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29話 起承転結の『承』!

 29話 起承転結の『承』!

「……はぁ……はぁ……」

 一般女子高生『南雲(なぐも)奈桜(なお)』は走っていた。
 息を切らして、第三校舎の廊下を駆け抜けている。

 いつもはフワっとさせている明るいピンクアッシュのボブヘアーは、現在、汗でべったりとしており、比較的かわいらしい顔は恐怖に歪んでいる。

 その平均的な体躯を必死に駆動させて、
 南雲は、深夜の時空ヶ丘学園で独り、必死に逃げていた。


「……誰か助けて……」


 目が覚めたら、妙な化け物に囲まれていて、
 何かの儀式の生贄にされようとしていた。

 なぜだか『絶対に起きない』と思われていたらしく、
 一切拘束等はされていなかった為、
 モンスター共の目が離れた隙に、
 儀式場(理科室)から逃げだす事に成功した。

 ――が、

「はい、そこまで」

 南雲の進路を防ぐように、二本足で立つ『酸で溶けた犬』のゾンビのような化け物が立ちふさがり、

「まったく……せめて、痛みはないようにと手心を加えてやれば、図に乗りやがって……二度と逃げ出せないよう、両足の腱を切断させてもらうぞ」

 くぐもった声でそう言って、
 腰に携えていたナタを取り出す化け物。


「い、いや……やめて……」


 南雲は、無我夢中で、
 すぐ近くにあった掃除ロッカーを開き、
 モップを取り出して、

「こないで! それ以上、近づいてきたら、これで、思いっきり叩く!!」


「そんな事をしても無意味だって事くらいわかるだろ。――おい、構えるな。やめろ。ここでわたしを怒らせても、いい事は何もな――」

「やぁあああ!!」

 南雲は、力いっぱいモップを振り下ろした、
 ――が、化け物の細い右腕に、あっさりと防がれる。

 化け物は、握りしめたモップの柄にグっと力を込めて、

「言っておくが、普通に痛いんだぞ。我々『奉仕種族』は、『神』や『GOO』の方々とは違い、魔力をほとんど持っていないからなぁ」

「ひ、ひぃい……」

 モップから手を離して後退り。
 うっすらと浮かぶ涙。
 イヤイヤと首を振る。

 そんな南雲に、モンスターは、怒りを込めて、

「魔力とは、魔法を使うためだけの居所的なエネルギーって訳じゃねぇ。筋力・俊敏性・耐久値なんかの身体能力も、内包している魔力の総量によって上下する。意味がわかるか? つまり、魔力をほとんど持たない『奉仕種族』の中でも『下位存在』である我々『グール』は、貴様ら人間と、肉体スペック的には、そこまで大きくは変わらないという事だ。『硬い棒で強く叩かれる』となぁ……痛いんだよぉ!」

「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……ゆ、ゆるしてぇ……」

「謝るくらいなら最初から暴れるんじゃねぇ。このクズがぁ」





「――どの角度から見ても、あんたの方がクズだけれどね」





 突如、化け物の背後に現れた『赤髪長身の美少女』、
 ――『紅院(くれないん)美麗(みれい)』は、
 右手で握っているコンバットナイフを、
 『グール』に躊躇なく突き刺した。



「ぐぬぅぁあ! ――くぅっ!!」



 首を刺されているが、絶命には至っていない。
 若干フラつくが、動けない訳ではない。

 どうやら、人間とほぼ同じ耐久値であっても、急所まで同じという訳ではない模様。




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