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この世界はフィクションです。

ナナシノシロ

01 知らない場所にて

 昔に図鑑で見た事がある宇宙空間。満天の星々が取り囲む様に浮遊し、月夜が明るく辺り一帯を照らしている。気付けば彼女、成瀬優希はその場に立ち尽くしていた。

「あれ……なんで私、こんな所に……」

 辺りを見渡しながら頭の中の記憶を乱雑に漁るも、此処に来る以前の記憶だけに靄がかかり状況を整理出来ない。今日の朝ご飯も、昼休憩の食事中の友達との他愛ない会話も覚えているが、記憶はそこで止まっている。

「そうだ、スマホ……あれ?無い。おかしいな」

 スマホは普段無くさぬように上着の右ポケットに入れているはず。焦った表情でばさばさとスマホを探すも見当たらない。

「知らない場所でスマホが無くして記憶も曖昧。どうしよう、最近買い換えたばかりなのに……」

 肩を落とし、あからさまに落胆する。友達と一緒に最新機種にしてまだ数週間しか経っていなかった。

 その時、優希の耳が何かに反応した。反射的にその方向に身体を素早く向き足音を立てないように少しずつ後退りをする。微かではあったがコツっとローファーの様な音が確かに優希の右耳を通過したのだ。足音が大きくなるにつれ、比例するかの様に心臓の鼓動が身体中を駆け巡る。

 そして、遠くに映るぼやけていたシルエットが月夜の光に妖しく照らされ、姿が鮮明に映る。足の先から髪の毛までの全身が真白に包まれている物腰の柔らかそうな男性。優希の姿を確認すると男性はニコッと笑顔を浮かべ、声が聞こえるであろう距離まで歩を進めてきた。

「遅くなってしまい、大変申し訳ありません。僕はヒシロ=トライドアと申します。以後お見知り置きを」

 軽く会釈をし、再度笑みを浮かべるヒシロ。敵意はないようだが信用はまだ出来ない。ヒシロから目を離さずに優希も会釈を返す。

「成瀬優希様、ですね。ご案内致しますのでご一緒にお越し下さい。ティ……失礼、主がお呼びです」

 コホンと口元に手を当て、わざと咳払いをするヒシロは、是が非も言わせず身体を180度回転させ踵を返す。知らない人について行くのも危ういが、この場に残っていた方が危ない。そう感じた優希はヒシロを見失わぬ様に少し小走りでついて行った。

✤✤✤

「…………………………」

 ヒシロの後方に一定の距離を置きながら歩いてもう5分程経っただろうか。何も話さず足音だけが空しく響き、風景すら変わらない状態で本当に進めているのだろうかと、優希の心情は疑心で溢れていた。

 そう思った束の間、ヒシロの足音が消え、ワンテンポ遅れて優希も足を止める。そこに顕現したのは大きな扉。ヒシロが扉の近くにまで距離を詰め、1.2.3…そして4回ノックをする。木製特有の軽快な音が辺りに響き渡り、その音が消えた頃。

 扉が静かに開かれる。

 中から強い光が放たれ、優希は咄嗟に腕を目に覆いかぶせた。数秒経った後、おずおずとヘーゼルカラーの双眸を開く。

「え…………?」

 優希の瞳孔が認識した空間には、先程まであった扉は何処にもなく。長いテーブルにそれを囲う様に対極に置かれた2つの椅子。更にその奥には何も置いていない膨大な数の棚と先程よりひと回り小さい扉。家具は全て白銀色で統一されており、景観は星1つ無いただ黒く薄暗い殺風景な部屋であった。

「成瀬優希様をお連れ致しました」

 ヒシロが声を上げる。決して大きい声では無いがこの狭い空間の全域に届くには充分な音量であった。その声に反応したのか、扉が勢い良くダンッ!と開かれる。先程同様に光が放たれ……いや、正しい表現としては放たれたのではなくその部屋から逃げ出す様だった。光が宙で集まり、ミニ太陽のような役割を果たすおかげで辺りが鮮明に映る。

 そして遅れて現れるヒシロが『主』と呼ぶ存在。身長は150センチ程の小さく華奢な女性。シンプルなデザインの肩紐ロングワンピースの上に細かく鮮やかな刺繍が施されたネグリジェ。一歩一歩此方に近づく度に膝下まである黒の髪がたなびかれている。

「よく来たね。と言ってもまぁ、連れてこられたが正しいんだろうけどね」

 ごめんね?とでも言いたい様な苦笑いを浮かべて彼女は静かに席につく。同時にヒシロがこちら側の椅子を少し引くと、優希に座るよう催促し、優希も素直にそれを受け入れ静かに座る。優希が座るのを確認するとヒシロは少し頭を下げると『主』の斜め後ろに立ち位置を固定した。

「早速で悪いけど、いくつか質問させてね。まず、君の名前は?」
「え、えっと。成瀬優希です……」
「髪の色は何色?それは地毛かな?」
「髪は染めてないので地毛だと思います……。色は多分ダークブラウン……って言うんですかね。確かそんな色だった気がします」
「なるほどなるほどー」

 優希が質問に答える度、ヒシロがメモのようなもので何かを筆録する。まるで面接のようなその雰囲気により一層、優希の緊張度は高まっていた。だが、そんな気持ちは伝わるはずもなく着々と質問は続けられた。

「……最後に、君は何故此処にいるのか検討がついている?」
「?……いいえ」

 その答えをまるで分かっていたかの様に質問者の口には笑みが浮かんでいた。ヒシロの筆録していたペンの走る音が消えると、『主』はゆっくりと私に告げる。

「これで質問は終わり。やっぱり君も直前の記憶がないのか。……もう1つだけ聞いていいかな。自分が思い出せる最後の記憶は?」

 手を顎に当て、もう一度記憶の道筋を辿っていく。今度はゆっくりと丁寧に。頭の中で記憶の断片をかき集め、それを少しずつ時列事に当てはめていった。

「講義が終わって……ユリと一緒に買い物に行って……。あれ、そもそもなんで買い物に行ったんだろう」

 ユリは優希の数少ない親友と胸を張って言える存在。だが帰り道は真逆で、買い食いなどはするものの買い物等は休日にしか行ったことはなかった。

「……結局思い出せたのは、買い物に行った事までで、午後6時位です」
「そっか、ありがとう。次は優希の番。聞きたいこと沢山あるだろうし、私達が答えられる事なら最低限教えるよ」
「…………あのー、今更大変聞きにくいのですが、名前を教えてもらえますか?」

 はにかんだ表情を零す優希に呆気にとられたように真紅の瞳をぱちくりとさせる女性は、後ろを振り向き、小声でヒシロに話しかける。

「君、もしかして言ってないの?」
「……いつもご自分から名乗ると仰っておりましたので」
「気まずくなるから事前に伝えておいてって言ったよね?」
「いえ、そのような事は聞いておりません」

 話においてけぼりな優希には目もくれず、眉間に皺を寄せ気に食わない表情で話す『主』に対し、紺碧の瞳を閉じ自分は聞いていないと冷静に返答するヒシロ。

「ヒシロくんそういう所あるよね、私そういうの嫌いだなぁ」
「……それでも構わない」
「あっそう。じゃあ明日からはクロノくんを呼ぶことにするよ」
「それは違くないかティー!……悪かった。俺が悪かったよ」
「分かればいいんだよ、分かれば」

 釈然としない結末に、少し不服そうな表情で髪を掻き乱すヒシロに満足と言わんばかりに嘲笑を咲かせる『主』。

「……それで私の名前についてだったね。私はティフォ=スパネグラ。ティフォって呼んで」

 身体を優希の方へ戻し、軽く自己紹介をするティフォ。よろしくと笑みを浮かべる彼女に深々とお辞儀をし、そのまま質問を続けた。

「ティフォ……さん、それとヒシロさん。お二人はここで何をしているのですか?」
「呼び捨てでいいよ、優希。その質問に関してはヒシロが答えてくれる。じゃあヒシロくんよろしくね」
「優希様、先程はお見苦しい姿を失礼致しました。質問の答えですが、僕達は貴女が住む地球を含めた周辺の惑星等を監視、管理をしております」

 話の大きさに疑惑の念が頭をよぎるが、ティフォ達の面構えは嘘をついているようには見えない。額から頬へ向かって汗が流れる。優希が更に踏み込んだ質問をした。

「貴女達は何者ですか……?」
 その質問にティフォが不敵な笑みを浮かべる。そしてゆっくりと口を開く。その返答に優希は吃驚する。聞き間違いではなく、確かにこう言っていた。

「私は『星の観測者スターゲイザー』。君達の世界の言葉を使うなら『神様』に値する。」

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