センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)

閃幽零×祝@自作したセンエースの漫画版(12話以降)をBOOTHで販売中

27話 3500倍。


 27話 3500倍。

「なんだ、その『ガキの冗談』みたいな『頭が悪い数字』は……200億1万って……200億でいいだろ。なんで、わざわざ、そんな端数を――」

「俺的には『端数と切り捨てるには、あまりにも惜しい一万年』なんでねぇ。もし、俺の物語にタイトルをつけるさいには、『パっと見のスマートさ』を優先して、泣く泣く切り捨てるだろうが、『泥臭くても一向に構わない、こういう場面』では、きちんと主張していきたい……そんな一万年」

「わけがわからん……」

 疲れた顔をする20年選手の男。
 彼は、このトランスフォームバトルで闘い続け、レート1位を獲得した事もある超人。
 すでに『死ぬまで遊んでくらせる金』を稼いでいるにもかかわらず、年間試合数は1000を超え、『誰の挑戦でも受ける』と公言している永遠のチャレンジャー。
 純粋に強さを追い求める求道者。

 ――そんな、20年選手の男が、

「トランスフォーム、モードSSS」

 宣言すると、
 男の全身が、美しく輝くドラゴンスーツに包まれた。

 呼応するように、センも、

「トランスフォーム、モードD-」

 そう宣言して変身する。
 酷くみすぼらしい、くすんだ色のドラゴンスーツ。
 覇気もへったくれもない、ショボくれたオーラ。

 そんなセンの姿を受けて、SSSの男は、

「……お前……ナメているのか……D-だと……」
「ナメてるわけじゃないんだけど……んー、でも、言われても仕方ないかなぁ。これ、思ったよりも、だいぶスペックが低い……D-って、リアルだと、こんなに弱いんだ……ふぅん」

 両者の変身が終わったところで、
 頭上に表示されているモニターに、
 今回の試合の倍率が表示された。

 もし、センが買った場合の倍率は、


 ――3525倍。


(3500倍か……残っている8万を全部投入する予定だから……あがりは3億くらいかな。ん、なかなかの数字だ)

 などと、センが計算をしていると、
 20年選手の男が、プルプルと震えながら、

「カスがぁ……いい加減にしろ……こ、この俺を……侮辱しているのか……」

「侮辱? 必死になって20年という時間を積んできた人間を? 俺が?」

 そこで、センは、
 スっとまっすぐな目で、

「ありえない」

 スッと通る声。
 その声は、SSSの男――パガロの耳に、シッカリと届く。

「20年……それだけの時間を、ただ一つの事にうち込んできた男の気概。いくら俺が最弱の携帯ドラゴンを使っているとはいえ、それだけじゃ、3000倍という倍率はつかないだろう。お前のこれまでの研鑽がうかがえる。もちろん、俺の視点で言えば、まだまだ足りない――が、しかし、お前が、『本気で積んできた』という事実にゆがみはない。20年という時間をかけて、必死に、真摯に、実直に……その道程は、尊敬に値する」

「……」

「だから、特別に見せてやるよ。世界の頂点。極限という未知。つまりは、お前が今日までに積んできた『努力』という名の『茨道(いばらみち)』、その――」

 そこで、センは、ゆっくりと構える。


「――最果てを」


 センの構えを見て、パガロは思わずゴクリとツバを飲んだ。
 理由は分からない。
 センエースという尊き神を『理解』できるほど、パガロは強くない。
 ――だが、

(なんだ……この圧力……)

 それでも、感じとれるモノはある。
 ピリついた空気の中で、
 パガロは、武を構えた。

 まるで、嵐の中にいるみたいだった。

 ――戦闘がはじまると、
 パガロは、一瞬で、『認知不能な領域外の次元』に絡め取られた。
 特別な魔法やスキルは使われていない。

 トラバトは純粋な殴り合い。
 ただ、『どちらが強いか』を純粋に競い合う闘い。

 なのに、

(これは……いったい、なにが……どういう……)

 ワケが分からなかった。
 拳の嵐が、『不良再生性の幾何学』になって舞い散る。
 理解など出来るはずがない。

(かみあわないっ! いや、ちがう! 呼吸をズラされている! 打点が、ことごとく殺されていく! まるで、俺の拳だけが、違う時空でさまよっているみたいに――)

 パガロは、嵐の中で、必死に体躯を推動させる。
 20年かけて積み上げてきた全てで、センと対峙する。

(無慈悲に『勝ち』が殺される……敗北の海……その底に沈む……息ができないっ……っ)

 『戦い』には、なっていなかった。

 途中で、センが、ボソっと、

「トランスフォームバトル……通常戦闘とは違う部分も少しだけあるが……基本概念は同じだな。トラバトの強さは、『戦闘力』と比例すると言って相違(そうい)ない。ならば、どれだけの条件をつけようと、俺が負けることはありえない。たとえ、相手がだれであれ、この領域で俺に勝てるものは存在しない」

 センは大きかった。
 ずっと、
 ひたすらに、
 永遠を飲み込んでしまうほどに、

「ぁ……ああ……」

 柔らかに、荘厳に、軽やかに、ただただ膨らみ続ける膨大な光。
 その光に、パガロは、ただ包み込まれる。





「お前の20年、しかと見届けた。お返しに、ほんの少しだけ、俺の200億1万年を見せてやる」





 狂ったように眩しい輝きの中で、
 パガロは、『神』を見た。
 最果てに辿り着いた、『最強』という概念そのものを垣間見た。
 理解はできなかった。
 しかし、


「……う、美しい……」


 パガロの心には、確かに神が宿ったのだった。
 ゆるやかに意識が遠のく。

 気絶したパガロの顔は、まるで世界を悟ったかのように穏(おだ)やかだった。

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