センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)
119話 黒い感情。
119話 黒い感情。
「ぐはぁああ!」
背中に直撃。
アダムからすれば蚊を潰す程度の照射だったが、
トウシの肉体には後遺症ものの大ダメージが入った。
肉が腐って、内臓が部分的に潰された。
携帯ドラゴンの自己修復機能が、今ほど高性能でなければ、このまま死んでいただろう。
「ぐぬぅ……がはっ……」
倒れそうになったが、
どうにか、踏ん張って、
振り返り、アダムを睨みつける。
そして、言う。
「頼む……頼みます……回復する時間をください……あなたの攻撃で更にダメージを受けてしまった今の最悪なコンディションでは、あなたとまともに闘う事はできません……お願いします……どうか……」
全力の低姿勢。
強者に対する弱者の態度。
その姿を受けて、アダムは、
「主上様は、貴様の事を、大変、高く買っておられる」
とうとうと語りだす。
「まあ、実際のところ、貴様には優れた才能がある。それは私も認めるところ。実に見事なものだ。狂気的と言ってもいい……それは事実……だが……」
そこで、アダムの顔がグっと鬼になり、
「だからといって、不愉快であるという事実に変わりはない。憎いとか、羨ましいとか、そんなものではない。言葉に還元しきれない、この黒い感情。嫉妬などという俗な言葉に収めたくはないと強く思う、この重々しい情動を、貴様にぶつけたいと、私は、最初からずっと思っていた」
否定の言葉を使っているが、
結局のところは、人間臭い嫉妬でしかない。
アダムは神を崇拝している。
彼女にとって、神は全て。
彼女の空であり、海であり、太陽。
ゆえに、
絶対的狂信者であるアダムは、
神に認められているトウシの事が憎くて仕方がない。
「ここまでは禁じられていたため、手が出せなかった……が、しかし、つい今しがた、私は主上様から、『ミシャンド/ラを倒した今のタナカトウシになら、何をしてもよい』という許しを得た」
ギラギラした獰猛な目でトウシを見るアダム。
それは、まるで、獲物に食らいつく直前の、飢えた猛獣。
飢餓で精神が錯乱している血気盛んな龍。
彼女の想いを受け止めたことで、
ようやく、トウシは理解した。
――アダムは止まらない。
「さあ、タナカトウシ。狂気的な頭脳を持つ者よ。貴様が、『主のヒイキ』を受けるに値する器かどうか、私がこの目で確かめてやるから……とっとと、かかってこい」
「くっ」
聞く耳を持たないアダム。
トウシは仕方なく、気力を絞って立ち上がる。
握り締める拳。
力が入らなくて、強くは握れない。
(こ、こんな状態で……っ)
トウシは、なんとか、ボロボロの体を引きずって、アダムと対峙する。
無数のジオメトリを背負い、
魔力とオーラを総動員させた上で、
高まった拳を交わし合い、
武という言語で語り合う。
ソンキーの修行と、ミシャンド/ラとの闘いを経たトウシは、
『強さ』に対する理解を、かなりの密度で深めていた。
ゆえに、ほんの数秒で分かった。
アダムという狂信者の強さ。
(い、一個もあたらへん……何しても、全部、避けられる……全部の呼吸がズレる……まったく勝機が見えん……この女、ヤバすぎる……)
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