OVER-DRIVE

ノベルバユーザー329392

 ……翌朝ミドの造船所……


 昨晩宴を楽しんだロック一行は、近くの海辺に飛空挺を停泊させ、ミドを造船所まで送り届けていた。
 「師匠……後の事は任せて下さい……」
 そう言ったミドの表情は何処か晴れていた。一つ壁を乗り越えた、男の顔になっていた。
 ジンは軽く笑った。
 「いい顔になったな……。ロックにも礼を言ったか?」
 ロックは造船所でミドと少し話した後、ミドにスクーターを借りて、何処かへと行ってしまったようだ。
 ミドは頷いた。
 「さっき言いました……。ロックさんのお掛けで吹っ切る事が出来たので……」
 エリスが言った。
 「頑張ってねっ!ミド」
 「はい……エリスさんも……。見つかると良いですね……」
 エリスは笑顔で頷いた。
 「うんっ!ありがとう」
 ジンはエリスに言った。
 「さて……私はこれからもう少しミドと話すが……。エリス……君はどうする?」
 エリスは苦笑いした。
 「師弟水入らずでしょ?わたしは、買い物行ってくる……。必要な物もあるだろうから……」
 ジンはエリスに言った。
 「そうか……なら、気を付けて行くといい……。何かあれば、私が渡した麻酔銃を躊躇わず使え……」
 エリスはまたもや苦笑いした。
 「はは……物騒だね……。でもそうする……。じゃあ、また後でね……」
 エリスはそう言うと、ミドの造船所を後にした。




 ……アデル英霊墓地……


 ミドの造船所からスクーターで数分の場所……アデル20番街にある、アデル英霊墓地……。
 緑豊かな土地に造られたこの墓地は、先の戦争によって犠牲になった英霊達が、静かに眠る場所である。
 広大な敷地面積を誇る墓地の、とある墓石の前にロックはいた。
 ロックは感慨深い表情で墓石に呟いた。
 「飛ぶ事にしたよ……。お前と同じ力を持ってんだ……」
 快晴の元、涼しげな風が、まるでロックを癒すように吹いた。
 「しばらく来れなくなるからな……」
 そう言うとロックは墓石に花を添えて、立ち去ろうとした。すると誰かがロックの方にやって来た。
 ロックは目を見開いた。
 「隊長……」
 ロックの目前には、黒いドレスに身を包んだ美しい女性がいて……それは、アデルの将軍……アリエル・ノイヤーだった。
 驚きを隠せないロックに、アリエルは言った。
 「久しぶりですね、ロック・ハーネスト……。意外ですか?私がここに来るのが……」
 ロックは黙ったまま、アリエルを見据えている。
 「私もアデルの軍人です。先の戦争で犠牲になった霊英達に、敬意を払うのは当然では?」
 そう言うと、アリエルもロックを見据えた。
 お互いがお互いの目から、目線を反らさない。
 するとアリエルは軽く笑った。
 「嘘です……。日頃参拝しているのは本当ですが……今日は貴方がここにいるのを知ってて来ました」
 するとやっとロックが口を開いた。
 「そんな事だろうと思ったぜ……」
 アリエルは言った。
 「ジュノスから報告がありました。空に出るのですね?」
 ロックは再び黙った。
 アリエルは続けた。
 「貴方がアデルを出て10年……。世界は目まぐるしい程に発展しましたが……人々を脅かす驚異は、まだまだあります」
 ロックは黙って、アリエルの話を聞いている。
 「空賊による空の治安悪化……消える事のないテロリスト……。陸海空、問題を挙げればきりがありません」
 ロックは怪訝な表情をした。
 「何が言いてぇ?」
 アリエルはロックの目を見て言った。
 「空に出るのなら……もう一度世界のために、剣を振るいなさい……」
 アリエルの言葉に、ロックは一瞬目を見開いたが……すぐに笑った。
 「へっ、隊長……俺はよぉ……。世界や国のために戦った事なんざぁ……今まで一度もねぇぜ」
 アリエルの表情が険しくなった。
 ロックは言った。
 「アンタらが俺をどう利用しても、かまわねぇが……」
 ロックはアリエルに鋭い目線を送った。
 「俺の世界なかまを踏みにじるなら……アデルだろうが誰だろうが、たたっ斬るぜ」
 そう言うとロックは、アリエルに背を向けて手を挙げた。
 「抱えちまったからには、俺は守りきるぜ。そして、もう落とさねぇ……。じゃあな……」
 ロックはそう言うと行ってしまい……アリエルはロックの後ろ姿を、感慨深い表情で見ていた。
 「変わらないですね……ハーネスト……」




 ……アデル14番街……


 アデルの14番街はショッピング街だ。日用品から、食料品等様々な物がここでは購入できる。
 昼間なので14番街は多くの人でにぎわっていた。
 「ちょっと買いすぎちゃったかなぁ……。でもこれくらいは必要よね」
 エリスは両手に大きな紙袋等を抱え、とても歩きそうにしていた。
 するとエリスの背後から、ビッビーとブザー音が響いた。
 「エリスじゃねぇか……」
 「あっ、ロック……」
 そこには白いスクーターに乗ったロックがいた。
 「ばぁさんの店行くけど……一緒に行くか?」
 「ばぁさんって……『集い』?行く行くっ!」
 ロックはエリスにスクーターの後ろに乗るように言った。
 「後ろに乗れよ……」
 エリスはスクーターの前のカゴに、荷物を詰めるだけ詰めて、残りの荷物は自分で持って、スクーターの後ろに乗った。
 スクーターを発進させたロックは、上手に人混みを縫うように、進んでいく。
 古いスクーターのエンジン音に、声がかき消されないよう、エリスは大声で言った。
 「ねぇっ!ロックッ!」
 ロックも負けじと大声で答えた。
 「何だよっ?」
 「何処に行ってたのっ?」
 ロックは軽く笑った。
 「ちょっとした挨拶だよっ!」




 ……アデル13番街…Bar集い……


 ロックとエリスは、開店前の『集い』のカウンター席で、それぞれ飲物を飲んでいた。
 エリスはアイスティー、ロックはアイスコーヒーと……。
 「寂しくなるねぇ……。こんなろくでなしでも、いざ居なくなると思うと……寂しいもんさ」
 感慨深い表情のマスターに、ロックは軽く笑った。
 「へっ……ろくでなしで悪かったなぁ……。心配しなくても、また来てやるよ……」
 マスターも軽く笑った。
 「はっ……当たり前さ……。アンタにゃしっかり、ツケを払ってもらわないと、いけないからねぇ……」
 「ケッ……口の減らねぇばぁさんだ……」
 そう言うとロックは立ち上がった。
 「じゃあな、ばぁさん……。俺が戻るまで、死ぬんじゃねぇぞ。ツケがきく店はここしかねぇからな……」
 「アンタも……気を付けて行ってきな……」
 するとエリスも立ち上がった。エリスは今にも泣きそうな顔をしている。
 ロックはそんなエリスを見て、先に歩いた。
 「外で待ってるからよ……」
 ロックは店の外に出ていき、店内にはエリスとマスターだけになった。
 マスターは苦笑いした。
 「なんだい?情けない顔して……。アンタの旅に希望が見えたんだ。笑顔で行きな……」
 マスターの優しい言葉に、エリスはポロポロと涙を流した。
 「うっ……マスター……」
 マスターはエリスを優しく抱きしめた。
 「いつでも……あのバカ連れて帰ってきな……。ここはアンタの家みたいなもんさ」
 「うっ……マスター……あり、ありがとう……。うわぁーんっ!」
 大声で泣き出したエリスの顔は、涙でくしゃくしゃになった。



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