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キノは〜ふ!

七月夏喜

第1話 キノとマコ、突然登場! その6


 海原は動いた。差し進める手刀が空気を斬り、大きな体が俊敏に動く。その動きに真下は目を見張った。だが、それよりも更に先にキノは移動している。

 キノの顔が海原の目の前に突如現れた。口元に笑みを浮かべている。手刀はキノの体を捕まえることなく、抜けていった。右上肢はキノに捕まえられる。もの凄い力で吸い込まれて海原の上半身が前方に落ち込み、腰が浮いた。キノの長い髪の毛がふわりと海原の顔を撫でる。

「投げられる」

 海原がそう思った瞬間、両足が床から離れていき、天井に足の裏が向かった。正円を描くように、鋭く一回転して巨漢が背中から落ちる。まるで大きな岩が山頂から落ちてきたかのように、鈍い音が道場内に振動し、壁の歪んだ軋み音が聞こえた。海原の呼吸が一瞬、止まった。

 柔道場は野次馬が集まり、窓越しに数十名が歓声を上げている。マコは予感が当たらないことを願いつつ、近寄った。窓の隙間から中を見る。マコの目が点になった。キノが道場に直立し、その前に海原が横たわっていたからである。

「だから、キノ。大人しくしてって言ったのに……」


 海原は目を見開き、天井を見つめたまま動かなかった。

「何のために、強くなる。誰も傷つけないため。誰かを守るため、か……」


「かっ、海原!」

 真下は叫ぶ。

「かぁ!」

 海原は倒れた場所で息を吐いた。頭を振り、よろけながら起きあがる。

「その答えを、知るため」

 興奮した赤い顔は、唇を噛んだ。直立し、静かに息を整える。

「へぇ。案外、体は丈夫そうだね」

 キノは嬉しそうな顔を浮かべて、再び不敵に微笑む。

「海原、迷うな。武道にとって、一本筋の精神が大切だ。冷静になれ」

 キノも息を整えた。海原は素早く構え、向かってくる。ダメージはあるらしく、スピードは落ちたが俊敏さは残っていた。キノは体を反らし、後方へ避ける。一度目は交わす。切り替えして海原は体制を返した。動きは大きいが先ほどよりも迷いがない。キノは静止した。途端に海原も固まる。息が切れている彼に対して、キノは初めて構えた。

「ぬう!」

 一瞬にして、間合いが凍りつき、一切の動きが止まる。しかし海原は迷い無く突き進んだ。

「少しだけ、早くなった」

 キノは少しだけ、間合いを詰める。海原が、目の前に迫った瞬間だった。

「キノ!」

 キノはマコの声だけには、どうしても反応する。キノの耳の僅かな動きが間合いを破った。海原は突進し、キノの袖を掴む。そのまま引き寄せて背負い投げ体制に入った。キノの体が海原の背中に乗りかかる。

「海原くん! やめて!」

 マコは叫んで目を閉じた。いくらキノでもそんな大男に投げられたら、ただじゃ済まないと思ったからだ。


『むにゅ』


「ふぬううっ!」

 海原の小さく細い目が見開いて口が空き、そのまま動きが固まる。投げ飛ばすはずの組手が、緩んだ。キノはそれをゆっくり外し、尻を思いっきり蹴り挙げる。海原は固まった体制で顔面から前方に倒れて、畳で擦った。彼は鼻血を出しながら、至福の表情で失神している。

「勝った!」

 キノはわざとジャンプした。歓声が沸いた。


「いったいどうしたんだ? 海原……」

 真下は、訳がわからず呟く。

「とっ、通して!」

 マコが野次馬を押し退け、道場に入り上がった。

「ちょっと、あんた誰? しかも土足で!」

 真下はマコに声を掛ける。

「キノの友人です。あなた方ですか、キノをここに連れ込んだ犯人は!」

「は、犯人!? いや、俺は!」

 マコは真下に張り手した。その勢いで男は2回転して壁にぶち当たる。

「きゃぅう!!」

 右肩が強打したらしかった。

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