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8話 イタズラな領域外の牢獄。


 8話 イタズラな領域外の牢獄。


 ここは、P型センキーの『中』であって、
 しかし、実のところは、そうじゃないどこか。
 ――『イタズラな領域外の牢獄』――

 誰もが心に飼っている『自分を食い破ろうとする弱さ』の結晶ともいうべき地獄。

 P型センキーに奪われたセンエースは、
 この『弱さ』しか存在しない『奪われた場所』で、
 『思念だけの存在』になって漂っていた。

 定形をもたない観念だけの存在でありながら、

「ぅ……ぅう……」

 センエースは、泣いていた。
 『世の不条理』が許せなくて、
 どうしても我慢しきれずに、こぼれ溢れた想い。

「なんでだ……どうしてこうなった……何を間違った……いや、何も間違えていない。この世界が間違っているだけだ」

 涙があふれ出た理由は、純粋無垢な憤り。
 剛健な理不尽に対する魂の悲鳴。

「ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな……不条理、不条理、不条理! こんな間違った世界……だいっきらいだ……」

 『漂っていただけ』の思念は、
 『融(と)けない不満』を原動力にして、
 定数量の形を求めた。

 その不健康な情動は、
 センエースの原始魂魄と重なって、
 不定形ではあるものの、定数を確保した形をもった。

 ユラユラと歪んで、不規則な奇形になっているセンエースは、
 弱虫の涙をながしながら、

「もう知らねぇ……どうでもいい……全部、どうでもいい……」

 頭を抱え、
 嗚咽しながら、

「いつも、いつも、なんで俺ばっかり……」

 ――『イタズラな領域外の牢獄』。
 ここは、
 『弱さ』が浮き彫りになる世界。

 心の強さを殺す世界。
 ただ『それだけ』に特化した限定領域。

 あらがうことを許さない、『弱さ』を煮詰めた地獄。

「俺はなんで、いつも、こんなに苦しんでいるんだ……俺は何も悪い事はしていない。俺は、これまで、ずっと、ただただ純粋に、世界のために頑張ってきた! 大勢の命のために頑張ってきた! なのに、なんで、いつも、いつも、いつも、こんな、誰よりもひどい目にあうんだ!」

 文句を叫ぶ。
 満たされない不満を叫ぶ。

 ――センエースは、強靭な精神力を持っている。
 どんな時でも諦めない、不屈の魂。
 しかし、それは、『弱さを持っていないから』ではない。

 センエースの中にも、『弱さ』はある。
 『人間的な弱さ』を持たない高次生命など存在しない。
 『遥かなる高みに至った神』であろうと、それは同じ。

 『自分を喰い破ろうとする弱さ』と向き合い、受け入れ、
 その上で、『ド正面からねじ伏せるだけの胆力』があったから、
 ――だから、今日この日まで、センエースは、折れずに闘い続けることができた。


 そんなセンエースの『破格の胆力』を、
 この領域は丹念に殺しつくす。
 徹底的に、圧倒的に、決定的に、叩き潰す。


「仮にだ! 仮に、この地獄を乗り越えられたとして! いつまでだ! 俺は、いつまで苦しめばいい?! いつまでこの地獄に付き合えばいい?! いつ、俺は許される?! いつ、俺は、『アガリ』を決められる?! 俺が祝福されるのはいつだ?!」


 ――『イタズラな領域外の牢獄』。
 ここは、
 『脆さ』が暴走する世界。

 『強さ』を絶対に許さない領域。
 『弱さ』に押しつぶされるしかない異次元。

「もういい! もういい! もういい! 地獄で踊るのは、もう飽き飽きだ! これだけ頑張ってきて! これだけ苦しんできて! けど、『ソンキー』にも、『P型センキー』にも負けた!」


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