この世界なら僕は変われるかもしれない。

かぐや

第8話

サレイヤ国直属ギルド 【ミストラル】
 国の力そのものを表す象徴である。
 そのギルド【ミストラル】第四師団副団長レデーヴァは、二人の兵士を引き連れ、今、アズル国の前に立っている。

「レデーヴァ様、本当になさるんですか?」

「あぁ、この国を壊滅し、サレイヤ国の領土にするんだ。この地は地理的に利用価値がある。」

「ですがっ!民の命まで…」

「だからよぉ、言っただろ?『魔物の襲来を受け、国は壊滅した』と。そう報告するってな!」

「……っ!」

 ーこの方は人の命をなんとも思ってないのか ︎

「この国にはまともなギルドはねぇ。すぐに潰せるさ。」

  レデーヴァは腰にかけていた剣を抜こうとした。

「これはこれはレデーヴァ殿、一体何をしに?」

  声がし、レデーヴァの手が止まった。見ると男が歩いてきている。
 男の名はマルス・サニール。アズル国を治める一国の主である。歳は40代と若くてして主となったが、指導力があり、皆に信頼されている。

「これはどういうことか説明してもらっても?」

 サニールはレデーヴァに敵意を向けた目で問いかけた。

「おぉ、サニールさん!いやなに、そちらから魔物が出たという連絡を受けましてな、護衛に来たというわけです。」

 レデーヴァは笑顔で答えた。

「そうですか…。いやしかし不思議ですな。」

「不思議?」

「えぇ、ただの護衛のために、わざわざあなたみたいな副団長が来るものなのかと。」

「………。」

「巨大な魔物でも来るんですか?」

 レデーヴァの笑顔が消えた。

「……ちっ、めんどくせぇな。もういいや。」

 レデーヴァは剣を抜き、サニールに向けた。

「なにをしに来たかって?…教えてやるよ。今からこの国を破壊するんだ!」

 レデーヴァの声に合わせて、後ろの二人の兵士も剣を抜いた。
 兵士たちはレデーヴァとは違い、浮かない表情をしている。本当はやりたくないのだろう。だが、副団長の命令とあらば、断ることは出来ない。

「……破壊するって、どういうことだ?」

 サニールの後ろから声がした。みると、カリヤと健斗がいる。急いできたせいか、二人とも息が上がっている。

「カリヤっ!お前、どうしてここに…」

「そんなことは今はいい、それよりもなにが起こってるんだ、オヤジ!」

「おやおや。息子まで来るとは、あまり集まってもらっちゃあ困るんだがな。」

 マルス・カリヤ。彼はアズル国の主であるサニールの息子であった。

「レデーヴァっ!なにをするつもりだ!」

 カリヤは怒りに満ちた顔でそう言った。

「なにって、この国を破壊して、サレイヤ国の領土にするのさ。」

「領土にするだと ︎それは国からの命令なのか ︎」

「いいや?俺の独断だが?」

「…独断?じゃあ、同盟も…」

「あぁ、それも俺が決めたよ。この国がなくなったと周りの国が知ったとき、サレイヤ国がアズル国を守れなかったと汚名がつくからな。」

 ーそう。同盟国が何かしらの襲撃• • • • • • •を受け、それをサレイヤ国が守れなかったとなると、敵対している国から、ギルドの護衛力が甘く見られる。また、他の同盟国から信用されなくなり、同盟を破棄されるかもしれないのだ。

「ふざけるな!守れなかっただと?きさまが破壊しようとしてるじゃねぇか!」

「あぁ、そうだな?」

「こんな事をして、やったのがバレたらサレイヤ国もお前もタダでは済まないぞ!」

「わかってるさ、だからこう報告するんだろ?『アズル国は魔物の襲来を受け壊滅。駆けつけた時にはもう遅かった』とな!」

 同盟を破棄した途端、アズル国はなくなった。
 そう報告されれば、同盟国にとって、サレイヤ国が後ろ盾として十分な力になっていること。そして、他の国々に護衛力の高さを示すことが出来る。

「きさま…!どこまで…!」

 カリヤの怒りは頂点に達し、レデーヴァに襲いかかった。

「おいっ、カリヤ!やめー」

 サニールはカリヤを止めようとした。が、カリヤは静止される前に動きを止めた。
 怒りが消え、代わりに恐怖を感じたからだ。そらはレデーヴァからか。いや、違う。
 後ろから殺気のような怒りを感じる。
 それは健斗からだった。健斗の体が光に包まれている。

「…ケ、ケント?」

「…どうしてですか?この国がなにかしたんですか?」

 健斗はゆっくりとレデーヴァへと向かって歩き出した。

「…なんだ貴様は?」

「…人の命をなんだと思ってるんですか。」

 自殺を図った自分が、こんなことを言う資格はないのかもしれない。だが、罪のない人々を、そして町を破壊するこは許せないと思った。
 破壊いじめをなんとも思わないことが許せなかった。
 痛みがわからないのが許せなかった。

「貴様っ、レデーヴァ様から離れろ!」

 兵士の一人が健斗に向かって剣を振り下ろした。

 ガキィィン ︎

 兵士の持っていた剣は折れ、剣の破片が地面に突き刺さった。
 もちろん健斗にダメージはない。

「…どいてください」

 健斗の手が兵士の鎧に触れた。その瞬間ー
 ドンッ!という音とともに、兵士は吹っ飛んだ。10メートルくらいだろうか。兵士は気絶したようで、動かなかった。

「レデーヴァさん…。僕はあなたを許さない。」

「なんだテメェのその力は…。まぁ、いいぜ。どの道全員殺るつもりだったんだ、まずはテメェからだっ!」

 レデーヴァは剣を構え、健斗に襲いかかった。

 ガッ ︎

 健斗に剣が当たったがダメージはない。
 目の前には青空が広がり、太陽が眩しい。
 青空?太陽?
 なんで僕は空を見上げて…。それに地面から離れている気がする。
 下を見ると、僕は宙に浮いていた。
 ような感覚だった。

 と、考えているのもつかの間。真上には剣を振り上げているレデーヴァがいた。健斗は空中で身動きが取れない。 
 レデーヴァの剣には風が纏っている。どうやらあの風で健斗は吹き飛ばされたようだ。

「じゃあな、ガキ!」

 そう言ってレデーヴァは健斗に向かって剣を振り下ろし、地面に叩きつけた。

 ズドォォン ︎

 大きな音とともに砂ぼこりがまった。

「ケントっ!」

「安心しな、すぐにお前らもあのガキのところにいかせてやるよ!」

 レデーヴァは不敵な笑みを浮かべながらカリヤ達に近づいていく。

「…くそっ!」

「….カリヤさん達に近づくな。」

「……あ?」

 レデーヴァは振り返った。だが、倒れていたはずの場所に健斗はいない。
 目の前にいた。
 まるで光速で移動してきたようだった。

「なっ、このガー」

「人の痛みがわからない人は、少しは痛い目にあってみろ!」

 健斗が振り下ろした拳はレデーヴァに的中し、ぶっ飛んだ。
 気絶をし、白目を剥いている。

 健斗は残っている一人の兵士を見た。

「……ひっ!」 

 恐怖からか兵士は震えている。剣は構えているものの、戦意はなさそうだった。

「…今すぐ帰ってください。」

「は、はいっ!」

 兵士はレデーヴァともう一人の兵士を連れて、逃げるように帰っていった。

「ケ、ケント…。」

「驚いたな。レデーヴァを倒すとは。君は一体何者なんだ?」

「…僕は、僕は….。」

「俺の友達だよ、オヤジ。」
  
 カリヤはサニールにそう言った。
 な?そうだろ?と笑顔で健斗に問いかける。

 友達…。
 本当にカリヤさんはいい人だ。
 いじめられていた世界では『友達』はいただろうか。
 心配してくれた人はいただろうか。
 手を差し伸べてくれた人はいただろうか。
 いや、いかなった。だけどこの世界にはいた。
 手を差し伸べてくれた友達が。

「ケントくん、だよね?君はどこの国の者なんだい?」

 どこの国…。
 日本、いや、それはあった世界の話。
 この世界ではーー

「僕は、アズル国の者です!」

 カリヤは笑っている。
 雲ひとつない青空に健斗の元気な声が響いていた。


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