センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)
40話 寂寥感ではない何か。
40話 寂寥感ではない何か。
「ぼくにとっての幸福は……いたって普通に……正常な家族の形成で……だから、ぇっと……」
「正常とは? 具体的に?」
という問いに対して、ウラスケは、
「――異質を伴わないこと――」
反射みたいに、最短の即答で答える。
まるで暗記した問答。
もはや早押しクイズ。
正解かどうかではなく、いかに早く答えられるかが大事で……
「その答えが具体的だと思う?」
問いの前で、空回りしてしまわぬように、
無様に揺らいでしまわぬように、
ウラスケは自分をしっかりと保って、
「具体的だ……ぼくにとっては……ぼくにとってのイヤなもの……その淘汰……が成された上での状態が……異質を伴わない正常……」
「イヤなもの、ねぇ。また抽象的になったわね」
自分を保とうとした分だけ、
『足下が揺らいでいるのだ』という自覚に繋がる。
答えなんてない。
ウラスケは、また、自分を見失う。
若さという呪縛の底でもがき苦しむ。
中学二年生。
どこの誰であろうと、どれだけ高き血を有していようと、いっさい関係なく、
無慈悲に襲い掛かってくる、例外なしの最大級に不安定な時期。
青春は地獄。
どれだけ大人が必死になって美化しようとしても無駄。
この時期の『人格的揺らぎ』はえげつない。
――アスカが言う。
「正常という状態にも、家族という形式にも、あやふやさはともなう。『こうしたい』という明確な目標はなくとも、幸福になりたいかと問われれば、なりたいと答え、一応は、言葉にできる幸福という観念は持ち合わせている……それがあなたの現状ということで大丈夫?」
「……まあ……言葉という型にむりやりはめようとすれば……そうなるのかな……」
「それ、私と何が違うの?」
「……」
彼女からの疑問符に、
ウラスケはまた深く頭を使った。
考えて、考えて、考えて、
その結果、
「一つになって、最後にはゼロになる……普通に結婚とか……普通に最後を迎えるとか……そういう……」
答えのない問題の中でアップアップになる。
訳の分からない焦心が、ウラスケの目を曇らせる。
不可解な焦慮。
自分自身、何を不安に思っているのか分からなくなって、
だからまた足下がグラついて、
「何が違うのかも……ぼくには……」
寂寥感(せきりょうかん)ではないのだ。
決して。
彼は自覚していないが、
彼にそんなものはない。
『田中・イス・裏介』に、そんな贅肉はない。
「ぼくの中にある……漠然とした欲求は……その答えは……」
ようやく気付く。
実のところ、
そんなものはないのだ。
念のために生きているだけのウラスケに、
本当の望みなどあるはずがない。
「そうか……」
言葉にしてみて、気付いて、
自分に対して失望する。
――誰もが一度は経験する、不安定極まりない『中学二年生』という地獄、
その底で、ウラスケは『不透明な自分』という不条理な回答にたどりつく。
明確であると思いこんでいただけで、実際のところはそうでもなかった。
もっといえば、そういう視点から目をそむけていた。
自分に期待などしていなかったが、
ここまでカラッポだったのかと気付き、
芯の気力がくじけた。
ヘナリと歪む、ウラスケの軸。
そんなウラスケを、
――ネオバグは、優しく抱きしめる。
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