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キノは〜ふ!

七月夏喜

第1話 キノとマコ、突然登場! その2


 彼は『鈴美麗 紀乃スズビレイ キノ』。女になってしまった星白学園2年生の男子だ。トイレから救ってくれた女子は『花宗院 真琴カシュウイン マコト』、キノの幼なじみだ。
 キノは、何故女に変化したのかはわからない。男に元に戻れるのかも不明だった。

「しかし、女子なって、これからどうすればいいんだ……」

 やがて休み時間になる。机に肘を付き、キノはぼんやりと考え込んでいた。マコはどこかに行ったらしく、教室にはいない。今頼れる者はマコしかいないキノにとって、心寂しい時間だった。
 長い髪が時々、はらりと落ちる。キノは面倒くさそうに、その度にかき上げた。突然、隣で大きな音が鳴る。驚いて振り向くと、大きな男が緊張した面持ちで座っている。

「うっ!」

 その男は『海原 太カイバラ フトシ』と名乗る。大きな体格の引き締まった体、太い腕、足、何もかもが大きかった。机が体とアンバランスで小学校用のように見える。木訥で無垢な印象だ。額に汗が滲んでいる。

「よろしく、海原くん」

 キノはマコに注意されたように、極めて女の子らしく言う。無理したようで、少々顔が引き吊っていた。するとまた、机が大きな音を立て揺れる。

「なっ、何?」

 あまりの音と机の振動にキノは仰け反った。

「あっ、あの鈴美麗さん」

 振り向くと今度は女子が寄ってきている。女子にはどう接すればいいのか、わからずキノは愛想笑いした。

「今度は何?」

「ちょっと髪の毛、触ってもいい? あんまりサラサラして奇麗だから」

「はう?」

 そう言いながら、もうベタベタと触っている。キノは背中に寒気を感じて震えた。

「やっぱり、ほそーい」

 他の女子もキノの体や手を触り、やりたい放題だ。そして触って感心している。

「これが、女の子らしくなのか……」

 ともかく、キノ自身もわかっていない体なのだ。次第に頭も体も混乱してきて、顔が紅潮している。

「ちょっと、ゴメン」

 そう言って周囲の手を払い除け、キノは立ち上がった。やや足元をふらつかせながら教室を出る。
 体育館の手洗い場までなんとか辿り着き、顔を洗った。火照った顔が少し冷める。蛇口を締めると、ハンカチが顔のそばにあった。

「ちゃんと、大人しくしているね」

 マコだった。途端に安堵感が顔に出る。

「マコぉ……」

 頬が赤い、不安気なキノの顔があった。マコは両手を差しだしキノを抱きしめた。

「よしよし。大変だねぇ」

「なんで、こんなことになったんだ」

 涙ぐむ声が戸惑っている。

「あの池での出来事が原因なのかしら」

「池?」

「私もはっきり、覚えていない部分があるんだけれども……ね」

 海原は二人を見かけ、その光景をじっと見ていた。


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