センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)
6話 純粋完全英雄主義批判。
6話 純粋完全英雄主義批判。
「ゼノリカに関して不満は一つもない。ゼノリカはすごい。ゼノリカが必死になって世界を整えてくれたから、俺たち一般人はこうして、輝く明日を求める毎日を、のうのうと生きていられる。感謝しかない――」
と、そこで、スイッチが入ったのか、
スールは、ガンと、机を殴りつけて、
「それでいいじゃないか! なぜ、むりやり、センエースなどという珍妙な偶像をつくりだす必要がある! なにが『うたがいようのない完璧な事実』だ! ふざけるな! センエースなど存在しない! あんなものは、ただの妄想だ! 命は、あそこまで強くはなれない! 最強無敵の理想的ヒーローなど存在しない! この世はヒーローを許容しない! しかし! けれど! それでもぉ! 『それでもヒーロー足らんとした覚悟』が倫理の器となって世界を変えた!! 決死の覚悟を積み重ねた結果、『誰もが輝く明日を想える未来』を、その手につかんだ! それでよかったんだ! 事実は事実で美しかった! なのに……センエースなんて偶像のせいで……」
ギリッと奥歯をかみしめて、
キッと前を向き、パメラノの目を睨み、
「聖典は『弱さの飲み込み方』を説(と)いていながら、自ら、完全英雄主義という『穢れたイデオロギー』を掲げてしまったことで『虫唾が走る自己矛盾』に陥ってしまった!」
沸き上がってくる怒り。
『怒りの質』は『想いの量』に左右される。
愛が深ければ、それだけ業も深い。
「ゼノリカには十分すぎる求心性がある! なのに、なぜ、くだらない大ウソをつく!」
そこで、スールは、
アイテムボックスから、
『ボロボロの聖典』を取り出すと、
机にたたきつけて、
指差し、
「こんな嘘はいらない! ゼノリカの功績はゼノリカのものでいいんだ! こんな、絵にかいたような『理想の英雄』なんていうくだらない妄想は、『すべての命』に対する冒涜だ!」
はぁ、はぁ……と息を切らすスール。
パメラノは『スールの聖典』を手に取り、
ためつすがめつ見て、
「ずいぶんとボロボロじゃのう……この痛み具合は、粗雑に扱ったがゆえではなく、異常なほど読み込んだがゆえのもの……」
「……はぁ……はぁ……ええ、読み込みましたよ。ガキのころから、バカみたいに、何度も、何度も」
呼吸を丁寧に整えてから、
「ガキの頃は、純粋にあこがれた。センエースというヒーローに心から感謝もしていた。心底から愛していた。こうなりたいとすら思った。俺の希望であり、なによりの『夢』だった」
その想いは、『第一アルファの子供』が抱く、
ウ〇トラマンや仮面ラ〇ダーに対する気持ちに似ている。
それが、大人になるにつれて消えていく虚像であれば、問題はなかった。
ここで問題になるのは、『実在する』と聞かされて育ったか否か。
「頑張って近づいて、いつか、隣にたって、共に闘いとか、そんなことすら思った……だからこそ許せない」
「なにがじゃ? なにが、そこまで許せない?」
「ゼノリカは世界のために尽くした。あまたの絶望を乗り越えて、理想の世界をつくりあげた。俺が抱いた想いは、ゼノリカに向けるべきだったもの。俺が焦がれた『本物』は間違いなく存在したのに、聖典のせいで、俺は、長いあいだ、ニセモノに目を奪われていた。これじゃあ、あんまりだ……流れた血も、振り絞った勇気も……全部、センエースって偶像に塗りつぶされている……これじゃ……あんまりだろ……」
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