センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)
38話 10000年の高み。
38話 10000年の高み。
ピィイインと、空気が張り詰めた。
センは、柔らかに武を構えており、
ブロールは、強健な武を構えている。
ほんの数秒の静寂。
最初に動いたのはブロール。
綺麗な突撃だった。
芸術的と言ってもいいムーブ。
オーラを込めた拳でセンを殴りつけるブロール。
そんな暴風(ブロール)を、
センは、まるで柳のように、
「っっ?!」
鮮やかなスウェーで回避する。
リンボーダンスのクライマックス中のような体勢になっているセンは、その状態のまま、右ヒザを上につきあげた。
「ぐぶっ」
ブロールの腹部に直撃。
――そんな一連の動きを受けて、
ブロールは意識改革を開始する。
「……存在値200前後に見えているが……なるほど、高位のフェイクオーラか。あまりにも、よどみがなさ過ぎて、気付かなかった」
自分の強さを隠す魔法『フェイクオーラ』は、
下手な使い手だと『かくしているのがモロバレ』の変なオーラになるが、
達人に使われると、見抜くのがだいぶ困難になる。
「今の動きから推察するに……貴様の『本当の存在値』は、400前後と言ったところか」
その言葉に反応したのはアブライだった。
「た、たかがナイトが、王族級の力を持つなど、ありえんだろう、ブロール!」
「私もそう思いますが、事実、この者は強い。本気を出す必要がある」
そう言って、ブロールは腰を落とした。
オーラと魔力を、腹の下に集中させる。
グツグツと、燃えたぎるような波動を感じさせる。
ブロールは、まっすぐな瞳で、センを見据えて、
「名前は……なんだったかな?」
「この世で最も偉大な聖女ノコ・ドローグの剣、センエース」
「そうか。では、行くぞ。センエース」
先ほどのような様子見の一撃ではない。
魂を込めた『本気の一撃』でセンを討とうとするブロール。
その一手を受けたセンは、
まるで、『熟練の導師』のように、
「……オーラの流れに意識を傾けすぎだ。中級者にありがちのミス。たまには、目に映るものだけに注意を向けてみるのも悪くはない」
センの動きは、常にフラット。
川のせせらぎのように、涼やかでゆるぎない。
そんなセンのムーブを受けて、
ブロールは、心の中で、
(……遠い……なんだ……なんだ、この遠さは……)
動揺が止まらない。
目の前にいる男の『高み』に震える。
「こだわりは大事だが、とらわれたら本末転倒……という観念にも、気付けばとらわれてしまう。それが、魂の指向性における、もっとも厄介な点」
受け攻めが常に完璧なセン。
たった数手をかわしただけだが、ブロールは理解した。
(……勝てない……この男は、強さの次元が違う……)
センは強すぎた。
そして、センの強さが理解できるくらい、
ブロールも強かった。
「力とは、蔵(ぞう)を象(しょう)にするため、技とは、流(りゅう)を疏(そ)とするため。では、心とは、何を何にするため?」
疑問符を投げかけたのは、
きっと、まだ、答えに届いていないから。
センは、
自分が『10000年』をかけて磨き上げてきた『高次の武』を、
ブロールに伝えようとしている。
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