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キノは〜ふ!

七月夏喜

第2話 キノとマコと亜紀那さん その6



「海原、部活行くのか?」

 キノは海原が、胴着を持って立ち上がるのを見て言った。

「はい。一緒にきますか? また手合わせが出来ると嬉しいのですが」

 海原ははにかむ。あまり海原をおどけさせると、クラスの女子が気味悪がるから、キノは無視した。

「やめとく。それとおまえとは手合わせはしないよ」

「なぜですか?」

「自分でやれ。僕は先生じゃない」

「惜しいな。絶対に強いですよ、キノさんは」

「おまえ、女に負けてんだぞ。しっかりしろよ」

 言った後に、後悔してキノは机に額を付けた。

「女かぁ……」

 海原はキノの目線まで腰を落とす。

「ぼくは、キノさんに投げられた時、女だということは、気にもしませんでしたよ」

 海原の目は真剣だった。少しだけ頭が海原の方を向き、キノの大きな瞳が見つめる。同時に口元のしっかりした、ピンク色の唇が何か言おうとしていた。

「投げようとした時は、女を感じた」

「うっ!」

 海原は言葉に詰まる。机が上下に動いた。キノは否応なしに上体を起こされる。

「思い出した? ここの感触」

 キノは両手で胸を押さえて、なおも目と唇で海原を襲う。

「きっ、キノさん?」

 海原の顔からは汗が吹き出していた。

「海原、僕は……、キノは可愛いの?」

「え?」

 海原の小さい目が見開く。充血する。

「キノが彼女だったら、嬉しいのか?」

 海原の思考は止まっているらしく、返事がなかった。ただまたしても鼻からは赤いものが流れ落ちてくる。キノは無視して、机に頬杖した。

「そりゃ、僕だって、同じだよ。僕だって、あの時のマコの胸の……」

 キノの鼻下にも赤いものが筋を作る。その空間に二人が鼻血を出している光景は不思議だ。

「何ぶつぶつ、言ってんの? 私の胸がどうしたの」

 机がひっくり返った。ほぼ失神状態の海原も転がる。

「相変わらずね、海原くん」

 クラスの女子が悲鳴を上げて、遠退いた。またしても海原は変態扱いされる。

「こっ、この変態!」

 石井が蹴りを入れていた。

「マコ、あのさ……」

「海原くんに何か言ったでしょ、キノ」

「マコ、あの」

「だから、キノ。海原くんと話するときは、彼の性格を見なくちゃ。彼、どんどん変態扱いになっていっちゃう」

「マコ」

「わかってるの、キノ」

「マコ!!」

 キノはマコの両肩を持とうとしたが、やめた。

「なに?」

 マコはキノを上目使いに見る。キノの両手が下がっていくのを横目で見ていた。

「その…」

 マコの目がキノをじっと捕らえる。流れていた目が、真っ直ぐにマコの目を見つめ返した。

「あっ、その……」

「花宗院くん!」

 如月が声を掛ける。

「これから生徒会の役員会があるんだけど、一緒に出てもらえないか? 君には色々覚えてほしいことがあるんだ」

 キノは困った顔になった。如月とマコの顔を交互に見る。

「生徒会だって、キノ。私行かなくちゃ」

 マコがキノの前から離れようとした。体が動いた時、キノはマコの制服の端を掴み、そして引き寄せる。

「きょ、今日、一緒に帰ろう!」

 キノの顔はいつになく、紅潮していた。不審な顔をして、如月が近づいてくる。マコは目を一端伏せて、キノを見つめた。

「キノ。帰りには、ケーキとコーヒーも一緒だよね」

「うっ、うん! いい店知ってる!」

 マコは、憂いに満ちた顔で微笑む。

「如月くん、今日はパス。また今度ね」

「は?」

 マコは、如月に手を振った。キノは彼に向かって、大きく舌を出す。

「ねえ、キノ」

「なに?」

「いい加減、鼻血拭き取ったら?」

 マコは浮き足だったキノに、呟いた。



 マコとキノは、あの時と同じ、夕暮れ時を歩いていた。

「キノ、やっぱりだめみたい。私、キノのことばかり考えちゃう」

 ふいにマコがキノの腕を取って、組む。キノは慌てた顔をして緊張した。

「キノ。ゆっくりでいいよね。これからを考えていくの」

 マコはキノの腕に寄り掛かる。

「マコ、僕は君を守るために、自分に出来ることをする。それは男でも女でも、どちらになっていても変わらない」

「キノ……、そうよね。私も出来ることをするわ」

 キノはマコを見た。彼女の顔は、夕暮れの光に照らされて、赤いのかどうかわからない。

「早く男に戻りたいけど、焦らなくていいよ。自分で言うのもなんだが、ゆっくりでいい」

「うん……」

「じゃあ! おいしいケーキ屋さん行こう!」

 二人は遠くから見ると、恋人同士に見えるかも知れない。キノのスカートさえなければ……。

 

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