センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)
2話 黒いリザードマン
2話 黒いリザードマン
ふいに、ゼンが、
「そろそろ、五分経つな……また闘いが始まる。ここまでの傾向からいって、次も、まあ、普通に同じランクのバケモノ級モンスターだろう。……ハルス、大丈夫か?」
じゃっかん顔色が悪いハルスに、そう尋ねると、
「ああ、当然だろう。むしろ、お前の方が心配だな。大丈夫か? 息切れしていないか? なんなら、おぶってやろうか?」
「……俺、ここにくるまで、まだ一度も闘ってねぇよ」
ハルスのスパイシーな皮肉に眉をひそめるゼン。
ゼン単体の『力』では、超王級が相手だとクソの役にも立てないため、ここまでのゼンは、ほとんど、何もしていない。
ちょこちょこ、『治癒』の魔法を使って前衛のかすり傷を治したり、『移動障害系のデバフ』が苦手なモンスター相手に、自動回復が間に合う範囲内で『呪縛』を使ってきたぐらい。
ゼンは『ランク1の治癒(熟練度ほぼ皆無+医療知識なし)』しか使えないため、本当に『かすり傷の回復速度を若干早める』くらいしか出来なかった、
――が、一応回復は回復なので、マイナスにはならなかったし、
呪縛でも、1・2秒は足止めできた(完全停止はできず、わずかに動きを遅くしただけ)ので、足手まといではなかった。
とはいえ、もちろん、『役に立ったか』と問われれば、微妙と言わざるをえない。
※ ちなみに、呪縛は、移動障害系のデバフがモロで弱点の『分身系』にはよくきくが、耐性面が高い鬼種や龍種にはあまりきかない。
いくら魔力をこめても、存在値が100以上違う龍や鬼が相手だと、動きを止める事は出来ず、若干、ほんのわずかに『動きを遅くする』くらいが精々。
シグレもステータス的には、ゼンと同じで『超王級が相手だと使い物にならない』のだが、
彼女の場合は、『ニー』と『ウイングケルベロスゼロ(EW)』と『スリーピース・カースソルジャー』を使役している(寿命大丈夫か?)という状態なので、ゼンと同じく後方見学状態であっても、『闘っている感』を周囲に与える事ができた。
みなが、必死に闘い、どんどん疲弊していく中、
一人、優雅に見学中という、この状況は、センの精神に大きな負担を強いた。
(俺も何か役に立ちたいところだが……マジで、今の俺だとクソの役にも立たねぇんだよなぁ……後半でクローザー(エグゾギア無双)をかますにしても、このままだと、ジリ貧で、最後までいけそうにないし……んー……どうしたもんか……)
などと悩んでいる途中で五分が経過した。
強制転移により次の階に進むゼンチーム。
転移した先のフロアでは、
直立不動で手を後ろに組んでいる、妙に静かで落ちついた感じの『黒いリザードマン』が待っていて、
「ようこそ」
優雅な態度で、そんな事を言ってきた。
「私はアビス・リザードマン」
全員の目がアビスを即座に測定する。
――が、誰の目にも、アビスのオーラは、ほぼ見えなかった。
それは、ゼンも例外ではなく、
(おいおい、俺の簡易プロパティアイをごまかすって……こいつ、ヤバいんじゃ……)
すぐに理解。
かなり高度なフェイクオーラ。
もしかしたら、これまでの誰より強いかもしれないと、緊張が走る。
そんなハルスたちに、アビスは言う。
「そして、ここは最終ステージ」
みなの頭に、『最終?』という疑問符が浮かんでいる中で、
アビスは続けて、
「私は君たちが倒すべき、最後の敵。もちろん、私が最後というのは、あくまでも予選に限った話だがね」
そこまで話を聞いて、
(え、あいつを倒したら終わり?)
ゼンチームたちの空気が弛緩した。
ピンと張っていた緊張感が緩む。
まだ何も終わっていないというのに、
この場にいる全員が、
アビスの『ここで終わり』という言葉に、ついホっと胸をなでおろしてしまう。
ハルスが、
「おいおい、まだ十数回しか闘ってねぇぜ。残り80階以上あるんじゃねぇのか?」
と、軽口風味で様子をうかがうと、
アビスは、素の表情で、
「ここから出るためには、ボスを99回倒さなければいけないと言ったな……あれはウソだ」
と、かえしてきた。
「ナメやがって」
と、口では言うものの、表情はほころんでいるハルス。
そんなハルスの後方で、ゼンは、
(きた、メイン敵きた。九回裏! ラストイニング! ようやく、俺の出番! これで勝つる)
ハルス以上にほころんだ顔で、フィナーレの飾り方を考えていた。
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