『経験値12000倍』チート外伝 異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。

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キャプテン



 翌日、田中・佐藤・鈴木の三名は、部室に出向いた。 


 田中は、スゥっと息を吸いながら、バァンと乱暴にドアを開け、開口一番、


「キャプテン、誰やぁあ!」


「……は?」


「キャプテン誰やぁ、言うてんねん!」


「……僕だけど?」


「よし、ほなワシにキャプテンの座ぁゆずれ。今日から、ワシが、このチームの監督兼キャプテン兼投手兼部長や! ええな! 文句があるんやったら、今すぐ表出て、かかってこぉい!!」


「ああ、いいよ。お好きにどうぞ」


「……えぇえええええ?!」


「元気があって大変よろしい。これからもその調子で頑張って。じゃあ、僕はトレーニングルームで汗を流してくるから」


「待て待て! なんやねん! 一年が急に、こんだけナメたこと言ってんねんで! ここは『ふざけんな』ってくってかかるとこやろ!」


「キャプテンやってくれるんだろ? ありがとう以外の感情はないよ。実は、今ちょうど、一・二年が、主将の座を押しつけ合っていた所だったんだ。二年の今泉くんが、死んでもやりたくないってゴネてね。ほんと助かったよ。ほら、学級委員やってくれる人に感謝する気持ちあるだろ? あれと同じだね」


「……」


「じゃあ、僕はルームに行ってくるから。キャプテン、あとはよろしく」


 そう言って部室を後にする三年の伊藤。




 その背中を見送りながら、




「ほんまにすごい野球部やな。もはや感服するわ」


「文句言ってくる上級生を実力で黙らせて全体を統治する作戦、あえなく失敗ですね」


「ぴよぴよ(まさか、あれだけふざけた事をヌカす一年に、敵意を向けるどころか、感謝の意を示してくるなんてね)」


「……まあええわ。気を取り直して……とりあえず、他の連中! 傾聴!」
 田中は、入室時からずっとキョトンとしている一・二年、計三名のチームメイト(もう一人の三年は欠席)に向かって、


「今日からワシがキャプテンで監督や。ワシの言うことは絶対。ええな!」


「……別にかまわないが、お前は何がしたいんだ?」


「おまえ、だれや?」


「三分類、五組の一年」


「さんぷん? すごい名字やな。まあ、比知黒とか気仙沼とか天王寺屋とかよりはマシか。ちなみに、今言った名字は、小学校の時、ホンマにおった同級生や」


「どうでもいい。で、お前は何がしたいんだ? キャプテンだろうが、部長だろうが、監督だろうが、好きにすればいいが、この野球部では、その先に何もないぞ」


「なんもないかどうかはワシが決め――ん? おまえ、投手か?」


「なぜ分かる」


「筋肉の付き方でポジションくらい分かる。伊達や酔狂で監督をやろうとしてるわけやない」


「へぇ。それが事実なら本当に凄いな。……しかし、それだけ野球に詳しいヤツが、なんでこんなところに来たんだ。西教か字石にでも行けばいいものを」


「そんなもんワシの勝手やろ」


「おっしゃる通りだ。さて、着替えも終わったから、俺はロードワークに行ってくる。あとは、お好きなようにハシャイでいてくれ」


「待てや、おい。まだ話は終わっとらんで」




 三分の腕を掴んで凄む田中。


 そんな田中に、三分は、鬼の形相で、


「腕をつかむな……ケガしたらどうする」


 ドスの利いた声で凄んでくる三分に、田中は一切ひるむことなく、


「おまえ、アホか。壊れる掴み方なんかしてへん。そのくらい、筋肉と骨の構造から考えれば分かるやろ。まさか、そんなんも分からんくらいアホなんか」


「……離せ」


「監督であるワシの命令は絶対や。待てぇ言われたら黙って待て、ボケぇ。高校野球ナメんなよ」


「離せ!」


 言って、三分は、自分の腕を掴んでいる田中の腕を掴み、全力で握り締める。


 だが、


「全然痛ないんねんけど、お前、握力低すぎやろ」


「……」


「ほらほら、なにしてんねん。もっと力入れろや。さらに弱なってきてるで。投手のクセに、ゴミみたいな握力やな」


「……くっ」


 そこで、田中は、


「っ!!」


 三分の左手を慎重にひねり上げ、手のひらと腕の筋肉、そして太ももとふくらはぎを触りながら、


「ほむほむ。球種はカーブとスライダー。スタンダードなやっちゃなぁ。で……速度は……ほう、130オーバーか。一年でその速度が出せるか。左の一年でその速度はなかなか出せん。全国見渡しても、十人おるかおらんか。なかなかの原石や」


「……なっ……どういう……」


「ワシくらい一流の目があれば、指タコの位置で持ち球くらい分かる。出せる速度は、身長と筋線維の密度を計算すれば容易にはじき出せる」


「……」


「チェンジップは指タコでけへんけど、手首回りの筋肉に独特のクセが出る。お前は投げられへん。少なくとも練習はしてへん」


「なんなんだ……お前……」


「さて、問題は、なんで、そのレベルの投手が、こんな高校におるか……弱い高校で強い高校に勝ちたい願望……は、ここまでの言動から鑑みるに、勝ち負け以前の問題に奔走するタイプやないから、人数問題があるウチでは考えられん。それに、この肩肘の状態からヒシヒシ伝わる過保護感……なるほど……ケガに敏感な親の命令で小中を捨てる奴はたまにおるけど、お前の場合は、自分で高校まで捨てたってことか」


「!」


「六大学からのプロ狙い……違うな。この尋常じゃない過保護っぷり、すべてをプロに捧げる覚悟がうかがえる。となると、高卒プロ入り狙い……どうやって? ……親……は違うか。知人……知人の知り合い……その辺にスカウトがおるな。左の一年で130投げられれば、二年後のMAXは150もありうる。左の速球派が足りんチーム……今やと……タイガース……カープ……スワローズ……スワローズか。お前、表情に出すぎ」


「……」


「後半部分は推理やない。ただの心理学や。メンタリズムともいうけどな」


「で、だからなんだ。というか、いい加減、本当に離せ。殴るぞ」


「合格や。ワシと勝負せぇ」


「……は?」


「まったく否定せぇへんところを見ると、お前、マジで高校捨てとんのやろ。というか、まあ、この高校に入っとる時点で確定やけど」


「ああ、そうだ。俺は高校野球なんかで肩肘を消費するつもりはない。俺はプロで二十年投げると決めている。最初にハッキリ言っておく。それを邪魔するヤツは許さない」


「ほう、二十年ねぇ。プロ投手の二十年は、エリートサラリーマンの九十年分に匹敵する。えらい長いこと働く気やねんなぁ。見事な社畜精神。御立派、御立派。全国のニートに聞かせてやりたいわ。……さて、話を戻すけど、その、お前のポリシーを賭けて勝負や。ワシが勝ったら、今後、一試合につき百球、ワシの言う通りに投げてもらう。もしワシが負けたら、お前の練習道具になったるわ。ブルペン捕手、球出し、荷物運び、なんでもしたる。三年間、お前に尽くしたるわ。ええ条件やろ。ワシが勝った場合でもデメリットはほとんどない。どんな試合展開になろうと、必ず百球で降りてええ。年に数回、ちょっと多めに投球練習するだけや」


「……負けたら、本当に、俺の奴隷になるんだな?」


「神と悪魔に誓って。ついでに投球指導もしたろか?」


「……いらん。ブルペン捕手だけやってもらう」


「はい、決まり」


「で、勝負の内容は? 言っておくが、お前に有利な条件の場合、勝負は受けないからな」


「簡単や。今からお前に二球投げてもらう。一球目はお前の自由に、二球目はワシの言うことを聞いてから投げてもらう。二球目の球速が一球目より五キロ以上速かったらワシの勝ち。プラス五キロ以下やったらワシの負け」


「……」


「一球目に本気出して、二球目で抜けば楽勝で勝てる。そう言いたげな顔やな。別にええで、そうしても」


「……何を考えている」


「ひとつだけ、ハッキリ言うといたる。今のままやったら、お前はプロにはなられへん」


「あ?」


「おそらく、お前は、スカウトにはこう言われとるんやろ?」


『君は非常にすばらしい。今後の経過次第で結果は変わるが、しかし、今のチーム情勢から考えるに、君の力は必要だ。二年後、期待通りの成長を遂げていたその時は、上位は無理だが、私が、必ず指名させる』




「ニュアンスは多少違うかしらんけど、まあ、そんなとこやろ」


(こいつ……超能力者か……)


「アホか、ボケ。一年で130投げる左を見れば、どんなスカウトでも唾つけるわ。けど、実績なしの高卒なんざ、仮にそのスカウトがほんまに認めとっても、首脳陣を納得はさせられへん。二年後のお前のMAXが150を超えとったら話は別やけど、ワシが見る限り、お前は、あと身長が十センチ伸びても、まあ、ええとこ145。左とはいえ、140そこそこが限界で実績がない高卒……取らへんわ、ぼけ」


「……」


「野球にちょっとでも詳しい人間なら、誰でも、投手にとって一番大事な要素が何か知っとる。それは『投手としてのメンタル』や。登板ゼロやと、それがわからへん。ブルペンで調子よくても、試合になったらストライクが全く入らんようになる完全欠陥品はこの世に仰山おる。未知数に賭けるほど、球団いうもんは楽観的でもロマンチストでもない。つまり、お前は無価値や」


「……」


「けど、二年間、ワシの言う通りに練習すれば、150どころか、160も目指せる。その可能性、つまりはワシがどれほどの男か、それをお前に見せるんが、今回の勝負のキモや。ワシが勝ったら、試合では投げてもらうけど、その代わり、本気で投球指導したる。この勝負は、お前がプロになれるかどうかの分水嶺。本気でプロを目指しとんなら、この勝負で、お前は必ず、二球とも本気で投げる。もし二球目抜いたら、お前は口だけのふぬけ。さて、どっちかな。楽しみやわぁ」


「……」



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