センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)

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95話 『敬語はワガママ』という、ちょっと何いっているかわかんない概念。

 95話 『敬語はワガママ』という、ちょっと何いっているかわかんない概念。

「聖典に描かれているような地獄、ですか? 確かに、あれほどの絶望を前にすれば、私も、家族に対して、特攻の命令を出さざるをえないかもしれませんね。ただ、まあ……ああいうフィクションを前提にモノを考えるというのは、少々、飛躍がすぎるとも思いますが?」

 ジャミは、基本的に、聖典を信じていない。
 『九華のリーダー』という『ゼノリカの中核』的存在でありながら、
 『絶望に対する無知が許される幸福な時代』しか経験していないため、
 聖典に対して現実味を感じることが、どうしても出来ない。

 『誰もが明日をあきらめた地獄』の底の底で、
 たった一人、命の慟哭に耳を傾けてくれた尊き神。
 どんな絶望を前にしても『それでも』と叫び続けた王の価値は、
 『その背中に救われた経験』がなければわからない。

「……」

 ジャミの発言を受けて、
 バンプティは思った。

(ダメじゃな……言葉では伝わらん……)

 言葉を並べたてることは難しくない。
 先ほど自分が経験した地獄を、
 語って聞かせること『だけ』なら難しくない。

 少々、記憶にモヤがかかっているため、
 緻密な詳細を語ることはできないが、
 凶悪な地獄の『大まかな危険度』を語るだけなら造作もない。

 だが『語ることが出来る』というだけで、
 『伝えられる』とは、到底思えなかった。

(実際に触れなければ理解できん……あの尊さも……あの絶望も……)

 『本を読むこと』は極めて大事な学習だが、
 『実体験』に勝ることは絶対にありえない。

 『1000の解説』を浴びるよりも、
 『1の絶望』に触れる方が、
 魂魄に刻まれる学習率は遥かに大きい。

「とにかく、敬語はやめよ。さすがに、組織としての体裁が悪すぎる。平熱マン聖剣至天帝陛下のように、遥かな高みにおられる方が、信念で真摯に礼節を尊ぶ……というのであれば、また話が違うのだが、ぬしの場合、単純に、過去の上下関係の延長として、敬語を使っているだけ……ぬしは、まだ、己のワガママが許される立場にない」

 平熱マンは、基本的に、誰に対しても敬語で話す。
 それは、『関係性という視点』で『自分を下に置いているから』ではなく、
 純粋な信念による『過剰なほどの礼節』から。

 極めて特殊ではあるが、
 しかし、事実として、
 平熱マンのソレは、極まった『決意』の表れ。

 ジャミがパメラノやバンプティに敬語を使うのとは、
 根本的に質が異なる。

「……わかった。正直、やりにくくて仕方がないが、ここからは上司として、あなたに接しよう」

 タメ息をつきながら、
 ジャミはそう言った。

 ジャミは、愚直で誠実な人間であるがゆえ、
 目上の人間に対して横柄にふるまうことは、
 むしろ心理的ストレスになってしまう。

(はるかに年上で、しかも、生まれた時から、ずっと、師として導いてくれた人に敬語を使うぐらい、別にいいと思うんだが……やれやれ、まったく……)

 心の中でそうつぶやきつつ、

「事実として、私が最年少であり、モノ心つく前から、あなたに手をひかれてきた。つい敬語が出てしまう程度のことは、許してほしいものだ」

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