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93話 あの時とは違う。


 93話 あの時とは違う。

「ぐっ……ぐぅうううっ! け、欠損治癒ランク15」

 即座に回復魔法を使うザンク。しかし、

「っっ?! ぎゃぁあああああっ!」

 回復魔法を使ったことで、むしろ、さらなる激痛に襲われるザンク。

 あまりに深い痛みの中、
 思考力は明確に低下しているものの、
 もともとの思考力がとんでもないため、
 そこらの一般人よりもはるかに速く、正確に、丁寧に、
 ――頭をまわすことが出来た。

(……『反転』の魔法か?! いや、そういう『呪(じゅ)』か?!)

 どちらの可能性もありえた。
 『反転』は、回復魔法でダメージを受けるようになる魔法。

 『呪(じゅ)』は、『相手を不快にさせることにかけては最強』の便利な万能デバフ。
 『回復魔法を受け付けなくなる』という呪いは非常にメジャー。

 ――ほかにも、目の前の竜人が、『そういう系(回復魔法を阻害する)のスペシャル』を、保有しているとい可能性もある。


(しょ、詳細は何だってかまわん……とにかく、どうにかして止血を……)


 オーラで止血をしようと試みているのだが、
 しかし、腕から血があふれ出る。

 止めようとすればするほど、
 むしろ、もっとダラダラと大量に。

「うっ」

 クラっとして、その場に倒れこむザンク。

(血が……減りすぎた……)

 視界がボヤける。
 一気に大量の血を失い、全身のあらゆる細胞が呼吸困難になって悲鳴を上げている。
 しかし、どうしようもない。
 対処できない。
 しようとすればするほど悪くなるのだから。


(あかん……この出血量……やばい……普通に死ぬ……)


 死にかけているザンクに、
 目の前の竜人は、

「お前の自由時間はもう終わった」

 そう言いながら、ザンクの頭を掴んで、
 己の顔の前まで持っていくと、
 ザンクのうつろな目を睨みつけ、

「ここからは、『意思なき歯車』として働いてもらう。貴様は、タナカ・イス・トウシと比べれば、かなりお粗末だが、しかし、まあ、一応、『オルタナティブ』としての役割は果たせるだろう。むしろ、トウシよりも尖っていない分、扱いやすい。『命の格』は低いが、『歯車の一つ』としては、まあ、むしろ優秀かな」

 おそろしく『ナメくさったこと』を言われているが、
 しかし、そんなことを気にしている余裕はなかった。

 ザンクは、

「……ザンク……さんは……死ぬ……んかな……?」

 朦朧とした中で、必死に問いかける。

 竜人は、特に感情をしめさず、たんたんと、


「その認識で間違いはない。具体的には少し違うが。まあ、貴様からすれば詳細などどうでもいいことだろうな。結果だけでいえば、大差はない」

「そうか……死ぬんか……まさか……こんな……しょうもない……最後とは……」

「はっ。貴様のような『ただの部品』が、綺麗に命をまっとうできるとでも? そこまで世界は優しくない」


「……あ、そう……それは……残念……」


 ザンクは、最後の最後まで『田中・イス・斬九』でいようと努めた。
 それは、最後の意地であり、ザンクなりのプライド。

 絶対にゆるぎない、彼の大事なもの。
 たとえ、命の危機に陥っても、
 『自分らしくはあろう』という気概。

 それは、レバーデインに殺された時もそうだった。
 いつだって、本質は変わらない。

 だから、


「……残念の一言で終わらせるには……ちょっと、もったいないな……」


 ザンクはあがく。
 レバーデインの時は、まだ『何もなかった』ので抵抗できなかったが、
 しかし、今のザンクさんには手札がたくさんある。

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