センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)
50話 理由。
50話 理由。
ゼンは、頭の中で、ゼノリカという組織に抱いているイメージを再構築する。
知っている情報を、ならべて、そろえて、
(アビスですら下っ端の下っ端という巨大な組織体系。『エグゾギアを使っている時の俺』がゴミに思える『圧倒的なエグゾギア使い』ですら最弱扱いという『イカれた秘密部隊』。さらには、それをも凌駕する五生命王……その上にいる、超魔王、暗黒超勇者、邪悪の化身)
普通にイヤになった。
やってられねぇ。
いくらなんでも、相手が悪すぎる。
(勝てる訳ねぇ……)
さっさと降参するのが最善手だと理解できている。
すべて理解した上で、
正しく認識した上で、
ゼンは、フッキの問いと、冷静かつ真剣に向き合う。
――それでも、ゼノリカに抗うか?
『勢いだけで答えは出すな』という、フッキからの注意に、ゼンは素直に従った。
目を閉じて、
顕在意識を少しだけ手放す。
意識の奥へと潜って、自分の答えを求める。
ここまでに、色々ありすぎて、
もういい加減、脳も心も体も疲れ切っていて、
休息や解放を求めている魂の悲鳴がキンキンとうるさくて、
(神様に言われたから……神様を敵に回したくないから……俺にしか出来ないから……)
いくつかの『言い訳にしやすそうな理由』が、中空意識の中にプカプカと浮かんできて、
(ただの意地……悪とか正義とか……くだらねぇ……)
拾い集めて、
(結局のところは、ただの厨二……カッコつけているだけの自分……承認欲求……)
溢れ出て、弾けて、
(違うな……それだけにしちゃあ、俺の中で、あまりにも……ぃや、違う……それも、意味がない言葉だ……ただの装飾……取り繕っただけの……まだカッコつけている……違う。それすらも言い訳……言い訳――)
――だから、
(……ああ、そうか……)
気付く。
(どうでもいいんだ、そんなこと)
その気付きは、あまりにも明瞭だったため、すぐに、言語化できた。
(将棋の一手目と同じだ。その時点での熟考は無意味。『最初の一歩を踏み出すための理由』なんて、いくら考えたところで、『やらなくていい理由探し』にしかならない)
――だから、
ゼンは、カラッポになって、
バカみたいに、フッキの問いに答える。
「俺はゼン。ゼノリカを殺す者。それ以外の何者でもない」
口にしたのは、愚かな無謀。
まっすぐに、前を見て覚悟を並べる。
それは、『もう迷わない』という宣誓。
――それを受けて、
フッキは、静かに頷いた。
そして、闘いは再開される。
以降、フッキは、大技を使うことなく、『ギリギリを攻めた回避』と『火力の低いカウンター』だけで、ゼンを『はかろう』とする。
正直、まともな闘いにはなっていなかった。
今のゼンとフッキでは差がありすぎる。
まるで、園児と大人の腕相撲。
(た、闘えば闘うほど……差がハッキリしてくるだけ……このままじゃ、何も出来ずに終わる……っっ!)
焦りに支配されないようにするだけで必死だった。
冷たい焦燥が、ゼンの形を崩していく。
(何かっ……何か、方法……この閉塞を殺す一手……打開策は……っ)
気付けば、混乱や酩酊に近い状態に陥る。
まだまだ発展途上の『たどり着いてはいない精神力』では、この絶望を飲み込むことは出来ない。
(まっすぐいっても、いなされて終わり……搦め手はそもそも使えねぇ……積み技は、事前に潰される……小技でコツコツ削ろうにも、間合いは、常にフッキの有利で、逆に、カウンターをいれられる……破れかぶれの大技を放とうとしても、初手の初動を構築する呼吸の段階で鼻歌交じりにサバかれる。……つぅか、そもそも動きの速さが違いすぎ……ママチャリでF1に出場している気分……っ)
迷いを殺し、何もかもふっ切って、とびっきりの覚悟を決めようと、
明確な現実だけは、いかんともしがたい。
必死に頑張ろうがどうしようが、勝てない相手には勝てないのだ。
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