センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)
70話 歪んだ自尊。
70話 歪んだ自尊。
「キッチリ、ど真ん中、球種はストレート」
「程度の低いブラフだな。恐怖のあまり、頭が悪くなったか? 可哀そうに。これから先の人生、大変だな。お前、頭のよさ以外、なんの取柄(とりえ)もないから」
「取柄なら、他にも、もう一個だけある」
「へぇ。知らなかったな。ちなみに、その、もう一個ある取り柄ってのは?」
「――頭が、ぶっち切れているところ――」
そう言って、トウシはふりかぶった。
「こんな状況でも、迷いなく、ど真ん中に、ただの全力をブチ込める、ワシのイカれ方……とくと見さらせ、アホんだらぁ!」
叫び、トウシは、躍動する。
蹴りあげた足に体重を乗せて、一気に前へと加速する。
稼働域一杯の螺旋運動。
人外レベルの『しなやかな手首』が、日本刀以上の驚異的な切れ味でボールを切る。
ギュンッッと、空気を裂いて、
唸りをあげながら、
ミットに――
――キィイイイイイイン!
「げぇっ!!」
トウシのストレートは、ミットに収まることなく、
虹宮のバットに持っていかれた。
グングンと伸びていく打球。
先ほどの特大ファールよりも高く、はやく、
しかし、先ほどよりも大きく、左へとそれていった。
アダムが、ファールと宣言した。
キチンと審判の役目をこなすアダムの視線の先で、
トウシが、脂汗を垂れ流しながら、
(危(あぶ)なっ、あぶなっ、あぶな、あぶな、あぶな……)
ダラダラの汗にまみれ、真っ青の顔で、先ほどのファールの残滓を見つめている。
――そんなトウシに、虹宮が言う。
「自分だけだと思ったか?」
『歪んだ熱』のこもった声で、
「陰キャで、自己完結型の孤独主義で、精神がバグっているウルトラボッチマン……そのラリった特異性が、自分だけのスペシャルだと、いつから錯覚していた?」
「なんや、その発言、意味わからん……もしかしてやけど、『自分もそうや』って言いたいんか?」
「俺が何を言いたがっているかなんてどうでもいいんだよ。大事な事は、お前じゃ俺には勝てないってこと。それだけ」
「……」
そこで、トウシは、天を仰ぐ。
スゥウと、本日何度目か分からない深い深呼吸。
(ワシという人間そのものを使ったブラフ……宣言つきでの、ど真ん中……視線の誘導も、十字切りの指向操作も……全部使った上での一投やったんやけど……当たり前のように弾き返された……)
ヤケになってど真ん中に投げたワケじゃない。
状況的に『最善の一手だ』と認識して投げた。
間違いなく最善ではあった。
相手が同格だったら、ほぼ確定で打ちあげさせることが出来た。
それだけの前提は積んだ。
問題なのは、相手が、想像以上に格上だったという事。
(無様をさらす気はない……折れる気もない……けど……次の一手は……もうない……)
トウシは、ずっと考え続けている。
ここまで、思考を止めた事は一度もない。
だからこそ出た結論。
(コースに生きはない。緩急も息してへん。目つけの通りも悪すぎる)
心の中では、不可能を前にして窒息しそうになっているが、
しかし、外から見るぶんのトウシは、
「……」
胸を張り、まっすぐに虹宮を睨みつけている。
威風堂々とした姿。
それは、気概というより意地。
ジュリアの前で、『よれた姿』は見せられないという、男の意地。
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