OVER-DRIVE

ノベルバユーザー329392

 けっして幼少期から強かったわけではなかった。
 ガンツ一家の長男として産まれたカストロだったが……武骨な父親とは似ていなく、線の細い身体に、気弱な性格……。
 しかし父親は荒れ狂う東の空で、自慢の矛を持って空賊を凪ぎ払い、東の空を支配した。
 カストロはそんな父親に憧れ、育ち……そして強くなった。
 そしてカストロは手に入れた……父親の元で戦う力を……。
 ガンツ一家は負ける事は許されない……それは即ち空での威厳を失い、東の空で商売を出来なくなるからだ。
 カストロはロックに斬りつけられた傷で、意識が朦朧とする中……父親の背中が脳裏に浮かんだ。
 それは矛を片手に、空賊相手に立ち振る舞う……大きな背中……。
 (俺は……俺達は負けられねぇ!)
 今にもバイクから落下しそうなカストロは、目を見開き歯を喰い縛った。
 カストロは懸命に腕を伸ばし、ロックを掴んだ。
 カストロは息を吹き返したのだ……父親、家族を胸に、必死でロックの腕を掴んだのだ。
 そんなカストロにロックは目を見開いた。
 (コイツ……目が死んでねぇ!?)
 カストロは声を振り絞った。
 「マリーダッ!」
 カストロが斬られた事により、混乱していたマリーダは、カストロの必死の声で我に帰り、自分のすべき事を瞬時に理解した。
 「うわぁーーーっ!」
 マリーダは雄叫びと共に、ボーガンの矢を素手で持って、それをロックの脇腹に突き刺した。
 「ぐっ!?」
 脇腹に矢を刺されたロックは、表情を歪め、たまらずうなり声を上げた。
 「テメェも落ちろ……」
 そう言ったカストロはニヤリとしたが……意識が今にも落ちそうなカストロにとっては、苦し紛れだった。
 さすがのロックも、いきなり脇腹を刺されたために力が入らない。
 (ダメだ……踏ん張れねぇ……)
 カストロはマリーダに言った。
 「マリーダ……俺達の勝ちだ……」
 カストロはマリーダにそう言うと……ロックもろともバイクから落ちた。
 「あっ……兄貴ーーーっ!」
 ゴールまで残り数秒で、ロックとカストロは脱落した。
 ユイも叫んだ。
 「ロックーーーーッ!」
 もちろん会場のモニターで見ていたエリス達も、この状況に顔面蒼白になった。
 エリスは目を見開き涙を浮かべ、叫んだ。
 「ロックーーーーッ!」
 ジンは目を見開き、マキは両手で顔を覆っている。
 エリスは勢いよく立ち上がり、走り去った。
 ジンは走り去るエリスの背中に叫んだ。
 「エリスッ!」
 エリスは無我夢中で走った……。ロックの元へ……。
 エリスが着く頃にはレースは終ってるだろう……それでもエリスはいてもたってもいられなかった。
 あれぐらいの事でロックが死なないのはわかっている。しかし理屈ではない……エリスの中の何かがエリスを駆り立てた。
 ロックはあれぐらいの事で死なない……それはジンもわかっていたが……。
 「ロックはあれぐらいで死なないが……まずいぞ……」
 残り数秒で終わるレースは、ユイとマリーダの一騎討ちなった。
 互いに飛び道具を得意とする両者だったが……。
 「ユイが不利だわ……」
 ユイのバイクは僅にリードしていたが……マキの指摘通りユイは窮地に陥っていた。
 両者の武器は飛び道具……つまり体勢的に後方のマリーダの方が有利になる。
 さらにユイに追い討ちをかける事が……。
 (戦ってわかった。小娘は二本づつしか針を投げれない……。こっちは三本連射できる)
 マリーダの思惑通り、ユイは同時に二本投げるが……マリーダは三本連射……つまり、二本防がれても、三本目は確実に当てれる。
 「兄貴の言う通り……私達の勝ちだ」
 マリーダはボーガンをユイに構える。
 もちろんユイもそれに反応するが……。
 (やられる……)
 ユイも現状を理解していた。今の自分の力量では、ボーガンの矢凌げるのは二本までだと……。
 しかしユイは針を構えた。
 (アタシは……諦めない……)
 しかしマリーダは躊躇わずボーガンを発射した。
 ユイはそれに対抗するべく針を投げた。


 キンッキンッ!


 ボーガンの矢二本は、ユイの針に弾かれたが……。


 ズガンッ!


 三本目の矢は、バイクの後部タンクに突き刺さった。タンクからは、プシューと空気が漏れる音がしている。
 「エアが漏れたっ!?」
 ユイは険しい表情で歯を喰い縛った。
 エアの漏れたバイクはバランスを崩すが、ユイは体を使って必死に支える。
 マリーダは止めをさそうと、ボーガンを構えた。
 「次の攻撃でタンクをもう一度狙って……破裂させる。終わりだよ」
 誰の目から見ても、絶体絶命のピンチだが……ユイの目に諦めはなかった。
 「アイツ(ロック)が……体はってここまで来たんだっ!アタシが諦められるかっ!」
 ユイはこれまでのロックの戦いを見て、理屈ではなく直感で感じていた……ロックの強さの理由を……。
 (アイツは大事なモノを……仲間を、アタシを守った。だからアタシがここでやられるわけにいかないっ!)
 「もう終わったんだよっ!」
 マリーダがボーガンを構え、引き金を引く間際だった。


 『……ザザ……よく……ザザ……言った』


 確かに声がした。
 ユイは目を見開いた。
 「ロック……?……」
 確かに聞こえた……ロックの声が……。
 ユイはハッとした。胸元の通信オーブが光っていたのだ。
 その時だった。


 ガダンッ!


 マリーダのバイクが何かに引っ張られるように、バランスを崩した。
 「なっ、何だっ!?」
 ユイの通信オーブから声がした。
 『よく言ったぜっ!……クソガキッ!』
 何が起きているかわからないマリーダは、引っ張られている後部を見た。
 マリーダは目を見開いた。後部座席にワイヤーが巻かれており、それがバイクを引っ張っていたのだ。
 「まさか……あの男……落ちた時にっ!?」
 マリーダの背筋は凍りついた。
 (私に刺され……兄貴に掴まれ……その中でワイヤーを巻いたのか?)
 マリーダのバイクの後方では、両足で砂浜を踏ん張り、ワイヤーでバイクに引きずられているロックがいたのだ。
 ロックは鞘に入った刀にワイヤーをグルグル巻いて、懸命に引っ張っている。
 「クソガキ……お前の言うように……勝負は終わっちゃいねぇっ!」
 ロックは頭からと、刺された脇腹から、ダラダラと血を流していたが……笑っていた。
 「だからよ……テメェはまっすぐゴールを見据えなっ!……ユイッ!」
 ロックの言葉にユイは目に涙を浮かべたが、すぐに目前にあるゴールを睨み付けた。
 (凄いよロック……アンタは……)
 ユイはマリーダのバイクに構わず、前を向きゴールを目指した。
 マリーダはユイの行動に目を見開いた。
 「逃げ切れると思ってんのかいっ!?人一人にバイクが、止めれるわけないだろっ!……それにあの傷だっ!踏ん張ってるのがやっとだっ!」
 しかしそれでもユイは、後ろを向くことはない。
 マリーダは驚愕した。
 (バカな……信じるってのかい?……あの男を……)


 ガダンッ!


 するとさらにマリーダのバイクは引っ張られた。
 ロックは懸命にワイヤーを引っ張りながら、マリーダに叫んだ。
 「ボーガンのネェちゃんよぉっ!オメェの兄貴も気合の入った目をしてたが……」
 ロックはさらにワイヤーに力を入れた。力んだことにこり、ロックの脇腹からは、血が勢いよく噴き出した。
 しかし、それでもロックは力を緩めない……それどころかバイクはロックにどんどん引かれている。
 マリーダは必死にアクセルを回すが……。
 (手応えがないっ!……化物がぁっ!)
 「俺らは負けらんねぇんだよぉーーっ!」
 ロックはワイヤーを一本背負いし、力任せにバイクを引っ張り上げた。
 「うおおおーーーーーっ!行けぇーっ!……ユイーーッ!」
 そこには信じられない光景があった。
 一人の人間がワイヤーでバイクを引っ張り上げ、バイクが宙に舞ったのだ。
 マリーダは海に投げ出され、宙に舞ったバイクはロック目掛けて飛んできた。
 ロックは刀を鞘から抜いた。
 「オメェら……結構強かったよ……」


 ザシュッ!


 ロックは飛んできたバイクを刀で真っ二つに切断した。


 ドゴォーーーーンッ!


 真っ二つに切断されたバイクは、凄まじい爆発音を上げて、そのまま爆発した。
 ロックの少し後ろに倒れていたカストロは、意識が朦朧とする中で、ロックの後ろ姿を見ていた。
 (デケェ……小さいが……デケェ背中だ……)
 ロックがバイクを真っ二つにしたのと同時に、ユイはエアが抜けたバイクでゴールに突っ込んだ。
 ユイがゴールに突っ込むと、付近にいたギャラリー達の歓声が鳴り響いた。
 ユイはゴールしたと同時に、バイクのバランスが崩れ、バイクを乗り捨てた。
 ユイは砂浜に上手く着地し、その様子にギャラリーのボルテージはさらに上がる。
 しかしユイはそんなギャラリーを無視して、コースを走って逆走した。
 (ロック……勝ったよ。アタシ達……勝ったんだよっ!)



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