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キノは〜ふ!

七月夏喜

第2話 キノとマコと亜紀那さん その5


 キノはマコの言ったことをずっと考えていた。リビングのソファーにもたれて、紅茶を飲む。

「キノ様」

 亜紀那が声を掛けた。

「紅茶のおかわりはいりませんか?」

 彼女は支度をする。

「亜紀那さん、マコのことどう思う?」

 お湯を注ぐ手が一瞬止まったが、また動き出した。

「マコ様は、いい方ですよ」

「その……、この間、こと……」

 キノはカップを見つめる。恥ずかしくて、赤くなった。

「仕方がありませんわ。マコ様は可愛くてらっしゃる」

 亜紀那は微笑む。

「ほっ、ほら、あんなこと女の子同士で……」

「女の子同士……、そういえばそうでした。でも、そんな風には見えませんでしたね」

「え?」

「そう、キノ様は殿方のように、荒々しく見えました」

 キノは手を握りしめる。

「私、一瞬、キノ様が男だと感じました」

 キノは亜紀那の方を向いた。

「それに……」

「それに?」

「キノ様は、マコ様がお好きなんでしょう?」

 キノは肩を震わす。亜紀那には目を合わさない。

「マコ様もおそらく、キノ様を」

「……」

「お二人の間に何の秘密があるのかは、私の知るところではありません。ただ……」

 紅茶のほのかな匂いが、室内に漂う。

「あの時のお約束を、お忘れになってはいけません」

「約束?」

「そうです。マコ様が池に落ちて、それをお助けになった時に、キノ様ご自身が叫ばれていた言葉」

 カチャリとカップと机が接触する音が響いた。


 キノは目の前に並んだクッキーに手を伸ばし、一口囓る。

「丁度私が、この屋敷にご厄介にさせていただくようになった時、キノ様はまだ三歳でした」

 カップに新しく紅茶を入れて、亜紀那はキノに近づいてきた。

「あの時はまだ、キノ様は幼く、私の後ばかりをついてこられていました。思えばあの時が一番私にとっても、楽しいお時間でした」

「その頃はね。大きくなると僕には、稽古地獄が待ってたよ」

 キノは苦笑いする。

「小学二年生のキノ様は、池からマコ様救い上げて、というか正確にはキノ様も溺れかかっていましたが。幸いに近くにいた方が池から引き上げてくれました」

「はは」

 何だか恥ずかしく思い、愛想笑いで誤魔化した。

「その時キノ様は、マコ様を抱き、泣きながらおしゃってました」

「……」

「強くなって、マコ様を生涯守っていくと」

「マコを生涯守ると言った…」

「真剣でした。真一直線な視線、あの時からキノ様は稽古も休まずなさるようになった」

 愛想笑いをしていた表情は、やがて何かを思い詰めるように真顔に戻る。

「マコ様を思う気持ちは正直でいいのです。それはマコ様をどんな形であれ、守ることに、キノ様は選ばれたのですから」

「うん」

 キノの顔は赤らんでいた。細い指を絡ませて、照れている。さっきの不安気な顔から明るくなっていた。亜紀那はじっとその仕草を見つめる。

「でも……」

 亜紀那はカップをテーブルに置いた。

「ん?」

 キノは殺気を感じ、受け身を取ろうとする。亜紀那は間合いがなく素早かった。キノを立ち上がらせて、絡ませいた指を外し、両手を取る。

「あああ!」

 そして、思いっきり抱きしめた。亜紀那の胸にキノの顔が、またしても埋まる。

「でも、こんな可愛く愛くるしいお人。やっぱりマコ様だけのものも嫌かも……」




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