キノは〜ふ!

七月夏喜

第1話 キノとマコ、突然登場! その7


 マコはキノの元に駆け寄る。

「ははは、マコ、『むにゅ』だって! 男ってやっぱりバカだ!」

 キノはたわわな胸を押してケタケタと笑った。

「もう! こんなことして! 怪我でもしたらどうするのよ!」

「大丈夫だって! 僕は絶対負けない」

 マコはキノの頬を叩く。

「大丈夫じゃない。私、キノのことが心配なのよ」

「ごっ、ごめん……」

 心配気な顔を見せられては、さすがのキノも困った。

「キノが傷ついたら、悲しいよ」

「マコ……」

 マコはキノの左手をとって、自分の胸に押し当てる。

「ほら、わかる? 胸が凄くドキドキしてる。本当に心配してるんだよ」


『むにゅ』


「ねっ、そうでしょう。キノ、私のわかった? キノ?」

 美しいクリーム色の長い髪、色白の顔、長いまつげに大きな瞳、四肢が細く、スタイルが良い。『鈴美麗 キノ』、男から女に突然変化した運命の持ち主。その綺麗な顔立ちの鼻から、赤い血が流れ落ちている。

「やっぱり男って。バカだわ」

 マコは呆れた。



「先輩、練習しませんか……」

 野次馬が去った後、倒れていた場所で正座している海原は呟く。握っている拳が震えていた。顔は赤く、鼻血の跡が残っている。

「あっ、ああ」

 真下は右肩を揉みながら、拳骨で叩いた。痛みで顔をしかめるが真下は笑った。

「海原……、すまんな」

 真下は海原に背中を見せ、胴着を整え、帯をしっかり締める。

「海原」

 目の前にキノいた。隣にはマコが寄り添っている。

「大丈夫です」

 ふらつきながらも立ち上がった。自信に満ちた顔がある。

「お見事です。キノさん」

「海原も強いよ」

「キノさんの武道に対する真っ直ぐな気持ち、精神力は凄いです。見習わないといけません」

 キノは手を差しだした。海原は思いがけない行動にその顔を見る。丸めたティシュが、鼻に詰めてあった。

「海原、仲間だ。バカなおとこ同士……」

「あー!」

 突然マコは叫ぶ。

「何だよ、マコ」

「キノ、ほら、もう遅いから帰らないと」

 腕時計を見せた。

「! マコ、どうしよう。僕って、家に帰れるの?」

「だからね」

 マコはキノの差しだした手を引いて、道場から出ていく。

「うん、海原また明日、先輩方も」

 軽く頭を下げた。真下もにこやかに手を振る。

「キノさん、鼻どうしたんですか?」

 海原の問いに「ははは」と、顔を赤らめてむっつりした。



 道場の窓越しに、如月はその光景を見ている。

「実に、おもしろい転校生だ……」 

第2話に続く

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