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8話 トコ・ドラッグのフラグメント。


 8話 トコ・ドラッグのフラグメント。

「進行状況をデジタルに確認できるのはありがたいけどねぇ」

 などと、紙野がつぶやいた直後のことだった。

「……ん……」

 トコ・ドラッグが、ゆっくりと目を覚ます。
 しかし、もともと、寝てなどいなかった。
 『今、目覚めた』という演技をしているだけ。

 彼女は、ずっと、あらゆる魔法やスキルを駆使して、
 紙野の『父性』を強制的に増幅させようと頑張っていた。

 ハッキリ言ってしまうと、彼女は、『クロートの擬態』である。
 とはいえ、ただのハリボテなコスプレではない。
 安い擬態では、紙野の『センサー』をごまかすことはできない。
 本物でなければ無意味。
 クロートならば、紙野に『子の存在はトコ・ドラッグである』と思わせることが可能。

 なぜなら、クロートは、トコ・ドラッグの因子(フラグメント)を持っているから。
 ミシャンド/ラに対する悪意を媒体にして、この世界に顕現できたのと同じ。
 『薬宮シリーズ』の因子を持つ彼だからこそ、
 『紙野創蔵』の目を欺くことができる。

 ――もっと根本的なことを言えば、欺いているというわけですらない。
 事実として、クロートの中には、
 紙野創蔵が愛している『トコ・ドラッグ』の一部が存在するのだから。


 ――『トコ(クロート)』は、
 周囲をきょろきょろと観察してから、

「は? ここどこ?」

 と、何も知らない美少女の演技を徹底する。
 すべては、紙野創蔵をコントロールするため。

 トコは、周囲確認の中で、紙野を発見すると、
 険しい顔つきで、

「そこの臭そうなヘチマ……あんた、だれ?」

 と、言葉を投げかけた。

 能力は高いが、口の悪い美少女。
 それが、トコ・ドラッグの性格。

 ――クロートは徹底して、トコ・ドラッグを演じる。
 それは、けっして、難しい事ではなかった。
 実のところ、クロートは、ほとんど演技をしていない。
 ほぼほぼ自然体のまま、『自分の中にある一部』をさらけだしているだけ。

 自分の中に存在する『トコ・ドラッグの因子』を濃くするだけで、
 自然に、『トコとしての性格』を前面に出すことができる。

 対『紙野創蔵』においては、非常に便利な存在。
 それが、バリアブル・ミシャンドラ・クロート。

 ――ただ、いつまでも演技をしていたら、
 いつか、どこかでほころびが出てくる可能性がある。

 だから、クロートは、徐々に、『トコの因子』の濃度を濃くしていっている。

 すでに『紙野の父性を底上げする』という作業は終わっているので、
 『クロートの意識』は必要ない。
 あとは、潜在意識に潜んで、無意識の心理コントロールをするだけでことたりる。

 だから、クロートは、トコの因子を濃くするのと並行して、
 自分の自我を、どんどん消していく。

 現段階で、すでに、『トコ・ドラッグの意識』が9割を占めている。
 ゆえに、すでに『演技をしている』という段階を超えている。
 記憶の制御もほぼほぼ完了した。

 もはや、擬態ではない。
 ――彼女は、トコ・ドラッグである。
 『紙野創蔵』と同じく、
 『なぜ、自分が、ここにいるのか理解していない状態』の異世界サバイバー。

 肉体も、意識も、記憶も。
 ほぼ完全なるトコ・ドラッグとなった。
 こうなったら、もはや、疑う余地はなくなる。


 ――ゆえに、『あんたは誰だ?』と問われた紙野は、


「……俺は……えっと……かみのそうぞう……です……」


 ――かなり慎重に言葉を選びながら、そう言った。


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