OVER-DRIVE

ノベルバユーザー329392

 ロックとガゼルは互いに睨み合い、一定の距離を保っている。
 ガゼルは悪どい笑顔でロックに言った。
 「久しぶりだなぁ……ハーネスト……。こんな所で会うとは……今日は運がいい……」
 ロックは憮然とした表情で言った。
 「俺はテメェの下品な面なんて、見たくなかったよ……。んで?ジンに何の用だよ?」
 「国家転覆の嫌疑だ……。これ以上は言えねぇ……」
 「ジンがそんな事をしねぇのは……テメェも知ってんだろ?」
 ガゼルはニヤリとした。
 「拘束すりゃあわかる……。もちろんお前にも来てもらうぜ……ハーネスト……」
 ガゼルはそう言うと、ロックに向かって戦闘体制をとった。
 ロックは刀を抜いた。
 「俺が「はいそうでか」と言うとでも、思ってんのか?」
 ガゼルは不敵に笑った。
 「納得してもらっちゃあ……困るぜ……。俺はお前とりたくて、ウズウズしてんだ……」
 ロックの登場によって、エリスの表情には少し余裕の色が表れた。
 「ジン博士……ロックが来たから、もう安心よね?」
 ジンは渋い表情をしている。
 「どうだろうな?」
 エリスは怪訝な表情をした。
 「えっ?」
 ロックに向かっているガゼルは、ロックとの間合いを詰めながら言った。
 「現在いまのお前が……どれ程弱ぇか……俺が確かめてやる」
 ガゼルの言葉にエリスの表情は険しくなった。
 (弱い?あのロックが?)
 ロックはミドに耳打ちした。
 「ミド……俺がアイツに突っ込むと同時に、ジンの所へ行け……」
 ミドは情けない表情になった。
 「えっ?そんな……怖いです……」
 「言ってる場合かっ……オメェが行かねぇと、俺達の飛空挺は飛ばねぇぞ……」
 ミドは目を丸くした。
 「俺達の……ロックさん……」
 「じゃあ後はヨロシクなっ……」
 ロックはそう言うと同時に、ガゼルに飛び込んだ。ミドも勢いよく走りだし、ジンとエリスの位置を目指したが……。
 ロックの刀と、ガゼルのトンファーが勢いよくつばぜり合ったが……ガゼルは難なくロックの刀を弾き飛ばした。
 「遅ぇーっ!」
 ガゼルはそう叫ぶと、もう片方のトンファーで、ロックの左こめかみを狙い撃ちした。
 ロックは勢いよく吹っ飛んでいき、コテージの食器棚に勢いよくぶつかった。
 ガッシャーーンッという轟音がコテージに響き渡った。
 ガゼルはロックを吹っ飛ばしたトンファーを、クルクル回した。
 「頭蓋骨が砕けたかぁ?」
 ロックはバラバラになった食器棚に埋もれて動かない。
 エリスは悲痛な面持ちで叫んだ。
 「ロックーーッ!」
 「へっ、呆気ねぇ……。さてと……」
 ガゼルはミドを見据えた。
 ミドはロックが吹っ飛んでいったショックで、足を止めてしまった。
 ガゼルはミドに詰め寄った。
 「諦めな……」
 ミドは泣きそうな表情になっている。
 (ロックさん……師匠……)
 するとガゼルの後頭部目掛けて、コーヒーカップが飛んできた。
 ガゼルはニヤリとして、コーヒーカップを弾き飛ばした。
 「しゃらくせぇーっ!……!?……」
 カップを弾き飛ばしたガゼルは、目を見開いた。
 カップを弾き飛ばしたガゼルの懐に、いつの間にかロックが入ってきたのだ。
 (コイツッ!……速ぇっ!)
 「うおらぁーーーっ!」
 ロックは下方から、ガゼルの喉を目掛けて刀を振り上げた。
 ガゼルは焦った表情をした。
 (斬られる……チィーッ!)
 ガキィィィィンッ!
 凄まじい音と同時に、今度はガゼルが吹っ飛んだ。
 エリスはなんとも言えない複雑な表情で叫んだ。
 「ロックッ!」
 しかしエリスはすぐに目を見開いた。ロックは頭から血を流し、左うでに大きな痣が出来ていて、そこからもダラリと血が流れている。
 ロックの表情は苦痛で歪んでいた。
 (野郎……間一髪トンファーで防ぎやがった……)
 するとガゼルはすぐに立ち上がった。
 「案外やるじゃねぇか……俺のトンファーを咄嗟に、その左腕で防いだか……。流石は俺達と同じ、元『アデル十傑』……」
 ガゼルの言葉にエリスは目を見開いた。
 (ロックも……あの人と同じ……)
 ガゼルはエリスを見てニヤリとした。
 「あの女……お前の連れみたいだが……。何も知らないみたいだなぁ……」
 ロックの表情は険しくなった。
 ガゼルは続けた。
 「何百、何千の敵を斬り殺した……その返り血を浴びた姿は……まさに人を喰らう鬼……」
 ガゼルはトンファーを振りかぶって襲い掛かった。
 「なぁっ!人喰いの蒼鬼そうきさんよぉ!」
 ロックはガゼルのトンファーを刀でかわし、もう一本のトンファーの二撃目を、体をのけ反らせ、上手くかわした。
 ロックは大声で言った。
 「エリスッ!ミドとジンを連れてさっさと行けっ!」
 エリスは不安そうな表情で言った。
 「で……でもっ!」
 するとジンが言った。
 「ここはロックに任せよう……私達はやるべき事をやるぞ……ミドッ!」
 「はっ、はいっ!」
 ジンはロックに言った。
 「ロックッ!先に飛空挺で待ってるぞっ!」
 ジンがそう言うと、三人は飛空挺ドッグへ向かった。
 「飛空挺だぁ?行かせるかよぉっ!」
 ガゼルはトンファーを三人に向かって投げようとしたが、すかさずロックがそれを刀で弾いた。
 ガゼルは弾かれたトンファーを、ジャンピングキャッチし、ロックを睨んだ。
 「ハーネスト……テメェーッ!」
 ロックはニヤリとした。
 「俺と闘り合いながら……アイツらを追えるかよっ!」
 ガゼルは激昂した。
 「ぶっ潰してやるよっ!」
 「やってみやがれっ!」
 ロックの刀と、ガゼルのトンファーが、再び激しく衝突した。




 コテージの裏側に出た三人は、隠し階段に入って、走って飛空挺ドッグに向かった。
 走りながらエリスは、ジンに言った。
 「あの二人……なんなわけ?……仲悪いの?」
 ジンは表情を変えることなく言った。
 「ガゼルはただの戦闘凶だ……。そんな奴にとって、ロックは格好の獲物だ」
 エリスは理解に苦しんだ表情をした。
 「意味がわかんない……」
 ジンは言った。
 「ガゼルは昔からずっと、ロックと闘いたかったのさ……しかし十傑同士の私闘は禁じられていた……」
 ミドが言った。
 「そうか……ロックさんは、もうアデルの軍人じゃない……」
 ジンは走りながら頷いた。
 「そうだ……。ガゼルからすれば、これで心置きなくロックと闘れるわけだ……」
 エリスは困り果てた表情になった。
 「見たままの危ない奴じゃないっ!」
 ジンは言った。
 「我々も……うかうかしてられない……」
 エリスが言った。
 「どういう意味?」
 「アデルのエージェントは二人一組で行動する」
 エリスとミドは揃って嫌な予感がした。
 ジンは言った。
 「つまり、ガゼルとは別の奴が、我々を追ってくるはずだ……」
 「何でそんな冷静なわけ?」
 エリスとミドは揃って泣きそうな表情になった。
 ジンは二人に言った。
 「通路に細工をしておいた……少しは時間稼ぎが出来るはずだ。急ぐぞ……」
 三人はとにかくひたすら階段を降りて、飛空挺を目指した。
 するとコテージの屋根の上では、もう一人のアデルのエージェント……ジュノスが、隠し階段に入っていく三人を見ていた。
 「行くとしますかねぇ……」




 一方コテージでは、ロックとガゼルの激しい攻防が繰り広げられていた。
 最初は防戦一方だったロックだったが……徐々に互角の闘いまで持ってきていた。
 ガゼルがロックの頬にトンファーを喰らわすと、ロックはガゼルの胸に斬り傷を付ける……。
 ロックがガゼルの方を斬り付けると、ガゼルがロックの脇腹にトンファーを喰らわす……。
 まさに一進一退の闘いが続いていた。
 余裕だったガゼルの表情も険しくなる。
 (コイツ……さっきまでの戦闘勘の鈍さが……無くなってやがる)
 ロックは勢いよく上段から、刀を振り下ろした。
 ガゼルは二本のトンファーで刀を受け止めた。
 (俺と闘ううちに、戦闘勘が戻ってきやがったか……)
 「うおぉーーっ!」
 ロックは、刀を両手で防いだ事によって、がら空きになったガゼルの腹に、蹴りを入れた。
 「ぐおっ!」
 蹴りをまともに喰らったガゼルは、後方に吹っ飛んだ。
 「がはっ!」
 ロックもダメージが蓄積しているようで、刀を使って体を支えている。
 二人は共に満身創痍で、口や頭から血を流し、今にも倒れそうだ。
 するとガゼルは、フラフラと立ち上がり、ロックに言った。
 「はぁ、はぁ……どうやらここまでのようだな……」
 ロックも言った。
 「はぁ……みてぇだな……はぁ、はぁ……来客だ……」
 二人が言うように、コテージの玄関には、男が一人立っていた。ミドの造船所にいたタキシードの男だった。
 ロックは顔をしかめた。
 「アイツは……はぁ、はぁ……」
 「はぁ……知ってんのか?……はぁ……」
 ガゼルがそう言うと、ロックは頷いた。
 「ああ……ジンの勧誘に来てた奴だ……。断られたけどよぉ……」
 ガゼルは憮然とした表情になった。
 「チッ……そう言う事か……」
 ロックは不機嫌な表情をした。
 「一人で納得してんなっ!どういうこった?」
 タキシードの男は二人を見てニヤニヤしている。
 ガゼルは言った。
 「奴は朧の回し者だ……」
 明らかにロックの表情は変わった。
 「朧……だと……!?」
 タキシードの男は二人に言った。
 「昼間はどうも……そちらの方は存じませんが……」
 ガゼルは言った。
 「アデルのもんだよ……ノコノコこんな所までやって来やがってよ……何の用だ?」
 「政府の犬ですか……。いやぁねっ……協力出来ないのなら……消してしまおうと思いましてね……」
 男がそう言うとコテージ内に、頭から足まで黒装束の連中が、ゾロゾロと入ってきた。その数は凡そ20名程だ。
 ロックは言った。
 「逆らう奴は消すか……相変わらずクソな連中だ……。でもこれでジンが無実だってわかったろ?」
 ガゼルは不機嫌な表情をした。
 「ケッ……まぁなぁ……」
 男は言った。
 「満身創痍が……えらく余裕ですね……。心配せずとも、隠し階段にも部隊を送りました。仲良く皆であの世に送って差し上げます」
 男の言葉にロックは焦った表情をしたが、ガゼルがすぐにロックに言った。
 「安心しろ……向こうはジュノスが行ってる」
 「ジュノス?……オメェ、アイツと組んでんのか?」
 「ケッ……好きで組むかよ……。それよりハーネスト、提案だ……。この喧嘩のルールのよぉ」
 「奇遇だねぇ……俺も提案しようと思ってたんだよ……」
 「ケッ……お前もか……気に入らねぇ……」
 ロックは軽く笑った。
 「なぁに……簡単な提案だよ……。こっからはバトルロワイアルと行こうじゃねぇか……」
 ガゼルはニヤリとした。
 「つまり、お前も含めて……ここにいる奴、全員をぶち殺せばいいわけだ……」
 ロックもニヤリとした。
 「そういうこった……。自分以外の奴を皆殺しにする。簡単だろ?」
 ガゼルは笑った。
 「ハハハハハハッ!」
 ロックも笑った。
 「ハハハハハハッ!」
 その光景を見ていた男は、怒りの表情をした。
 「死に損ないがぁっ!ぶち殺せぇーっ!」
 黒装束が二人に、一斉に襲い掛かった。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品