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8話 絶望の壁。

 8話 絶望の壁。

「こんなもんに騙されるのは頭の悪いガキだけだ。三至天帝以上の強さを持つ存在値1000のバケモノ……そんなバケモノ10000体を相手に一人で無双しましたって? バカすぎるだろ。ひどすぎる」

 『絶望の壁』は分厚いのだ。
 乗り越えることは非常に難しい。
 『乗り越えました』と文章で書くのはたやすいが、
 実際に乗り越えるために必要な苦悩の質と量は想像を絶する。

 スールは、大人になる過程で『当たり前の現実』を知って、
 だから、聖典に対して『許せない』と強く思った。

 最初に言っておくが、スールは、決して、
 自らが『絶望を乗り越えられなかった』からひがんでいる、
 ――というわけではない。

 スールは、
 この第2~第9アルファという、
 上を目指す者にとっては『無間地獄』と言っても差し支えない、
 『翼の生えた休まないウサギ』しかない戦場で、
 今もなお、ずっと、高みを目指して、もがき続けている。

 『自分自身が求める理想』を、
 必死になって追い続けている。

 武の素質は、正直、さほど高くないのだが、
 しかし、狂気の努力で道を開いてきた『本物』の一人。
 愚連に入れば、A級からスタートできるほどの超人。

 愚連のA級は、異次元の努力を要求してくる修羅の世界。

 しかし、その領域ですら、スールが求める理想からは程遠い。
 彼の肉体は、彼が求めた理想には、まったくもって近づいてくれない。

 『理想の遠さ』をスールは、常に、肌身で感じている。
 苦しみながら、うめきながら、
 『それでも』と必死になって毎日を積んでいる。
 なのに、高みはいつまでも遠いまま。

『どうして、俺はこんなにも弱い!! 必至に努力したのに! どうして俺はこんなにも弱いんだ! 苦しい! つらい! ああ、才能が欲しい! 開いてくれ、プラチナスペシャル! ゴールドでもいい! とにかく、なにか! 今を打開する何かをくれ! ああ、なんで、俺は、こんな低い場所で、ずっと、停滞しているんだ! 俺の努力は本物のはずなのに! 毎日、毎日、バカみたいに! 吐くほど! 必死になって積んでいるのに! くそぉ、くそぉ、くそぉおおおお! 俺は弱い、弱い、弱い!』

 歯を食いしばって、
 ボロボロになる毎日を積んで、
 けれど超えられない『いくつもの壁』を前に、
 いつだって、絶望し、あえいでいる。

『そ……それでも……叫び続ける……勇気を……ぎぃい……ぃいいいいっっ!!!』

 苦しみながら、うめきながら、
 『それでも』と必死になって毎日を積んでいる。
 なのに、高みはいつまでも遠いまま。

 そんな人間だからこそ、まっとうにゼノリカを敬愛できた。
 そこらのイカれたテロリストとはワケが違う。
 『弱さ』に目を背ける『程度の低い連中』とは命の格が違う。

 己の弱さと向き合って、
 けれど、超えられない壁を前に絶望し、
 それでもなお、必死になって、あがいている。
 それが反聖典組織リフレクションのスール。

 しかして、だからこそ、スールはゼノリカを愛している。
 『絶望という壁』を『キチンと本当に乗り越えた存在』に対して、
 心が、とめどない敬意を叫んでいる。

『これだけ努力している俺を置き去りにするほどの努力を、あなたたちは積んだのだろう。もちろん、俺より才能があったからというのも要因の一つだと思うが、それだけでは、その高みまでたどり着けないという想像ぐらいはつく。ゼノリカ……すごいよ、あなたたちは……本当に……美しい……』

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