センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)
20話 現状。
20話 現状。
「今、この瞬間に処理しておくのが、一番簡単で確実。そこのネオバグが、聖主を超える可能性はゼロじゃない。限りなくゼロに近いのは事実だが、しかし、ゼロではない以上、放置はあまりにも愚策」
「役所みたいなことぬかすなよ。もっと、こう……臨機応変を下地にした、柔軟でフットワークの軽い、開かれた対応をやなぁ……」
「われわれは、全人類の命を背負っている。徹底的かつ厳格な効率化が図られるのは当然のこと。言っておくが、ネオバグにとりつかれているのは、そこの女だけじゃないんだぞ」
その発言を受けて、
ウラスケは「……っ」と、少しだけ歯噛みした。
そこをつかれると痛い。
現状、ウラスケは、ワガママ放題をかましているが、
タナカウラスケという人間は、
決して、根っからの世界系サイコパスというわけではない。
そして、もちろん、円滑さを重視したシステムの重要性が理解できないほどアホでもない。
分かっている。
けど、分かりたくない。
厄介な二律背反。
「こうして、無駄な時間を過ごしている間にも、どこかで、誰かが、ネオバグの脅威にさらされている。そのことを、お前は、少しでも考えた事があるか?」
考えた事はない。
より正確にいうのなら、考えないようにしていた。
ウラスケの手は小さい。
全ては救えない。
もっと言えば、『自分が根っから救いたいと思う者』以外を救う気などない。
彼は認めないだろうが、
『その壊れ方』こそ、彼がタナカ家の人間である証拠。
パートナー以外は無価値な生ゴミ。
徹底した孤高主義者のサイコパス。
狂ったような叡智で、認知上の世界を完結させてしまう鬼才。
――虹宮が言う。
「実のところ、我々『神話狩り』が正式に活動を開始してから、まだ、数日しか経っていないが、しかし、そのほんの数日で、既に数百体というネオバグを処理している」
「……すう……ひゃく……」
想定していたよりも遥かに多い数字に瞠目する。
背中に汗が流れた。
目をそむけ続けるには、あまりにも重たい真実。
「ネオバグによる被害者の数は、『宿主(やどぬし)』になった者をのぞいても、数十にのぼっている。……最初に断っておくが、決して『被害者の数が少ない』などと判断するなよ」
『被害者数十』という単位だけを見れば、
もちろん『小規模』とは思わないが、
しかし、そこまで『甚大な被害』とは感じられない。
なぜなら、その規模の被害は、地震や台風でたまに耳にする数字だから。
稀によくみる数字に衝撃はない。
『実際の惨劇がどの程度か』は関係なく、
『印象』としては、それが事実。
虹宮が続けて、
「その数にとどまっているのは、おれたち神話狩りが賢明かつ迅速かつ効率的に対処しているからだ。おれたちがいなければ、被害の範囲は、最大で『数十億』にまで拡大していたはずだ。なんせ、ネオバグに対抗できるのは、おれたちやお前が持つ携帯ドラゴンの力だけだからな」
アスカの例からも分かるとおり、神話狩りが活動を開始する以前から、ネオバグという脅威は存在していた。
ネオバグは、世界の裏に潜み、力を蓄えていた。
本来なら、もっと、もっと、長い時間をかけて、
じっくりと力を蓄えたいところだったのだが、
神話狩りが活動を始めたせいで、
ネオバグも、動かざるをえなくなった。
それが現状。
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