OVER-DRIVE

ノベルバユーザー329392

 ……Bar集い……




 店に戻った二人は、再びカウンター席に座り、ロックは先程の事を女に聞いた。
 「何だったんだ?あいつらは?」
 怪訝そうな表情をしているロックに、女は言った。
 「知らないわ……何か昼間っからしつこいのよ」
 「お前……国を探しってるって、言っていたな……。アイツらもそれに関係してんのか?肩に変な刺青あったけど……」
 ロックの言葉に、マスターが反応した。
 「肩に刺青……ロック、どんな柄だい?」
 「柄?……なんか、¥みたいなダッセェ刺青だよ」
 マスターは柄を確認すると、不機嫌そうな表情をした。
 ロックは言った。
 「ばぁさん、知ってんのかよ?」
 マスターは煙草に火を着け、二人に言った。
 「ふぅ……まぁねぇ……。そいつらは多分……『¥キング』……金の亡者が集まる、ケチな連中さ」
 ロックは言った。
 「ボスがどうとか言っていたけど……マフィアか何かか?」
 マスターは鼻で笑った。
 「ふんっ……そんな気合の入った連中じゃないよ……。ただ、連中……金の匂いを嗅ぎ付けるのは鋭くてねぇ……」
 ロックは言った。
 「女拐って金儲けか……」
 ロックは女をじっと見た。小柄でスレンダー、そして美人……確かに狙われてもおかしくない。
 女は怪訝そうな表情でロックに言った。
 「何?」
 「いや……。ところでお前……寝ぐらあるんか?見たところ、地元の人間じゃねぇな……」
 「ここから東の地方『クリスタルシティー』から来たの……」
 ロックは目を丸くした。
 「クリスタルシティー……都会じゃねぇか……」
 クリスタルシティーとは、アデルから東にある大都市である。規模的に首都アデルに匹敵する。
 するとマスターが言った。
 「仕方ないねぇ……今夜はここに泊まって行きな……。宿賃はいらないから安心しな。で?アンタ名前は?」
 マスターの優しい配慮に、女は笑顔になった。
「エリス……エリス・クラウド……。ありがとう……」




 ……¥キングアジト……




 13番街のとある一角にそのアジトはあった。
 だだっ広い畳の部屋に、金の掛軸や、金の置物……部屋は持ち主のセンスを表すというが……流石に悪趣味だ。
 その悪趣味な部屋の奥に、悪趣味な椅子に座った、大柄な筋肉質の男が、偉そうに座っていた。
 大柄な男は丸坊主頭に、首に動物の毛皮を巻いている。
 「逃げられただと!?」
 大柄な男は、目前でひざまづいている部下を、恫喝した。
 部下達は先程ロックにやられた男達だ。大柄な男はボスのようだ。
 モヒカンがボスに恐る恐る言った。
 「しかしボスっ……妙なヤローが邪魔しやがって……」
 ボスは目に力を込めた。
 「妙なヤローだぁ?そいつも、あの女の妙な力を狙ってやがるのか?」
 モヒカンはボスに怯えながら言った。
 「それは……わかりませんが……」
 ボスはニヤリとした。
 「まぁいい……。このドン・マーネに、逆らうとは……いい度胸してやがる……」
 ボスの表情に部下達はさらに怯えた。
 ドンは立ち上がって、側に置いてあった巨大なマサカリを担いだ。
 「女を拐うついでに、その妙なヤローをぶっ殺してやる……」




 ……翌日昼……




 ロックは昨日に引き続きBarにいた。営業は夜からなので客はいなかったが……エリスの様子を見に来たようだ。
 エリスはカウンターの奥で、皿洗いをしている。
 ロックはそんなエリスを見て言った。
 「ばぁさんにコキ使われてんのか?」
 エリスは苦笑いした。
 「そんなんじゃないよ……タダで泊めてもらってるから……」
 するとマスターが2階から降りてきた。
 「人聞きの悪い事言ってんじゃないよ……アンタもエリスを見習ったらどうだい?」
 「昼間っからなんだ?嫌味か?」
 「おや……嫌味以外に聞こえたのかい?大の大人が、昼間っからこんな店に、入り浸ってるんじゃないよ……」
 マスターは皿洗いをしているエリスを見て言った。
 「気が利く娘だよ……ずっとウチにいてもらいたい位だねぇ……。美人だし、良い看板娘になるよ」
 ロックは頬杖をついて言った。
 「国を探して旅してんだって?」
 マスターは煙草に火を着けた。
 「みたいだねぇ……。でも聞いたことないよ……アレルガルドなんて国は」
 ロックは言った。
 「世界は統一されたけど……未発見、未開拓の地は、まだまだあるみたいだけど……」
 ロックの言うように、アデルによって世界は統治されているが……世界には手付かずの地や、未発見の地がまだあるらしく……アデル主導の元、各自治体が勢力を上げて開拓、探索をしている。
 マスターは言った。
 「女独りで旅をするには……大変だよ。ロック、アンタ……付き合ってやりゃあどうなのさ?」
 マスターの言葉に、ロックは呆れた様子で言った。
 「冗談キツいぜ……何で俺が、どこの誰だかわからん女のために、そこまで……」
 「良い切っ掛けになると、思うけどねぇ……」
 マスターがそう言うと、ロックは立ち上がった。
 マスターはロックに言った。
 「もう帰るのかい?」
 「大の大人だからな……」
 そう言うとロックは、店を出て行った。
 マスターは呟いた。
 「逃げたか……煮えきらない男だよ……」
 ロックが店を出たのと同時に、エリスは皿洗いを終わらせたようで、カウンターに出てきた。
 「マスター……終わったよ……。あれ?ロックは?」
 ロックがいない事に気付いたエリスは、店内をキョロキョロした。
 マスターは言った。
 「野郎なら出てったよ……。それより皿洗い、ご苦労さん……少し休みな。コーヒーでも煎れてやるよ……」
 エリスはロックが座っていた席に座った。
 「ありがとう……。ねぇマスター……」
 マスターはアイスコーヒーをささっと用意した。
 「なんだい?」
 「ロックって……何者なの?」
 「ぶしつけだねぇ……」
 エリスは怪訝な表情で言った。
 「たより無さそうだけど……凄く強かったし……。なんか掴み処がないって言うか……」
 マスターはニヤリとした。
 「怪しいってかい?……まぁ、女独りで……存在したか、どうかわからない国を……探してるアンタも、十分怪しいけどねぇ」
 エリスは顔をひきつらせた。
 マスターは続けた。
 「アデルまでどうやって来たんだい?」
 マスターの質問に、エリスはバツの悪そうな表情をした。
 「密航かい……」
 図星を付かれたのか、エリスは下を向いてしまった。
 マスターはそんなエリスに言った。
 「まぁよくある話さ……この13番街には、ワケアリの人間が多いからねぇ……。アンタみたいな娘は珍しくないよ……」
 マスターはそんな人間の扱いに慣れているのか、エリスの事情もさほど気にならないようだ。
 エリスはそんなマスターの配慮に、素直に感謝した。
 「ありがとう……」
 マスターは話を戻した。
 「ロックの話だったねぇ……いい加減な男だろ?挙げ句にひねくれ者でねぇ……」
 マスターは再び煙草に火を着けた。
 「まぁでも、一言で言えば……飛ぶ切っ掛けを失った不器用な男さ……。まぁ悪い奴じゃないよ……」
 エリスは目を丸くした。
 「飛ぶ……切っ掛けを?」
 「アンタ……ロックを連れてってくれないかい?アンタにとっても悪い話じゃないだろ?」
 いきなりのマスターの提案に、エリスは流石に戸惑った
 マスターは続けた。
 「アタシもいい加減うんざりしててさぁ……毎回ツケで飲み食いされてちゃぁ……商売あがったりだよ」
 ロックの事を毒づいてはいるが……表情はロックを心配している感じだ。どうやらこのマスターは偽悪的な性格のようだ。
 そんなマスターの心情を察してか、エリスは動揺しながら立ち上がった。
 「わっ、わたし……買い物……行ってきますっ!」
 エリスは慌てて店を出て行った。
 マスターは煙草をふかしながら呟いた。
 「ババァのお節介かねぇ……」




 店を出たエリスは13番街をウロウロしていた。人が多く、夜とは別の意味で栄えている。 
 店は色々とあり、飲食店や、食料品店、雑貨店など様々だ。エリスはその中の一つの店に注目した。
 「錬金屋だぁ……。さすが首都アデルね……」
 この世界では錬金術が盛んである。ただし錬金術と言っても、鉄を金に替えるなどという、夢のようなものではなく……あくまでも同価値交換が基本だ。
 例えば切り株を、錬成陣に乗せ、術師がそれを木彫りの熊に錬成する……そのレベルだ。
 とは言え、錬金術は免許制であり、国家資格が必要で、更に錬金術はアデルが徹底的に管理をしている。
 錬金術は浮遊石に次いで、重要物件なのだ。それにより錬金術を用いた商売は規制がきつく、アデル以外の地域で出店するには非常にハードルが高い。
 「錬金術……バァちゃん……」
 エリスは何かを思い出したのか、感慨深い表情をしている。
 「わたし……見つけれるかな?」
 エリスはそう呟くと、先程のマスターの提案が、頭を過った。
 (ロックを連れてってくれか……悪い奴じゃないよね……)
 そんな事を考えていると、エリスの背後から声がした。
 「見つけたぜ……」
 エリスは声の方を振り向いて、思わず目を見開いた。
 声を掛けてきたのは、昨夜ロックに叩きのめされた男達だった。
 モヒカンはニヤリとして言った。
 「ヤローはいねぇみたいだな……大人しく付いてきてもらうぜ……」



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