センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)
60話 ト・モ・ダ・チ?
60話 ト・モ・ダ・チ?
「近所に、改造トップガンを置いとるアホなバッセンがあってな。実験として、いろいろ使わせてもらったんや。さすがに、170キロ以上は『軟球でも危険や』ってことで使わせてもらえんかったけど」
「……さ、さすが、すごいね、トウシくんは、なんでもかんでも」
「まあの、ワシはハンパやないからの」
「ちなみに、そのバッセンに友達と一緒にいった事とかある?」
「ト・モ・ダ・チ……? それは、何星の言葉だ?」
「……」
「宇宙の言葉を口にする暇があったら、集中しろ」
と言い残してから、定位置に戻っていくトウシの背中を見ながら、
『虹宮(モンジン)』は、
(さすが、トウシ……ゆるぎないねぇ)
スゥっと息を吸って、
(さて、と……それじゃあ、トウシの配球(思考システム)を、とくと見せてもらおうか……敵を知り、己を知れば、百戦危うからず、ってね♪)
心の中で、ボソっとそうつぶやいた。
★
内角高めに要求したストレートを持っていかれて、トウシの血の気が引いた。
結果は、特大ファールに終わってくれたが、
あと数センチずれていたら場外ホームランだった。
(……トランスフォームの力、ハンパないな……)
審判からボールを受け取りながら、トウシは必死に頭を回転させていた。
(虹宮の携帯ドラゴンの方が強いから、力押しでもいけるやろうとタカをくくっとったけど……これ、本気を出さな、マズいな……)
気合いを入れ直したトウシは、
ミットをバンと叩いて、
一度、コホンと息をついてから、
「……『人間の眼球の仕組み』と『マウンドとバッターボックス』の位置関係上、『外』か『内』かは見えても、高低は認識しきれなん」
バッターに聞こえる程度の声で、ブツブツと、
「となると、内角高めの次は……あとはわかるな?」
などと、ごちゃごちゃ呟いているトウシの声を耳にした相手バッターは、
「……ぅわ……つぶやき戦術とか……そんなん、マジでやっているやつとか、はじめて遭った……」
ドン引きした声でそう言った。
「そりゃ、そうやろ。小・中でやったら、審判に『うるさい、黙れ』って怒られるからな。つまり、お前らは、経験者かもしれんけど、後ろでペチャクチャ喋られるんには全く慣れてへんってこっちゃ。言うとくけど、これは、結構鬱陶しいで。実際、ダルいやろ? 気ぃ散るやろ?」
「……」
アウトローのストレートを見送りながら、息を吐く相手バッター。
肩を回し、再度、深呼吸をする。
そんな彼に、トウシは止まらず、
「無視しようと努めはじめたな。でも、いくら無視したとしても、のしかかってくる心的ストレスの割合に変動はない。人間の耳は、厄介なことに、周囲の音を拾って勝手に処理する能力があるからなぁ。特に、日本語っていう、聞きなれた言語に対する過敏性・集音性はハンパやない」
高めのボール球を見送る相手バッター。
かなり外れていたので、余裕をもって見送る。
「虹宮のストレートは150キロを超えとる……やのに、その高めの吊り球を余裕もって見送るとは……どうやら、ドラゴンスーツを着ると、動体視力も上がるみたいやな」
「ちょっと、黙ってくれ。集中しているんだ」
言われて、トウシはニっと笑う。
「残念やけど、野球で『黙らなアカンってルール』はありえん。もし、そんなルールがあるなら、『お前らのことを、やかましく応援しとる観客席の連中』も黙らせるべきや」
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