってくれています」
 神田は連行され、縁と桃子はそれを見送った。
 桃子は言った。
 「終わったな……」
 縁は頭をかいた。
 「散々な船旅だったよ……」
 桃子は少し笑った。
 「フッ……私達らしくて、いいではないか……」
 縁は溜め息をついた。
 「はぁーっ、確かに……飽きない夏休みだったけど……普通に楽しみたかったよ」
 桃子は言った。
 「そう言うな……何か食べに行こう……お腹が空いた」
 縁は呆れて言った。
 「ほんとにたいした人だよ、桃子さんは……」
 桃子は笑って言った。
 「今さら何を言ってる……それより、何故あれが船長の子供の絵だとわかった?」
 「それは……一緒だったからさ」
 「一緒だった?」
 「ジジイが……家族写真を見ている時の目と、同じだったんだ……」
 桃子は意味深な表情で縁を見た。
 縁は縁はそれに気付いて、話を変えた。
 「それじゃあ……帰りますか……腹も減ったしね」
 こうして縁と桃子の船旅は終わった。
 熱くて永い船旅の1日が……終わった。
……翌日午後…喫茶店風の声……
 店内のテレビでは昨日のQueensship爆破事件の和大で持ちっきりだ。
 紅い爪爆破事件をカモフラージュした、現金輸送車の強奪計画を画策していたと、報道番組で伝えられていた。
 店主の巧はテレビを見ながらニヤニヤしている。
 縁はそんな巧を見て怪訝な表情言った。
 「何をニヤニヤしてんだ?」
 巧は嬉しそうに言った。
 「いや、面白過ぎでしょっ!いつも事件に巻き込まれてるけど、まさかこんな大きな事件まで……」
 「笑い事じゃねぇよっ!これで俺の夏休みはパアだっ!」
 巧は言った。
 「俺……思うんだけどさ……先生が事件を呼んでるんじゃなくて、縁が呼んでんじゃないの?」
 縁はカウンターにおでこを付けた。
 「んなわけねぇだろ……目立たないようにしてんのに……」
 とは言ったものの、縁もそれは感じていた。桃子ではなく、もしかしたら自分が事件を呼んでいるのではと……。
 縁は首を横に振って呟いた。
 「いやっ!ないないっ!それはないっ!」
 その時店に客が来た。
 巧は言った。
 「あっ、先生……いらっしゃい」
 店にやって来たのは桃子だった。
 桃子は店内のテレビを見て、上機嫌になった。
 「マスター、見たか?」
 巧は笑顔で言った。
 「もちろんっ!」
 桃子はニヤニヤしながら言った。
 「私の機転でこうして縁は無事に、マスターの作るアイスカフェを飲む事ができるのだ」
 縁は呟いた。
 「よく言うぜ……」
 巧は言った。
 「でも先生……これでますます有名になったね」
 桃子は胸を張った。
 「有名作家の宿命だな……」
 縁は呟いた。
 「俺は波乱を背負う宿命だ……」
 桃子は縁に言った。
 「さっきから何悲観的な事を言っている?」
 縁は言った。
 「帰国してもう2年……ジジイから解放されて……やっと普通の生活が多少できると思ったのに……」
 縁は立ち上がり力説した。
 「事件ばっかじゃねぇかっ!京都旅行も、船旅も……事件だった。あげくに船は爆発しちまうし、散々だよ」
 桃子は言った。
 「刺激的でいいじゃないか……」
 縁は言った。
 「刺激はくさる程感じてきた……」
 巧が言った。
 「つまんないよりましだろ?何も無いより何かあるほうが……いいんじゃない?」
 桃子が言った。
 「そんな刺激を求める縁に朗報だ」
 縁は言った。
 「話を聞いてたのか?俺は刺激を求めていないっ!」
 桃子は構わず言った。
 「これから昨日の事件の事で取材がある……縁も付いてこい、先方にはもう言ってある」
 縁は言った。
 「めんどくさいうえに、刺激も関係ねぇだろっ!」
 桃子は聞く耳を持たない。
 「時間が無い……行くぞっ!それに言ったろ?私とお前は運命共同体だと……」
 桃子は縁の手を引いた。
 手を引かれた縁は呟いた。
 「災難だ……」
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