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9874話 冷静な交渉。


 9874話 冷静な交渉。

「それで、ショデヒよ。今回、お前がもってきた、正式な国使としての交渉の内容とは?」

「単刀直入に言います。――ルース平野までを、聖龍王国の領土とすることを認めていただきたい」

「……ずいぶんと、ふざけたことを言うじゃないか。ショデヒよ」

 ホアノスは、ショデヒの言葉の裏の裏まで読もうと頭をまわしている。

 領土の割譲を求めるというのは、普通に考えれば戦争案件。
 それを、正式な国使として告げるとは宣戦布告と捉えられてもおかしくない。

「ルース平野は、遥か昔からトーン共和国の領土。それを割譲せよと? ありえない話だ」

 ゆっくりと、事実と言葉を並べていくホアノス。
 しゃべりながらも、頭の中で、ショデヒの思惑――聖龍王国の思惑を思案する。

(本当に、正式な国使として、ここにいるのか? 領土を広げたいと願っているショデヒの暴走では? もし、そうだとすると、聖龍王国でおきた革命とやらもウソくさくなってくる……さて……真意はどこにある?)

 考えている間に、
 ショデヒが、一度コホンと、セキをはさんでから、

「確かに、交渉で領土を譲っていただくというのは、ありえない話ですね。そういうことは、基本的に、戦争でカタをつける話」

 当たり前の常識を語るショデヒに、
 ホアノスは、色々と頭をまわしつつも、

「まさに、そのとおり。どうしても欲しいなら、一度、命を奪い合う必要がある。――しかし、ただ『領土を広げたい』と言う理由だけで、戦争などはじめてしまえば、きわめて野蛮な侵略者として世界に認知される。そんな危ない国は、北大陸全土の敵となってしまうだろう」

 ホアノスも、また、あえて、当たり前の認識を、丁寧に並べてから、
 次に、ちょっとした『脅し』と『蔑み』を含めて、

「北だけではなく、南も参戦するであろうな。魔王ゾメガは、非人道的な侵略行為を是としない紳士というウワサ。実際、私は、何度かゾメガと話したことがあるが、あの化け物は、なかなか話がわかる。もし、モンスターではなく、純粋な人間として生まれていれば、あるいは、真に有効的な関係を結べたやもしれん。まぁ、相手が、下賤な魔人である以上、そのような、本物の関係性に辿り着く事などありえないがね」

 差別意識の強いホアノス。
 対象が、いかに優れていようと、『出自』が劣っているのであれば、絶対に認めない。
 非常にわかりやすい差別主義者。

「もちろん理解しております。すべて、理解した上で、今回、私がここにきている、ということを、まずは、ご認識いただきたい」

 ショデヒは、あくまでも丁寧に、冷静に、厳かに、交渉を進めようとしている。

 その態度を受けて、ホアノスは、色々と考えつつ、

「……ふむ……つまり、聖龍王国は、全世界の敵になると? すべてを失うぞ?」

「いえいえ、全世界を敵にまわすことを望んでいるわけではありません。今後の立ち回りでヘタを打ったら、そうなってしまう――その可能性を十分理解した上で、聖龍王国は、ルース平野を求めている……と、そうご理解いただきたいのです」



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