OVER-DRIVE
①
 ロックとガゼルは互いに睨み合い、一定の距離を保っている。
 ガゼルは悪どい笑顔でロックに言った。
 「久しぶりだなぁ……ハーネスト……。こんな所で会うとは……今日は運がいい……」
 ロックは憮然とした表情で言った。
 「俺はテメェの下品な面なんて、見たくなかったよ……。んで?ジンに何の用だよ?」
 「国家転覆の嫌疑だ……。これ以上は言えねぇ……」
 「ジンがそんな事をしねぇのは……テメェも知ってんだろ?」
 ガゼルはニヤリとした。
 「拘束すりゃあわかる……。もちろんお前にも来てもらうぜ……ハーネスト……」
 ガゼルはそう言うと、ロックに向かって戦闘体制をとった。
 ロックは刀を抜いた。
 「俺が「はいそうでか」と言うとでも、思ってんのか?」
 ガゼルは不敵に笑った。
 「納得してもらっちゃあ……困るぜ……。俺はお前と闘りたくて、ウズウズしてんだ……」
 ロックの登場によって、エリスの表情には少し余裕の色が表れた。
 「ジン博士……ロックが来たから、もう安心よね?」
 ジンは渋い表情をしている。
 「どうだろうな?」
 エリスは怪訝な表情をした。
 「えっ?」
 ロックに向かっているガゼルは、ロックとの間合いを詰めながら言った。
 「現在のお前が……どれ程弱ぇか……俺が確かめてやる」
 ガゼルの言葉にエリスの表情は険しくなった。
 (弱い?あのロックが?)
 ロックはミドに耳打ちした。
 「ミド……俺がアイツに突っ込むと同時に、ジンの所へ行け……」
 ミドは情けない表情になった。
 「えっ?そんな……怖いです……」
 「言ってる場合かっ……オメェが行かねぇと、俺達の飛空挺は飛ばねぇぞ……」
 ミドは目を丸くした。
 「俺達の……ロックさん……」
 「じゃあ後はヨロシクなっ……」
 ロックはそう言うと同時に、ガゼルに飛び込んだ。ミドも勢いよく走りだし、ジンとエリスの位置を目指したが……。
 ロックの刀と、ガゼルのトンファーが勢いよくつばぜり合ったが……ガゼルは難なくロックの刀を弾き飛ばした。
 「遅ぇーっ!」
 ガゼルはそう叫ぶと、もう片方のトンファーで、ロックの左こめかみを狙い撃ちした。
 ロックは勢いよく吹っ飛んでいき、コテージの食器棚に勢いよくぶつかった。
 ガッシャーーンッという轟音がコテージに響き渡った。
 ガゼルはロックを吹っ飛ばしたトンファーを、クルクル回した。
 「頭蓋骨が砕けたかぁ?」
 ロックはバラバラになった食器棚に埋もれて動かない。
 エリスは悲痛な面持ちで叫んだ。
 「ロックーーッ!」
 「へっ、呆気ねぇ……。さてと……」
 ガゼルはミドを見据えた。
 ミドはロックが吹っ飛んでいったショックで、足を止めてしまった。
 ガゼルはミドに詰め寄った。
 「諦めな……」
 ミドは泣きそうな表情になっている。
 (ロックさん……師匠……)
 するとガゼルの後頭部目掛けて、コーヒーカップが飛んできた。
 ガゼルはニヤリとして、コーヒーカップを弾き飛ばした。
 「しゃらくせぇーっ!……!?……」
 カップを弾き飛ばしたガゼルは、目を見開いた。
 カップを弾き飛ばしたガゼルの懐に、いつの間にかロックが入ってきたのだ。
 (コイツッ!……速ぇっ!)
 「うおらぁーーーっ!」
 ロックは下方から、ガゼルの喉を目掛けて刀を振り上げた。
 ガゼルは焦った表情をした。
 (斬られる……チィーッ!)
 ガキィィィィンッ!
 凄まじい音と同時に、今度はガゼルが吹っ飛んだ。
 エリスはなんとも言えない複雑な表情で叫んだ。
 「ロックッ!」
 しかしエリスはすぐに目を見開いた。ロックは頭から血を流し、左うでに大きな痣が出来ていて、そこからもダラリと血が流れている。
 ロックの表情は苦痛で歪んでいた。
 (野郎……間一髪トンファーで防ぎやがった……)
 するとガゼルはすぐに立ち上がった。
 「案外やるじゃねぇか……俺のトンファーを咄嗟に、その左腕で防いだか……。流石は俺達と同じ、元『アデル十傑』……」
 ガゼルの言葉にエリスは目を見開いた。
 (ロックも……あの人と同じ……)
 ガゼルはエリスを見てニヤリとした。
 「あの女……お前の連れみたいだが……。何も知らないみたいだなぁ……」
 ロックの表情は険しくなった。
 ガゼルは続けた。
 「何百、何千の敵を斬り殺した……その返り血を浴びた姿は……まさに人を喰らう鬼……」
 ガゼルはトンファーを振りかぶって襲い掛かった。
 「なぁっ!人喰いの蒼鬼さんよぉ!」
 ロックはガゼルのトンファーを刀でかわし、もう一本のトンファーの二撃目を、体をのけ反らせ、上手くかわした。
 ロックは大声で言った。
 「エリスッ!ミドとジンを連れてさっさと行けっ!」
 エリスは不安そうな表情で言った。
 「で……でもっ!」
 するとジンが言った。
 「ここはロックに任せよう……私達はやるべき事をやるぞ……ミドッ!」
 「はっ、はいっ!」
 ジンはロックに言った。
 「ロックッ!先に飛空挺で待ってるぞっ!」
 ジンがそう言うと、三人は飛空挺ドッグへ向かった。
 「飛空挺だぁ?行かせるかよぉっ!」
 ガゼルはトンファーを三人に向かって投げようとしたが、すかさずロックがそれを刀で弾いた。
 ガゼルは弾かれたトンファーを、ジャンピングキャッチし、ロックを睨んだ。
 「ハーネスト……テメェーッ!」
 ロックはニヤリとした。
 「俺と闘り合いながら……アイツらを追えるかよっ!」
 ガゼルは激昂した。
 「ぶっ潰してやるよっ!」
 「やってみやがれっ!」
 ロックの刀と、ガゼルのトンファーが、再び激しく衝突した。
 コテージの裏側に出た三人は、隠し階段に入って、走って飛空挺ドッグに向かった。
 走りながらエリスは、ジンに言った。
 「あの二人……なんなわけ?……仲悪いの?」
 ジンは表情を変えることなく言った。
 「ガゼルはただの戦闘凶だ……。そんな奴にとって、ロックは格好の獲物だ」
 エリスは理解に苦しんだ表情をした。
 「意味がわかんない……」
 ジンは言った。
 「ガゼルは昔からずっと、ロックと闘いたかったのさ……しかし十傑同士の私闘は禁じられていた……」
 ミドが言った。
 「そうか……ロックさんは、もうアデルの軍人じゃない……」
 ジンは走りながら頷いた。
 「そうだ……。ガゼルからすれば、これで心置きなくロックと闘れるわけだ……」
 エリスは困り果てた表情になった。
 「見たままの危ない奴じゃないっ!」
 ジンは言った。
 「我々も……うかうかしてられない……」
 エリスが言った。
 「どういう意味?」
 「アデルのエージェントは二人一組で行動する」
 エリスとミドは揃って嫌な予感がした。
 ジンは言った。
 「つまり、ガゼルとは別の奴が、我々を追ってくるはずだ……」
 「何でそんな冷静なわけ?」
 エリスとミドは揃って泣きそうな表情になった。
 ジンは二人に言った。
 「通路に細工をしておいた……少しは時間稼ぎが出来るはずだ。急ぐぞ……」
 三人はとにかくひたすら階段を降りて、飛空挺を目指した。
 するとコテージの屋根の上では、もう一人のアデルのエージェント……ジュノスが、隠し階段に入っていく三人を見ていた。
 「行くとしますかねぇ……」
 一方コテージでは、ロックとガゼルの激しい攻防が繰り広げられていた。
 最初は防戦一方だったロックだったが……徐々に互角の闘いまで持ってきていた。
 ガゼルがロックの頬にトンファーを喰らわすと、ロックはガゼルの胸に斬り傷を付ける……。
 ロックがガゼルの方を斬り付けると、ガゼルがロックの脇腹にトンファーを喰らわす……。
 まさに一進一退の闘いが続いていた。
 余裕だったガゼルの表情も険しくなる。
 (コイツ……さっきまでの戦闘勘の鈍さが……無くなってやがる)
 ロックは勢いよく上段から、刀を振り下ろした。
 ガゼルは二本のトンファーで刀を受け止めた。
 (俺と闘ううちに、戦闘勘が戻ってきやがったか……)
 「うおぉーーっ!」
 ロックは、刀を両手で防いだ事によって、がら空きになったガゼルの腹に、蹴りを入れた。
 「ぐおっ!」
 蹴りをまともに喰らったガゼルは、後方に吹っ飛んだ。
 「がはっ!」
 ロックもダメージが蓄積しているようで、刀を使って体を支えている。
 二人は共に満身創痍で、口や頭から血を流し、今にも倒れそうだ。
 するとガゼルは、フラフラと立ち上がり、ロックに言った。
 「はぁ、はぁ……どうやらここまでのようだな……」
 ロックも言った。
 「はぁ……みてぇだな……はぁ、はぁ……来客だ……」
 二人が言うように、コテージの玄関には、男が一人立っていた。ミドの造船所にいたタキシードの男だった。
 ロックは顔をしかめた。
 「アイツは……はぁ、はぁ……」
 「はぁ……知ってんのか?……はぁ……」
 ガゼルがそう言うと、ロックは頷いた。
 「ああ……ジンの勧誘に来てた奴だ……。断られたけどよぉ……」
 ガゼルは憮然とした表情になった。
 「チッ……そう言う事か……」
 ロックは不機嫌な表情をした。
 「一人で納得してんなっ!どういうこった?」
 タキシードの男は二人を見てニヤニヤしている。
 ガゼルは言った。
 「奴は朧の回し者だ……」
 明らかにロックの表情は変わった。
 「朧……だと……!?」
 タキシードの男は二人に言った。
 「昼間はどうも……そちらの方は存じませんが……」
 ガゼルは言った。
 「アデルのもんだよ……ノコノコこんな所までやって来やがってよ……何の用だ?」
 「政府の犬ですか……。いやぁねっ……協力出来ないのなら……消してしまおうと思いましてね……」
 男がそう言うとコテージ内に、頭から足まで黒装束の連中が、ゾロゾロと入ってきた。その数は凡そ20名程だ。
 ロックは言った。
 「逆らう奴は消すか……相変わらずクソな連中だ……。でもこれでジンが無実だってわかったろ?」
 ガゼルは不機嫌な表情をした。
 「ケッ……まぁなぁ……」
 男は言った。
 「満身創痍が……えらく余裕ですね……。心配せずとも、隠し階段にも部隊を送りました。仲良く皆であの世に送って差し上げます」
 男の言葉にロックは焦った表情をしたが、ガゼルがすぐにロックに言った。
 「安心しろ……向こうはジュノスが行ってる」
 「ジュノス?……オメェ、アイツと組んでんのか?」
 「ケッ……好きで組むかよ……。それよりハーネスト、提案だ……。この喧嘩のルールのよぉ」
 「奇遇だねぇ……俺も提案しようと思ってたんだよ……」
 「ケッ……お前もか……気に入らねぇ……」
 ロックは軽く笑った。
 「なぁに……簡単な提案だよ……。こっからはバトルロワイアルと行こうじゃねぇか……」
 ガゼルはニヤリとした。
 「つまり、お前も含めて……ここにいる奴、全員をぶち殺せばいいわけだ……」
 ロックもニヤリとした。
 「そういうこった……。自分以外の奴を皆殺しにする。簡単だろ?」
 ガゼルは笑った。
 「ハハハハハハッ!」
 ロックも笑った。
 「ハハハハハハッ!」
 その光景を見ていた男は、怒りの表情をした。
 「死に損ないがぁっ!ぶち殺せぇーっ!」
 黒装束が二人に、一斉に襲い掛かった。
 ガゼルは悪どい笑顔でロックに言った。
 「久しぶりだなぁ……ハーネスト……。こんな所で会うとは……今日は運がいい……」
 ロックは憮然とした表情で言った。
 「俺はテメェの下品な面なんて、見たくなかったよ……。んで?ジンに何の用だよ?」
 「国家転覆の嫌疑だ……。これ以上は言えねぇ……」
 「ジンがそんな事をしねぇのは……テメェも知ってんだろ?」
 ガゼルはニヤリとした。
 「拘束すりゃあわかる……。もちろんお前にも来てもらうぜ……ハーネスト……」
 ガゼルはそう言うと、ロックに向かって戦闘体制をとった。
 ロックは刀を抜いた。
 「俺が「はいそうでか」と言うとでも、思ってんのか?」
 ガゼルは不敵に笑った。
 「納得してもらっちゃあ……困るぜ……。俺はお前と闘りたくて、ウズウズしてんだ……」
 ロックの登場によって、エリスの表情には少し余裕の色が表れた。
 「ジン博士……ロックが来たから、もう安心よね?」
 ジンは渋い表情をしている。
 「どうだろうな?」
 エリスは怪訝な表情をした。
 「えっ?」
 ロックに向かっているガゼルは、ロックとの間合いを詰めながら言った。
 「現在のお前が……どれ程弱ぇか……俺が確かめてやる」
 ガゼルの言葉にエリスの表情は険しくなった。
 (弱い?あのロックが?)
 ロックはミドに耳打ちした。
 「ミド……俺がアイツに突っ込むと同時に、ジンの所へ行け……」
 ミドは情けない表情になった。
 「えっ?そんな……怖いです……」
 「言ってる場合かっ……オメェが行かねぇと、俺達の飛空挺は飛ばねぇぞ……」
 ミドは目を丸くした。
 「俺達の……ロックさん……」
 「じゃあ後はヨロシクなっ……」
 ロックはそう言うと同時に、ガゼルに飛び込んだ。ミドも勢いよく走りだし、ジンとエリスの位置を目指したが……。
 ロックの刀と、ガゼルのトンファーが勢いよくつばぜり合ったが……ガゼルは難なくロックの刀を弾き飛ばした。
 「遅ぇーっ!」
 ガゼルはそう叫ぶと、もう片方のトンファーで、ロックの左こめかみを狙い撃ちした。
 ロックは勢いよく吹っ飛んでいき、コテージの食器棚に勢いよくぶつかった。
 ガッシャーーンッという轟音がコテージに響き渡った。
 ガゼルはロックを吹っ飛ばしたトンファーを、クルクル回した。
 「頭蓋骨が砕けたかぁ?」
 ロックはバラバラになった食器棚に埋もれて動かない。
 エリスは悲痛な面持ちで叫んだ。
 「ロックーーッ!」
 「へっ、呆気ねぇ……。さてと……」
 ガゼルはミドを見据えた。
 ミドはロックが吹っ飛んでいったショックで、足を止めてしまった。
 ガゼルはミドに詰め寄った。
 「諦めな……」
 ミドは泣きそうな表情になっている。
 (ロックさん……師匠……)
 するとガゼルの後頭部目掛けて、コーヒーカップが飛んできた。
 ガゼルはニヤリとして、コーヒーカップを弾き飛ばした。
 「しゃらくせぇーっ!……!?……」
 カップを弾き飛ばしたガゼルは、目を見開いた。
 カップを弾き飛ばしたガゼルの懐に、いつの間にかロックが入ってきたのだ。
 (コイツッ!……速ぇっ!)
 「うおらぁーーーっ!」
 ロックは下方から、ガゼルの喉を目掛けて刀を振り上げた。
 ガゼルは焦った表情をした。
 (斬られる……チィーッ!)
 ガキィィィィンッ!
 凄まじい音と同時に、今度はガゼルが吹っ飛んだ。
 エリスはなんとも言えない複雑な表情で叫んだ。
 「ロックッ!」
 しかしエリスはすぐに目を見開いた。ロックは頭から血を流し、左うでに大きな痣が出来ていて、そこからもダラリと血が流れている。
 ロックの表情は苦痛で歪んでいた。
 (野郎……間一髪トンファーで防ぎやがった……)
 するとガゼルはすぐに立ち上がった。
 「案外やるじゃねぇか……俺のトンファーを咄嗟に、その左腕で防いだか……。流石は俺達と同じ、元『アデル十傑』……」
 ガゼルの言葉にエリスは目を見開いた。
 (ロックも……あの人と同じ……)
 ガゼルはエリスを見てニヤリとした。
 「あの女……お前の連れみたいだが……。何も知らないみたいだなぁ……」
 ロックの表情は険しくなった。
 ガゼルは続けた。
 「何百、何千の敵を斬り殺した……その返り血を浴びた姿は……まさに人を喰らう鬼……」
 ガゼルはトンファーを振りかぶって襲い掛かった。
 「なぁっ!人喰いの蒼鬼さんよぉ!」
 ロックはガゼルのトンファーを刀でかわし、もう一本のトンファーの二撃目を、体をのけ反らせ、上手くかわした。
 ロックは大声で言った。
 「エリスッ!ミドとジンを連れてさっさと行けっ!」
 エリスは不安そうな表情で言った。
 「で……でもっ!」
 するとジンが言った。
 「ここはロックに任せよう……私達はやるべき事をやるぞ……ミドッ!」
 「はっ、はいっ!」
 ジンはロックに言った。
 「ロックッ!先に飛空挺で待ってるぞっ!」
 ジンがそう言うと、三人は飛空挺ドッグへ向かった。
 「飛空挺だぁ?行かせるかよぉっ!」
 ガゼルはトンファーを三人に向かって投げようとしたが、すかさずロックがそれを刀で弾いた。
 ガゼルは弾かれたトンファーを、ジャンピングキャッチし、ロックを睨んだ。
 「ハーネスト……テメェーッ!」
 ロックはニヤリとした。
 「俺と闘り合いながら……アイツらを追えるかよっ!」
 ガゼルは激昂した。
 「ぶっ潰してやるよっ!」
 「やってみやがれっ!」
 ロックの刀と、ガゼルのトンファーが、再び激しく衝突した。
 コテージの裏側に出た三人は、隠し階段に入って、走って飛空挺ドッグに向かった。
 走りながらエリスは、ジンに言った。
 「あの二人……なんなわけ?……仲悪いの?」
 ジンは表情を変えることなく言った。
 「ガゼルはただの戦闘凶だ……。そんな奴にとって、ロックは格好の獲物だ」
 エリスは理解に苦しんだ表情をした。
 「意味がわかんない……」
 ジンは言った。
 「ガゼルは昔からずっと、ロックと闘いたかったのさ……しかし十傑同士の私闘は禁じられていた……」
 ミドが言った。
 「そうか……ロックさんは、もうアデルの軍人じゃない……」
 ジンは走りながら頷いた。
 「そうだ……。ガゼルからすれば、これで心置きなくロックと闘れるわけだ……」
 エリスは困り果てた表情になった。
 「見たままの危ない奴じゃないっ!」
 ジンは言った。
 「我々も……うかうかしてられない……」
 エリスが言った。
 「どういう意味?」
 「アデルのエージェントは二人一組で行動する」
 エリスとミドは揃って嫌な予感がした。
 ジンは言った。
 「つまり、ガゼルとは別の奴が、我々を追ってくるはずだ……」
 「何でそんな冷静なわけ?」
 エリスとミドは揃って泣きそうな表情になった。
 ジンは二人に言った。
 「通路に細工をしておいた……少しは時間稼ぎが出来るはずだ。急ぐぞ……」
 三人はとにかくひたすら階段を降りて、飛空挺を目指した。
 するとコテージの屋根の上では、もう一人のアデルのエージェント……ジュノスが、隠し階段に入っていく三人を見ていた。
 「行くとしますかねぇ……」
 一方コテージでは、ロックとガゼルの激しい攻防が繰り広げられていた。
 最初は防戦一方だったロックだったが……徐々に互角の闘いまで持ってきていた。
 ガゼルがロックの頬にトンファーを喰らわすと、ロックはガゼルの胸に斬り傷を付ける……。
 ロックがガゼルの方を斬り付けると、ガゼルがロックの脇腹にトンファーを喰らわす……。
 まさに一進一退の闘いが続いていた。
 余裕だったガゼルの表情も険しくなる。
 (コイツ……さっきまでの戦闘勘の鈍さが……無くなってやがる)
 ロックは勢いよく上段から、刀を振り下ろした。
 ガゼルは二本のトンファーで刀を受け止めた。
 (俺と闘ううちに、戦闘勘が戻ってきやがったか……)
 「うおぉーーっ!」
 ロックは、刀を両手で防いだ事によって、がら空きになったガゼルの腹に、蹴りを入れた。
 「ぐおっ!」
 蹴りをまともに喰らったガゼルは、後方に吹っ飛んだ。
 「がはっ!」
 ロックもダメージが蓄積しているようで、刀を使って体を支えている。
 二人は共に満身創痍で、口や頭から血を流し、今にも倒れそうだ。
 するとガゼルは、フラフラと立ち上がり、ロックに言った。
 「はぁ、はぁ……どうやらここまでのようだな……」
 ロックも言った。
 「はぁ……みてぇだな……はぁ、はぁ……来客だ……」
 二人が言うように、コテージの玄関には、男が一人立っていた。ミドの造船所にいたタキシードの男だった。
 ロックは顔をしかめた。
 「アイツは……はぁ、はぁ……」
 「はぁ……知ってんのか?……はぁ……」
 ガゼルがそう言うと、ロックは頷いた。
 「ああ……ジンの勧誘に来てた奴だ……。断られたけどよぉ……」
 ガゼルは憮然とした表情になった。
 「チッ……そう言う事か……」
 ロックは不機嫌な表情をした。
 「一人で納得してんなっ!どういうこった?」
 タキシードの男は二人を見てニヤニヤしている。
 ガゼルは言った。
 「奴は朧の回し者だ……」
 明らかにロックの表情は変わった。
 「朧……だと……!?」
 タキシードの男は二人に言った。
 「昼間はどうも……そちらの方は存じませんが……」
 ガゼルは言った。
 「アデルのもんだよ……ノコノコこんな所までやって来やがってよ……何の用だ?」
 「政府の犬ですか……。いやぁねっ……協力出来ないのなら……消してしまおうと思いましてね……」
 男がそう言うとコテージ内に、頭から足まで黒装束の連中が、ゾロゾロと入ってきた。その数は凡そ20名程だ。
 ロックは言った。
 「逆らう奴は消すか……相変わらずクソな連中だ……。でもこれでジンが無実だってわかったろ?」
 ガゼルは不機嫌な表情をした。
 「ケッ……まぁなぁ……」
 男は言った。
 「満身創痍が……えらく余裕ですね……。心配せずとも、隠し階段にも部隊を送りました。仲良く皆であの世に送って差し上げます」
 男の言葉にロックは焦った表情をしたが、ガゼルがすぐにロックに言った。
 「安心しろ……向こうはジュノスが行ってる」
 「ジュノス?……オメェ、アイツと組んでんのか?」
 「ケッ……好きで組むかよ……。それよりハーネスト、提案だ……。この喧嘩のルールのよぉ」
 「奇遇だねぇ……俺も提案しようと思ってたんだよ……」
 「ケッ……お前もか……気に入らねぇ……」
 ロックは軽く笑った。
 「なぁに……簡単な提案だよ……。こっからはバトルロワイアルと行こうじゃねぇか……」
 ガゼルはニヤリとした。
 「つまり、お前も含めて……ここにいる奴、全員をぶち殺せばいいわけだ……」
 ロックもニヤリとした。
 「そういうこった……。自分以外の奴を皆殺しにする。簡単だろ?」
 ガゼルは笑った。
 「ハハハハハハッ!」
 ロックも笑った。
 「ハハハハハハッ!」
 その光景を見ていた男は、怒りの表情をした。
 「死に損ないがぁっ!ぶち殺せぇーっ!」
 黒装束が二人に、一斉に襲い掛かった。
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