センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)

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42話 シューリの前では流せない涙。


 42話 シューリの前では流せない涙。

「あなた様が積んできた努力は、間違いなく、全世界ナンバーワンです」

 そんなアダムの言葉を受けて、
 センの中で、何かが決壊した。

 ――気づけば、勝手に、涙が流れた。
 我慢しようと頑張っても、ボロボロと溢れて止まらない。


 別に、『誰かに認めてもらいたい』と思っていたわけではない。
 『褒めてほしかった』というワケでもない。


 センエースは孤高。
 『己一人の感情論』だけで世界が完結している変態。
 そういう変態でなければ、3億年、一人で頑張りぬくことなど不可能。

 ――しかし、『称賛を望んでいたかどうか』なんて関係ないんだ。
 『頑張った部分』を心から認めてもらえて、まっすぐに褒めてもらえたら、
 心と魂は、どうしても、震えてしまうもの。

(みっともない……とまれ……)

 センは、どうにか涙を抑え込もうとしたが、
 しかし、とめどなくあふれてくる。

 ――コレは、『シューリの前では決して流せない涙』だった。

 アダムの前だったら良いのかというと、
 決してそういうわけではないが、

(アダムの前で決壊していなかったら、いつか、シューリの前で決壊していた可能性が高い……)

 その現実が、センには分かっていた。
 ――だから、センは、アダムに心底から感謝した。
 『助かった』と、
 『救われた』と、
 『アダムがいてくれてよかった』と、心から思った。

「……ありがとう……」

 センは、アダムの背中に手をまわして、
 愛おしそうに、ギュっと、抱きしめた。

 色々な想いを込めて口にした感謝の言葉。
 その言葉の重さが理解できたアダムは、
 溺れるような幸福感に包まれていた。

 優しい時間が流れていく。
 まるで心がとけて、混ざり合っていくような、
 そんな、とても穏やかな時間だった。


 ★


 涙を止めて、抱きしめ合うのもやめて、
 彼女と並んで座るセン。

 なにかを話したくなって、だから、

「アダム。お前、ここに来る前は何をしていた?」

 と、軽い気持ちで話をふってみた。
 すると、

「覚えておりません」

 想定外の答えが返ってきて、センは目をまるくする。

「いわゆる記憶喪失でして。自分の名前や能力、シューリに関すること、一般常識……その辺のことだけは覚えておりましたが、いわゆる『思い出』といわれるものが、完璧に欠如している状態なのです」

「サラっとすごいこと言うな……」

「三日前、この近辺で目覚めたのですが、それ以前に何をしていたのかは、ほんとうに、一切おぼえていないのです。どこで生まれ、どうやって生きてきたのか、何も覚えておりません」

「なのに、『シューリを殺せば、1兆の敵を封印できる』っていう、ピンポイントな情報は覚えていた、と。すごいね」

「それだけではなく、シューリが、あの時点の私よりも強いということも、理解できておりました。ですので、目覚めたと同時に、目の前に開いたソウルゲートに私は飛び込みました。シューリを確実に殺すため。そのために、私は6万年を積んだのです」

「……」

「主上様。今の私にとっては、あなた様の隣だけが、私の居場所。ですので、どうか、死なないでいただきたい」

 まっすぐな目で、センを見つめてくるアダム。
 その目を見て、センは気づいた。

(こいつ、俺が、『1兆の敵』と相討ちするつもりだって気づいているな……)

「お約束していただけますか?」

「この世に『俺を殺せるやつ』はいない。1兆の敵であっても、俺は殺せない。だから、俺は死なない。約束する必要はない」

 そう言って、ごまかしていく。
 約束はしない。
 正式に言うと、そんな約束は出来ない。

(……死んでも守る……シューリと……お前を)

 守るべきものが増えると、
 その分、背中が重くなる。
 けれど、この重さは、悪くないと思えた。

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