センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)
19話 ドーラという脅威。
19話 ドーラという脅威。
翼とリングさえあれば、使徒でも従属神に勝てる――事実だが、しかし、それは、相手が無装備だった場合の話。
従属神の面々は、みな、翼やリング以上の神器を大いなる主から賜っているので、互いに完全武装で闘った場合、使徒たちの方が余裕で瞬殺されてしまう。
「仮に黒幕がいたとしても、あの少女より強いとは限らない。勇者の父は勇者よりも遥かに弱いのだ」
この世界では、『気高い血』が実在する。
『優秀な者』の『血を継いだ者』はほぼ間違いなく優秀なのだ。
しかし、当然ながら、特別な突然変異は遺伝しない。
ドーラの親はほぼ間違いなく優秀だろうが、ドーラほどである可能性は高くない。
それほどにドーラは強すぎる。
「なるほど、ドーラの父は、強力な魔カードを大量生産できるだけの特異な存在かもしれんな」
向き不向きの話。
仮に、同等の才能を持っていたとしても、それが、暴力に寄っているかそうでないかで警戒レベルは大きく変動する。
ランク5の魔カードを量産できる技能は脅威だが、勇者やドーラほど対処が面倒というワケではない。
「あるいは、あのドーラという少女だけがズバ抜けて飛び抜けており、魔カードの生産も、彼女が一手に引き受けているか」
使徒たちが最も望んでいる展開はソレだろう。
『ドーラだけ』が敵であるならば、ぶっちゃけ、どうとでもなる。
仮に、ドーラが、本当に勇者より強かったとしても、『そこまで』なら対処は可能。
この世界は、『個』が『軍』に『なれる世界』だが、フーマーは、『軍になれる個たち』が『軍』をつくっている組織。
ドーラがどれだけ強かろうと『独り』を殺すだけならワケはない。
「なんにせよ、今のままでは情報が足りない。ドーラとは、この仮面武道会中に、VIPルームで、短くない時間を共有できる。多少強引にでも踏み込んで、情報をさらうしかない」
コーレンがそう言った直後、ケイレーンが、
「しかし……」
渋い顔でうつむき、
「……『悪』か……」
と低く響く声でつぶやいた。
ズーンと、彼らの空気が重くなる。
全員の顔が暗くなって、気が地へと沈む
セレーナから受けた報告の中で、最も、彼らの気分を落としこめたのは、
唯一、拾う事ができたという音声。
『われわれは、われわれ以外の悪を許さない』
それが『真にどういう意味をはらむ』のか、その一言から全てを汲む事はできない。
『悪という言葉』を用いた何らかの比喩であるならば、さほど問題というワケでもない。
『その手の歪んだ表現を、ただ純粋に好んでいるだけ』、あるいは『強い言葉として便利に利用しているだけ』、または『生命という業に対する皮肉』ならば、ある種の瀟洒なシャれですますこともできる。
しかし、もし、額面通りであるのならば、
「厄介……」
ボソっとそうつぶやいたケイレーンに、続いて、溜息をつくコーレンとミハルド。
その背後で、セレーナも暗い顔をしていた。
どうにか払拭しようとしたのか、セレーナが、
「トーンの上層部に指示をだし、ホアノスに対する暴行で拘束させる事も可能ですが、いかがいたしますか?」
そう発言した。
それに対し、ケイレーンが、
「やめておけ」
静かに、ボソっとそう言った。
「敵対を主眼に置くのであれば、それこそ、動くべき時を慎重に選別せねばならない」
「慎重に行動を選別していった結果……最後には、戦争になるかもしれないな」
「魔王国と三国の小競り合いなどではない、本物の戦争。正義と悪のぶつかり合い、『人類』と『魔』が総出になる命の争奪戦……やれやれ。あまりにも非生産的だ」
最悪を想定して、また深い溜息をつくコーレンとミハルド。
彼らの地獄は、まだまだはじまったばかり。
コメント