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34話 せん。


 34話 せん。

「実は、その……ソンキー最大の敵である裏ボスの名前を……忘れてしまいまして」

 その言葉に、トウシは最大級の違和感を覚えた。

「……忘れる? ……自分が描いた作品のボスの名前を? それも、お前ほどの記憶力を持つ天才が?」

「……コスモゾーンにアクセスできるあなたに天才と言われても、皮肉にしか聞こえませんが……まあ、確かに、私は、人並み以上の記憶力があると自負しております。一度読んだ本を丸暗記することも可能です。……それは、自分の作品に関してもそうで、というか、他の本なんかよりも、よっぽど強く、深く、キャラや設定に関して、しっかりと、すべて覚えています……けど……忘れてしまったのです……これが、自分でも理解できなくて……」

(……そこに、何か重大なヒントでもあるのか? ……ラスボスの名前……)

 何かが、繋がりそうな気がした。
 あくまでも、ただの勘。
 というか、ソンキーに関する事案はすべて勘。

(すべてが『線(せん)』になりそうで……けど、何か、大事なところが『栓(せん)』でふさがっているような……そんな違和感……ある種の『尖』った『選』択を強いられているような……何かに『扇』動されているかのような……くそ……己の『浅』学さが憎い……もっと、この地獄を突破できるだけの『専』門的知識を有していれば……何かが変わった可能性もありえたのに……)

 頭の中で、何かが一つになろうしている。
 けど、それは、最後の最後で形にならずに霧散する。

 まるで、誰かに、強く邪魔されているかのよう。
 届かない答えに辟易していると、
 そこで、
 黒木が、

「……あなたの質問には、すべて答えました。それで……何かが変わりそうですか?」

 その質問に対する答えを、
 トウシは持ち合わせていない。

 しかし、トウシは、

「ああ、十分や。すでに、ワシの頭脳は、未来を描き切った。協力、感謝する。あとは安心して寝とれ。ここから先の面倒事は、ワシが全部対処する。必ず、世界を救ったる」

「世界を救う……そんなことが、本当に――」

「できる。もちろん、そこらの一般人には絶対にできん。けど、ワシならできる。これは、ワシにしか出来ん不可能や」

 決め顔で、ドヤりつけるトウシ。

「ほな、やることがあるから切る。あとは放っておいてくれたらええ」

 全力でカッコつけながらそう言って、
 ブツンと電話を切り捨てる。

 そこから、

「……」

 無音の時間が流れた。

 誰にもつながっていないスマホを、
 数秒だけ、黙って眺めていたトウシだったが、

「……え、いや、なんの解決策も見つかってないやん……」

 ボソっと、言葉をこぼす。

「え、なんで、ワシ、あんなこと言った? え、意味わからん、きもい、きもい……」

 トウシはバカじゃない。
 だから、『先ほどの自分の発言理由』が、本当は完璧に理解できている。

 さきほど、黒木に対してドヤった理由。
 それは、

「え、ワシ、なんで、無駄にカッコつけたん? ……え、ちょ待って、ほんま、勘弁してくれや、なんの意味があんねん、その行為にぃいいい……っ!」

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