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61話 幻想の拳。

 61話 幻想の拳。

「サイコジョォオカァァァァァァァッッ!!」

 ほんの一瞬だけの冷静。
 激昂迅雷に重ねるサイコジョーカー。
 狂気の切り札が、ギニャリと、歪な音をたてて、
 ラージャンゲンの器に注がれる。

 ギギギギギギギギッ!!
 全身を包み込む精神圧迫。
 冷や汗が滝になって、
 心が次元を見失う。

「ぐぅうう、ぬぃいいいいいいいっ!! ああああああああああ!!」

 脳がシェイクされ、ありとあらゆる症状が襲い掛かる。
 頭が爆発しそう。
 全身が炸裂しそう。

 色彩の暴走。
 世界が反転する。
 命が全てを拒絶する。

 そんな絶望の底で、
 ゲンは、自分を脱ぎ捨てた。

 それまでに積み重ねてきた全てを、
 いったん、捨て去って、
 バラバラにして、
 そして、


「――幻拳(げんけん)――」


 再構築する。
 想いと覚悟を結晶化させる。

 それはただの正拳突き。
 『ゲン・ワンダフォ』と、特に何も変わらない、
 完全なるただの正拳突き。

 しかし、核に宿った想いは、
 比較にならない次元。

 だから、

「――ぐぶふぉっ」

 セイバーリッチ・プチは、吐血した。
 鳩尾(みぞおち)に、クリティカルヒットをもらい、
 苦悶の表情を浮かべる。

 そんなセイバーリッチ・プチに、
 ゲンは、続けて、

「――煉獄幻拳(れんごくげんけん)――」

 左、右、左、右と、
 連続の幻拳を繰り出す。

 ただの連射ではなく、
 一発一発に想いと覚悟が込められた、
 強烈な連続正拳突き。

 軽やかに、
 あざやかに、
 うつくしく!


「ぶふぅ! がはぁ! ぐふぅ!! ごぼへぇええっっ!!」


 吐血するセイバーリッチ・プチのトイメンで、
 ゲンも、

「ぶへぇえええっっ!」

 豪快にゲロを吐いた。
 サイコジョーカーによる頭のシェイクが限界にきていた。

 もはや、まともな思考は出来ていない。
 根性による反射だけで動いている状態。
 全身の血管が全てブチ切れてしまいそうなほど、
 パンパンに、すべてが膨らんで、
 視界には幻覚しか見えなくなって、

 だからこそ、



「――聖死烈黒(せいしれっこく)・虚空幻拳(こくうげんけん)――」



 ほとんど無意識のまま、口をついたのは、
 当然、思考を経由した概念ではなかった。

 ただ、ゲン・フォースという観念を投影した、
 極めてまっすぐな歴史と覚悟。

 それは、決して、『今』を模(かたど)る『鍛錬の結晶』ではなかった。
 しかし、間違いなく積み重ねてきたもの。
 しかして、すべてが一致する。

 ――これまでに、99回、『狂気の漆黒』と向き合ってきた、その積み重ね。
 ――海馬に投影されていなくとも、心には刻まれている純な道程。


 削られすぎて、マイナスを大きく下回ったSAN値。
 その純然たる経験値が、
 今、鮮やかに、花開く。


「ぶへぇぁあああああああああああああああああああああああっっ!!!」


 ゲンの拳をモロに受けたセイバーリッチ・プチは、

「……けはっ……」

 白目をむいて、バタリと、その場に倒れこんだ。

 その様を確認したゲンは、
 朦朧と、フラつきながらも、

「マスター……カード……」

 どうにか、セイバーリッチ・プチをラムドカード化しようとするが、
 しかし、さすがに、限界がきていたようで、

「……ぁ……」

 そのまま、その場にバタリと倒れて気絶してしまった。

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