OVER-DRIVE

ノベルバユーザー329392

 飛空挺に圧倒され、興奮が冷めぬまま、ロックはミドの造船所に行く事にした。
 ジンの研究所を出た玄関先に、エリスとジンは、ロックを見送りに来ていた。
 「ほんとにここで、待ってんのか?」
 ロックの問に、エリスは苦笑いした。
 「うん……だってまた……あの林を抜けるんでしょ?」
 「まぁ……それしか道がねぇからな……」
 「わたし……あの林、なんか嫌い……」
 ロックは呆れ気味に言った。
 「なにビビってんだ……」
 するとジンが言った。
 「まぁ……私は構わない……。それにその娘にも聞きたい事があるからな」
 エリスは目を丸くした。
 「聞きたい事?」
 ジンはロックに言った。
 「良いタイミングでお前たちがきれくれた……。ミドの事頼むぞ……」
 ロックは頭を掻いた。
 「まぁ、仕方ねぇか……。んじゃ、ちょっくら行ってくるわ……」
 そう言うとロックは、研究所を後にし、林の方へと向かった。
 ジンはエリスに言った。
 「少し聞きたい事がある……。今度は紅茶でも飲みながら話そうか……」
 二人は再び研究所に入っていった。
 エリスは最初に座っていた場所に再び座り、ジンの紅茶を待っていた。
 やがてジンは二人分の紅茶を手に持ち、席に着いた。
 ジンは言った。
 「君の旅の目的はなんだ?」
 聞かれると思っていたのか、エリスは特に動じることなく、これまでの経緯を説明した。
 自分の出身地クリスタルシティー、アレルガルド、ロックとの出逢い……しかし自分の力の事は、この場では伏せた。
 ジンはニヤリとした。
 「失われた国を探す旅か……中々興味深い……。ロックの飛ぶ切っ掛けになったのは……やはり君だったか……」
 エリスはその事に関して、思い切って聞いてみた。
 「集いのマスターも言ってたけど……飛ぶ切っ掛けって何?」
 ジンは目を丸くした。
 「何だ……知らずにロックと行動していたのか?」
 「アイツが悪い奴じゃないのは、わかるけど……。会ったばかりのわたしと行動するなんて……わたしの方が聞きたいよ……」
 ジンは軽く笑った。
 「フッ……ロックの夢は『飛空挺で世界を廻ること』だ……。しかし奴はこの10年アデルを離れる事がなかった。何故か……私も深くは知らないが、切っ掛けが無かったんだ」
 エリスは真剣な表情で聞いている。
 ジンは続けた。
 「そんな奴が、今こうして、君という『切っ掛け』を連れて現れた……。亡国を探して世界を飛び回る……面白いじゃないか……」
 ジンは嬉しそうな表情をした。
 「いいだろ……君達の旅に私も付き合おう……。私も世界に出ねばならない」
 エリスは言った。
 「ジン博士も何か目的が?」
 「アデルによって世界はある程度安定し、それによりアデルの技術も発展したが……。世界は広い……まだ見ぬ技術や発見があると、私は思う」
 ジンは拳を握りしめて、力強く言った。
 「私は世界の技術を網羅し、究極の科学者になる……。それが私の夢だ」
 エリスはジンの力説に唖然となったが、ジンの表情は真剣で、その目は夢に満ちた少年のようだった。




 ……ミドの造船所……


 ロックはジンの研究所を後にし、真っ直ぐミドの造船所に来た。
 ただ、やって来たのいいが、ミドは留守で造船所には誰もいなかった。
 「いねぇのか?……仕方ねぇ、少し待つか……」
 造船所は戸締まりがされてなかったので、ロックは中で待つことにした。
 「戸締まりもしねぇで、不用心だな……。でもまぁ、すぐに帰ってくるだろ……」
 ロックはそう呟きながら、造船所の中を再度見渡した。中央には造りかけの船が置いてある、先程見た船だ。
 「骨格からして……飛ぶか飛ばないかの違い以外は……あの飛空挺と同じだな……」
 ミドの造船所にある船は、ロックが先程ジンの研究所で見た飛空挺と、同じ形をしていた。
 ロックは船を眺めながら言った。
 「課題って何なんだろな?俺からすりゃあ、この船も立派に見えっけど……。技術屋にしかわかんねぇ違いがあんのか?」
 ロックは側にあった椅子に腰を掛けて、両腕を頭の後ろで組んで、楽な姿勢をした。
 すると、造船所の入口に誰かが現れた。ミドだろうか?……ロックは入口の方を見た。
 「ですから僕に言われても困ります……」
 どうやらミドのようだが……誰かと一緒のようだ。
 「私共も困っているのですよ……ですからジン博士の弟子である貴方に、頼んでいるのです」
 ロックは自分の存在がバレないように、こっそりと覗いてみた。
 すると入口にはミドと、タキシード姿でシルクハットを被った、細身の男性がいた。
 「僕の説得に動くような師匠ではありませんよ……。それに師匠はお断りをしたのでしょ?」
 ミドは困り果てた様子だったが、タキシードの男は、お構いなしに言った。
 「私も良い返事を貰えるまで、会社に帰れませんので……」
 男に引く様子はない……。するとロックが、二人に割って入った。
 「ちょっと待ちなよ……ミドが困ってんだろ」
 突然のロックの登場に、ミドも男も驚いた表情をした。
 男が言った。
 「何なんですか?貴方は?」
 ロックは小指で耳をほじりながら言った。
 「俺か?俺は……こいつの……まぁ客みたいなもんだ」
 男は怪訝な表情をした。
 「客?……貴方が?」
 男はロックの身なりを見て、船を買いに来た客という事に、疑惑をもっている。
 ロックは少しムッとした表情で言った。
 「んだテメェー……俺が船を買いに来ちゃあ、いけねぇのか?」
 ロックの表情に、男は慌てた様子で言った。
 「いえっ……滅相もない……」
 ロックは手でシッシッとやった。
 「なら今日は、帰った帰った……」
 ロックの態度に、男は少し表情を険しくしたが、すぐに笑顔になり、ミドに言った。
 「わかりました……今日のところは帰ります。でも、私は諦めませんから……」
 そう言うと男は、造船所を後にした。
 男が去ると、ミドはホッとした様子でロックに言った。
 「ありがとうございます……助かりました」
 「別に良いんだけどよぉ……。オメェーも嫌な事は嫌だって、ハッキリ言えよ……」
 ミドは頭を掻き、申し訳なさそうな表情をした。
 「面目無いです……。で?ここには?師匠に会えましたか?」
 「ああ……オメェのおかげでジンには会えたよ……」
 「そうですか……。では何故ここに?」
 「ジンにオメェの課題を手伝ってやれって、言われたんだよ……」
 ミドはキョトンとした。
 「僕の課題を……アナタが?」
 ロックは頭を掻いた。
 「やっぱ、そういう反応だよなぁ……」
 「でもどうして、アナタが僕の課題を?」
 ロックはこれまでの経緯を、ミドに話した。
 ロックから経緯を聞いたミドは、目を見開いて、首を勢いよくブンブンと横に振った。
「僕が師匠に代わってなんてっ!とんでもないっ!」
 ロックは頭を掻いた。
 「とんでもなくても、やってもらわなきゃあ、ならねぇっての……」
 「無理ですよっ!僕みたいなのに、師匠の代わりなんてっ!」
 ミドは泣きそうな表情をしている。
 ロックは呆れた様子で言った。
 「こりゃ、一筋縄じゃいかねぇな……」




……ジンの研究所……


 エリスは飛空挺ドッグで、ジンの最終調整を手伝っていた。
 手伝っていたといっても、エリスに大した事は出来ず、殆ど見ているだけだった。
 ジンはコンピューターに向かって、何かの作業をしている。
 するとエリスが言った。
 「ねぇジン博士……ミドさんの課題って、何?」
 ジンはコンピューターに向いたまま言った。
 「ミドの技術力は……私より上ではないが……私の代わりをするには、充分過ぎる技術力を持っている……。すぐにでも代わりが出来る程の……」
 エリスは不思議そうな表情をした。
 「じゃあ……課題なんて無くてもいいじゃん……」
 コンピューターと向き合ったままのジンは、軽く笑った。
 「フッ……ところがそう簡単な話ではないのさ……。ミドには大切なものが足りない」
 「大切なもの?」
 「そうだ……。そしてそれがないと、この飛空挺は飛ばない……」
 エリスは驚いた表情をした。
 「それじゃあロックよりも、ジン博士が行った方がよかったんじゃあ?」
 「私が行ったら課題にならないだろ?自分で課題を理解するから、課題なんだぞ……」
 エリスは難しそうな表情をした。
 「そりゃそうだけど……」
 ジンはまたもや軽く笑った。
 「フッ……心配するな……。ロックなら上手くやってくれる……」
 エリスは苦笑いした。
 「だといいけど……」




……18番街のとある場所……


 ミドの造船所にいたタキシードの男が、通信機を使って誰かに連絡をとっている。
 「ジン博士は我々に協力しそうではありません……」
 しばらく誰かと通信機でやり取りをして、男は目を見開いた。
 「なるほど……協力しないのなら、消せと……」
 どうやら物騒な話をしている。
 「ではそちらの精鋭を送ってください……。はい……では……」



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品