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43話 五大家などしょうもない。

 43話 五大家などしょうもない。


 今のゲンは、ギルティブラッドのルスと同じくらい、
 ラリった目で、ロコの一挙手一投足を追い続けている。

 突き抜けるほどの情動。
 ゆえに、



「まるで獰猛な野獣のような目ね……いまにも襲い掛かってきそうな瞳……面白いわね」



 ロコはそう言って、
 ゲンに一歩近づき、

「あたしに何か言いたいことがあるなら聞くわよ。言ってみなさい」

 『発言の許しを得たから』――というわけでも、実際のところは無いのだけれど、
 ゲンは、一度、ゴクリとツバを飲み込み、大きく息を吸ってから、

「どうすれば……」

 気を抜くと、つっかえそうになる。
 うまく自分を操れない。
 一時的なブローカ野の麻痺。
 脳がバキバキになって、全身が熱い。

 だが『ここで歪んでいるわけにもいかない』という理解はできているため、
 必死になって、言葉を生成する。

「どうすれば……俺は……あなたの剣になれますか?」

「……」

 ゲンの発言を受けて、ロコは、いぶかしげな顔でゲンを見る。
 もろもろ、はかりかねている表情。
 いろいろと認識が追い付いていない。
 ゲンの情動は、あまりにも、急角度すぎる。

 そんな、絶賛困惑中のロコに、
 ゲンは、バキバキの目で、

「俺は……あなたの……」

 と、そこで、
 ソウルさんが、喉を開いて、

「ロコ様、もうしわけございません!」

 息子の代わりに謝罪をする父。
 どうにか『この散らかった場』を整えようと、頭をひねり、

「この子の夢は、五大家の類縁に名を連ねることでして、だから、このように焦った言動をとってしまいましたが、決して、ロコ様に対する反抗の意思などは――」

「違う」

 ソウルさんのフォローを、
 ゲンは、一刀両断に切り捨てて、
 ロコの目をまっすぐに見つめたまま、

「俺が望む未来は……あなたの剣。それ以外はどうでもいい。五大家とか、類縁とか、そんな、しょうもない話は、心底どうでもいい」

 ゲンの言葉を、
 ロコは、数秒かけて咀嚼した。

 ゲンの発言は、あまりにも『まっすぐ』が過ぎて、
 『色々あって、ゆがんでしまった今のロコの頭』では、
 処理するのに少しだけ時間がかかってしまった。

 だが、

(五大家などしょうもない……か。気があうわね。というより、真理が理解できていると言った方が正しいかな)

 イタズラな笑顔を浮かべて、心の中でそうつぶやく。

(しょうもなくて、くだらなくて、粗悪で、不完全にすら届いていない生ゴミ……そんなものよ、五大家なんて……)

 ゲンの言葉をキッカケとして、いつもはどうにか抑え込んでいる『憎悪』とか『反発心』とか、そういう、色々なものが、一瞬のうちに膨れ上がった。
 そのイタズラな笑顔に混じっているのは、純度と濃度の高い呆れ。
 つまりは、嘲笑。

(おっと、いけない、いけない……少し緩むと、どこまでも悪口が止まらなくなってしまう……)

 ――ついほころんでしまった表情をひきしめて、
 ゲンに強い視線を送り、


「狂気の表情。鋭い目つき。断固たる決意を感じる。……『それほどの想い』をぶつけられたこと……うれしくないと言えばうそになる。しかし、それは感情の話。今のあたしは、感情の置き場など求めていない」


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