OVER-DRIVE

ノベルバユーザー329392

 ……一方のロックは……


 「前に来た時と違うっ……」
 ……迷っていた。
 ジュノスの言う通り、別れ道で行き違いになったようだ。
 爆発音や瓦礫などで、隠し階段は騒然としていた。
 「これじゃあもどるに戻れねぇ……」
 ロックはとにかく進むことにしたが……すぐに行き止まりに、突き当たった。
 後ろは瓦礫で引き返せない……ロックは閉じ込められてしまった。
 「体はボロボロ……後ろは瓦礫……あちこちで爆発音……。かなりヤベェな……」
 ロックが焦りの表情をすると、すぐ近くでまたもや爆音が鳴った。
 「近い……ここもヤベェな……」
 するとその爆発の衝撃で、横の壁が崩れ、新しい通路が現れた。正規の通路だった。
 ロックはすかさずその通路に飛び込み、走って前を急いだ。
 「ラッキーッ!でも、急がねぇと……。アイツらは無事なのか?」
 ロックはひたすら通路を突き進んだ。




 その頃飛空挺は、研究所から少し離れたところで、空中で待機していた。
 豪快なプロペラ音が、美しい空に響き渡る。
 研究所が崩れていく様子を、エリスは甲板からただ見ていた。
 「ロックは?無事なの?」
 燃え盛る研究所に、今にも崩れそうな岬……崩壊するのは時間の問題だ。
 するとジンが甲板に現れた。
 「ガゼルとジュノスは脱出したようだ……。見てみろ」
 ジンはそう言うと、エリスに双眼鏡を手渡した。
 エリスは双眼鏡を使い、燃え盛る研究所を覗いてみた。
 研究所の入口から、だいぶ離れた所に、黒服の人間が二人いる……おそらくガゼルとジュノスだろう……。しかしそこにロックの姿はない。
 エリスは双眼鏡を目から離し、顔面蒼白になった。
 「ロックは……ロックはまだ?」
 ジンは険しい表情をした。
 「おそらくな……。ロックがガゼルにやられたとは……考えにくい……。ならば、ロックはまだ研究所にいる可能性が高い」
 エリスはその場で項垂れた。
 「そっ、そんな……」
 ジンはエリスの肩を叩いた。
 「ここは危険だ……。我々も離れないと、巻き込まれる……。今はロックを信じるしかない……」
 エリスは涙を流した。
 「ロック…………!?……」
 その時エリスは確かに見た……いや感じたのだ。崩壊しそうな岬から、光が発せられたのだ。
 エリス涙を拭い、立ち上がって双眼鏡を覗いた。
 すると……今にも崩れそうな飛空挺ドッグのハッチから、懐中電灯を振り回しているロックが、確かにいたのだ。
 「ロック……」
 エリスがそう呟くと、ジンは目を見開いた。
 「何っ!?エリスッ!双眼鏡を……」
 ジンはエリスから双眼鏡を奪って、覗いてみた。そこには確かにロックがいて、背中に大きな鉄板を抱え、右手に板のような物を抱えている。
 「あれは……エアボードか?……なるほど、そういう事か……」
 ジンは双眼鏡をエリスに投げ渡して、急いで操縦室に向かった。
 「どういう事っ!?」
 エリスがそうジンに呼び掛けると、ジンは答えた。
 「ロックはエアボードと、研究所の爆風を利用して、飛空挺に飛び移る気だっ!飛空挺を岬ギリギリまで付けるっ!ロックを受け入れる準備をしろっ!」
 ジンはそう言うと、急いで操縦室に向かった。
 今にも崩れそうな岬の研究所ハッチから、懐中電灯を必死で振り回しているロックは、飛空挺が自分に気が付く事を信じて、只々懐中電灯を振り回している。
 「頼む……気付いてくれ……」
 焦った表情のロックは、傷の痛みと、時間の無さに、何ともいえない表情だ。
 目の前は断崖絶壁、後ろは火の海……この状況で焦らない方がどうかしている。
 すると飛空挺に動きがあった。飛空挺は方向転換し、確かにこちらに近づいてくる。
 ロックは一瞬安堵感に包まれたが、すぐに真剣な表情をした。
 「よし……なんとか気付いてくれたか……。でも、こっからが問題だ……」
 ロックは抱えていたエアボードを、床に置いた。浮遊石を板状に加工して造られたエアボードは、空を自在に飛べる代物ではない。
 あくまでもストリートの娯楽道具で、断崖から空に向かって飛ぶなど不可能だ。
 「エアボードだけじゃ、飛空挺に飛び乗れねぇが……ここの爆風を利用すれば……」
 ロックはそう言うと、大きなオイル缶を数個、後方に置いて、体位大きい鉄板を背中に背負った。
 片にフック付きのワイヤーを担ぎ、エアボードのスウィッチを入れた。
 少し浮遊したエアボードの上に乗って、背後のオイル缶に火が引火するのを待った。
 飛空挺が岬までの距離を10mまですると……その時はすぐに来た。


 ボォカァーーーーンッ!


 オイル缶から発せられたは爆炎が、ロックの鉄板に襲い掛かる……。エアボードに乗ったロックは、爆炎に押されるように、ハッチから外へ飛び出した。
 背中で鉄板を抑えながら、爆風を利用して空中で必死にバランスをとる。
 凄まじい威力の爆風は、油断するとバランスを崩し、ロックを海に投げ出すだろう。
 やがて爆風は弱まり、ロックは鉄板を海に投げ捨てる。このまま鉄板を持っていると、風の抵抗で減速してしまうからだ。
 ロックは夜空に叫んだ。
 「行っけぇーーーっ!」
 月明かりの夜空で、ロックは飛んだ……。
 月明かりの影響で、ロックの姿は影画になり、その姿は何処か神秘的だった。
 飛空挺の甲板でロックを待っていたエリスは、目を見開いてロックに見とれていた。
 飛空挺が目前まで迫ると、ロックは担いでいたワイヤーを、飛空挺目掛けて投げた。
 ワイヤーの先端のフックは、勢いよく甲板の柵に絡み付いた。
 ロックはエアボードから足を離して、ワイヤーに自分の身を委ねた。
 エアボードは不規則な軌道で海に落下していく。
 ワイヤーを使い、飛空挺にぶら下がったロックは、大きく息をした。
 「ふぅーーっ……間一髪……」
 ロックが上を見ると、エリスが顔を覗かせている。
 「ロックーーッ!」
 ロックはエリスに叫んだ。
 「今上がるっ!」
 ロックはワイヤーを伝って、上に登っていった。
 甲板まで上がり、柵に手を掛けると……エリスが手を差し出した。
 「ほんと……無茶なんだから……」
 エリスは涙目だったが、笑顔でロックを迎えた。
 ロックは軽く微笑んだ。
 「へっ……でも、ちゃんと戻って来たぜ……」
 ロックはエリスの手を、ガッシリ握った。
 「おかえりなさい……ロック……」




 一方無事に脱出したガゼルとジュノスは、研究所から少し離れた場所で、研究所が崩壊していくのを眺めていた。
 ジュノスは立って腕組みをし、ガゼルは座り込んでいる。
 ジュノスは言った。
 「ロック先輩……ヤッパやりますねぇ……」
 ガゼルは憮然な表情で言った。
 「何が言いたい?」
 ジュノスは不敵に笑った。
 「プッ……だって先輩……ボロボロじゃねぇですかい……」
 ガゼルはジュノスを睨み付けた。
 「喧嘩売ってんのか?お前……」
 ジュノスは両手を前につき出した。
 「おぉー、恐い……。やだなぁ、売るわけないでしょ……エージェント同士の私闘は厳禁ですぜぃ……」
 ガゼルは吐き捨てた。
 「ケッ……だったら黙ってやがれ……」
 ジュノスは話を代えた。
 「で?どう報告するんです?」
 「ジンは白だったって……そう報告するよ……」
 「それもそうですが……ロック先輩とジン博士……国外出ちゃいますよ?」
 ガゼルは険しい表情をした。
 「奴等の動きが……アデルに仇なすなら……。潰すしかねぇな……」
 ジュノスは苦笑いした。
 「当分……監視対象ですねぇ……」




 脱出に成功したロック一行は、研究所から離れた海の上空で停滞していた。
 甲板に横たわっていたロックは、エリスの不思議な力によって、傷が殆ど癒えていた。
 その光景を、ジンは目を見開いて眺めていた。
 「まったく……驚かされるな……」
 流石のジンも、エリスの力に驚いた様子だ。
 ロックはすっかり傷が癒えて、勢いよく立ち上がった。
 「よっと……サンキュー、エリス……」
 エリスは大きく息を吐いた。
 「ふぅーっ……どういたしまして……」
 エリスは少し疲れた表情をしていた。
 ジンは言った。
 「その力……使うと疲れるのか?」
 「少しだけなら……どうって事ないけど……。こんなボロボロじゃね……」
 ロックはバツの悪そうな表情をした。
 「すまねぇ……」
 ジンが言った。
 「その力……傷以外……つまり病気は?それと自分は治せるのか?」
 エリスは首を横に振った。
 「病気は治せない……後、骨折とか、内臓の損傷は治せない……。そして自分も治せない……」
 ジンは呟いた。
 「ロックがエリスの旅に付き合ったのは……これが大きいようだな……」
 エリスはジンに言った。
 「何か言った?」
 ジンは軽く微笑んだ。
 「いや……何でもない……。それよりこれからどうする?」
 ロックは言った。
 「そりゃあ……この船で飛び回って……エリスの国を探すんだろ?」
 ジンは呆れた様子で言った。
 「目的地をある程度決めて行動しないと……効率が悪い……」
 エリスが言った。
 「後……お金もないよ……」
 ロックは渋い表情をした。
 「因みに俺は、金はねぇぞ」
 エリスは呆れた様子で言った。
 「誰も期待してないってのっ……」
 ジンが言った。
 「南の『エスパドール』を目指そう……」
 エリスは目を丸くした。
 「エスパドール?」
 ロックが言った。
 「『砂の都』……新大陸の発見や、秘境の調査に力を入れている、アデルの勢力圏の最南端の地域だ」
 ジンが言った。
 「資金のない我々には……スポンサーが必要だ」
 ロックは納得した様子で言った。
 「なるほどな……エスパドールと、俺達の旅の目的の利害が一致すりゃ……」
 エリスが言った。
 「お金を出してくれる……」
 ロックは軽く笑った。
 「へっ……何か楽しくなりそうじゃねぇの?」
 ジンが言った。
 「エスパドールに到着するまでは……それまでの地域で、金になりそうな仕事をする……」
 エリスはニコリと微笑んだ。
 「じゃあさぁ……とりあえず乾杯しない?」
 ロックは言った。
 「いいねぇ……ハイボールはあんのか?」
 ジンが言った。
 「ではミドも入れて……細やかながら、新しい船出に乾杯するか……」


 空に憧れた男は、翼を手に入れ……国を求める女は、希望を見いだし……技術を極めんとする男は、自分の技術を証明するために、男に翼を渡した。


 それぞれの目標のために……空を飛ぼうとしていた。



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