センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)

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111話 美学。

 111話 美学。

「それでは、さようならぁ」

 そう言って、
 ヤマトは、ロコの首裏に、
 トンッッ、と豪速の手刀を入れた。

「ぅ」

 と小さなうめき声を残して、
 ロコはガクっと力なく気絶した。

 ヤマトは、動かなくなったロコから少し距離をとり、
 ここまでの全てを背後で見ていたゲンに視線を向ける。

 いまだ呪縛の効力で声も出せないゲンに、
 ヤマトはニコリと微笑みかけてから、
 パチンと指をならした。

 すると、ゲンを縛っていた呪いがスゥっと消え去って、

「ぷはぁ!」

 しゃべることも、動くことも可能になった。

 それを認識すると同時、
 ゲンは、ダッシュでロコにかけより、
 彼女の安否を確認する。

 その一連の行動を、ヤマトは黙って見守っていた。

 ゲンは、ロコがまだ生きているのを確認すると、
 そのまま剣の切っ先をヤマトに向けながら、

「……なにがしたいんだよ、あんた。ロコを殺さず、俺を解放して……どうしたいんだよ、マジで」

 そう声をかけると、
 ヤマトは、

「気まぐれだよぉ、ただのねぇ」

 そう言いながら、首をぐるりとまわして、

「全宮ロコは殺すよぉ。絶対に殺すぅ。そういう仕事だからねぇ。いや、この言い方は正確じゃないねぇ。そういう仕事を遂行すると決めたから……が正確だねぇ。いかに理由があろうと、私は、自分が納得していないと動かない。私はいろいろと面倒くさい男なのだよぉ」

「……そのようだな……あんたと喋っていると『こいつ、めんどくせぇなぁ』ってスゴく思う」

 ちなみに、心の奥で、実は、
 ヤマトのイビツな壊れ方を『なんか、ちょっとカッケぇなぁ』と思っているのだが、
 もちろん、そんな恥ずかしい本音を口にしたりはしない。

「で? なんで俺を解放した? どういう系統の気まぐれから、この状況が整った?」

「唐突に『全宮ロコの魅力度指数』をはかってみたくなったんだよぉ」

「……はぁ?」

「私は、基本的に、暗殺ミッションでは、ターゲット以外を殺さないことを美学としているんだけど……今日は少しだけ、その美学をまげてみようかなと思っているんだよねぇ。ま、結果的に、この美学は貫かれることになるとは思うんだけどさぁ」

「なにを言っているのか、さっぱりわからない。抽象的な言い方はやめて、直線的な言い方にしてくれ。でないと、俺の脳では理解が間に合わ――」

「全宮ロコを守ろうとすれば殺す」

「……」

「全宮ロコを捨てて逃げれば、君のことは殺さない。大事なことは、どっちにしろ、全宮ロコは死ぬってこと」

「……」

「非常にシンプルな言葉を使ってみたんだけど、どうかなぁ? 理解できたかなぁ?」

「……ぁあ、100%の精度で理解できたよ」

「それはよかったぁ。――で、どうするぅ?」

 実際のところ、現状は、とてつもなくシンプルだった。
 ロコを見捨てて逃げれば、ゲンは殺されずにすむ。

 基本的には、それだけの話。

 ――ヤマトが続けて、

「この『面倒な手段』をとる理由は、正直なところ、いろいろとあるんだよねぇ。全宮ロコの魅力度指数を調べるのももちろんそうなんだけどぉ、君の中での『決着』をつけさせてあげるのも理由の一つ」

 感情に対する決着。
 それは、意外と消化できないもの。

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