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65話 オシオキの魔法。


 65話 オシオキの魔法。

「ほう……召喚されたことなどなかったから知らなかったが……なるほど、使役している魔物が受ける罰系の魔法は、こんな感じなのか……衝撃と痛みだけではなく、頭の中に、命令に対して従順になるよう、本能に訴えかける直接的な指令が刻まれる……精神力が一定以下の者であれば、容易にコントロールされてしまうであろう」

 ゾメガは、新鮮な体験を面白がってはいるものの、
 しかし、実際に、罰の効果があったようには見えない。

 オシオキの効果がまったくないことに対し、
 大きな動揺をみせるパラミ。

「なっ……ランク20の雷罰をうけて、どうして……」

 高位のモンスターであっても、
 ランク20の魔法でしつければ、
 さすがに言うことを聞くようになる。
 それが、今までのパラミの中の常識であり、世界の事実であった。

 だが、ゾメガは、

「たかがランク20程度の魔法で……というより、『貴様程度の魔力』しか持たぬ者の『些末な魔法』で、余をどうにかすることなど、できるはずがなかろうて」

 尊大な態度でそう言うと、
 パラミは、顔を真っ赤にして、

「私は! グリドの第二王子だぞ! この世界で最高格の力を持つ最強の召喚士だ! 私に使役できない魔物などいない!! 厳罰ランク20!!!」

 より強いオシオキをあたえる魔法を使うパラミ。

 だが、ゾメガは涼しい顔で、

「厳罰の魔法は、余も、一応使えるが、これまで、一度として使ったことなどないな。どんなモンスターであろうと、余を前にすれば、当然のように、心から平伏する。モンスターの本能は正確だ。強者を正しく理解できる。その点において、貴様ら人間はゴミだな。このゾメガ・オルゴレアムを前にして、それだけ愚かな態度をとれる者は、他の種族だと、そうはいない」

 そう言いながら、ゾメガは、右手をパラミに向けて、

「呪還(じゅかん)ランク25」

 受けた『呪系の魔法』をそのまま返す魔法を使う。

 本来であれば、召喚獣が、召喚主に対して魔法を返すことはできないが、
 ゾメガとパラミほどの差があれば、それも不可能ではない。

「うががががががっががががががががががっ!」

 全身の骨を砕かれるような激痛が走った。

 『今まで、自分は、この痛みを、モンスターに与えていたのか』と、反省したりするのであれば、まだ、人間的な成長も見込めたかもしれないが、しかし、歪んだ王族であるパラミは、そんな常識的な視点でモノを考えたりしない。

 いつだって、『世界は自分を中心にまわっている』し、
 少しでも自分を苦しめる者は、それがどんな動機を持っていようと、
 完全悪として処理することが許されている。
 ――そういう世界観で生きている者は、そうそう反省などしない。

「き、きさまぁ……」

 どうやって、ゾメガを完全支配しようか、
 と、そんな風に悩んでいると、
 そこで、パラミは気づいた。
 自分の両手が、漆(うるし)をぬりたくったような漆黒に染まってきていること。

「え、えぇっ?! なに?! なんだ?! なんで、手が……っ! ゾメガ、貴様、何かしたのか?!」

「厳罰の魔法を返しただけだ。他は何もしていない。だが、貴様に何が起こっているのか、だいたいの予想はつく」


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