センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)
29話 最強の定義
29話 最強の定義
「それとも何か? 俺が手取り足とり教えてやらねぇと何も分からないのか? そんなヤツの、どこが最強だ」
センは、さほど感情の入っていない淡々とした口調で、
「どうやら、勘違いしているようだから言っておくが、闘いってのは、手持ちの駒の数を競いあう足し算ゲーじゃねぇんだよ。現状のお前は、俺に対して、『お前は飛車も角もないから、俺より弱いー』って言っているみたいなもの。――ははっ。いやいや、落として闘ってやってんだよ」
二枚落ちどころか、現状は、ほとんど十枚落ちみたいなもの。
それでも、余裕で勝てる。
それだけの明確な差がある。
「どんな状況であろうと、お前と互先なんかできるか。俺にもプライドはあるんだよ」
というか、センはプライドの塊みたいなもの。
ちなみに、それは、別に力を持ったから育まれたというものではない。
センは、何の力も持たないクソガキのころから、プライドだけは一丁前だった。
「さて、そろそろ、心に迷いが生じてきて、なかなか『次の一歩』が踏み出せなくなる頃かな?」
センの言葉に、フッキは反論できなかった。
事実、意識を取り戻してから、『次の一歩』を踏み出せていない。
センの不気味な威圧感が、フッキの『心』を重くする。
回路の一部一部にイビツな負荷がかかる。
そんなフッキに、センは、続けて、ニッコリと、いい笑顔で、
「迷うな、ガラクタ。心配無用。何をしたって、お前じゃあ俺には勝てない。――だから、」
ハッキリと言い切る。
「安心して、俺に負けるがいい」
「っ、ふ……ふざっ……けるなぁ!」
叫び、フッキは、爆発的にオーラを増幅させる。
「詐欺師がぁ! 口先だけは確かに俺より遥かに上だな!」
「そうか? 『口先だけ』の精度で言えば、お前の方が上じゃないか?」
言いながら、センは、のんびりとした歩調でフッキとの距離をつめながら、
「もし、本当に、俺が口先だけの無能で、お前が真理を体現する最強なら、この状況はおかしくないか? なぜ、最強のお前が、無能な俺から距離をとっている?」
言われてフッキはハっとする。
センが近づくたびに、フッキは、後退りをしていた。
言われるまで気付いていなかった。
無意識のうちに、恐怖がフッキを下がらせていた。
「恐怖があるのは結構だ。そいつが命を輝かせることもある。だが、同時に、そいつは命を曇らせることもある厄介な代物。飲み込まれるか、それとも、乗り越えるか。処理の仕方で結果が変わる分水嶺。運命の岐路ってヤツだ。今のお前は、そこに立っている。さて、お前はどっちに進む?」
「ごっ、ゴチャゴチャとうるせぇ!! お前の御託は、もうたくさんだ!」
飛び出すフッキ。
回路に生じた歪みを振り払って、体躯に純粋なエネルギーを送り込む。
ギュインと、密度の高い駆動音が世界にこだまする。
音は反響を経て共鳴し、
ラグのない瞬間移動が、綺麗な残像を空間にえがく。
全ての一手が、俊敏だった。
無策だった『これまで』とは違い、
今のフッキは、どこまでも徹底して慎重。
距離の削り合いの中で、フッキは思う。
(こいつは強い。認めよう……だが、スキはある)
熱く、しかし冷静になっていた。
冷たく、注意深く、『一手の重み』をかみしめながら、
『どうにかしてセンを削ろう』と頭をフル回転させている。
(ああ、強い! 間違いなく! だが、決して勝てない相手ではない! 事実、俺のオーラは、こいつよりも大きくて深い! 俺は、こいつよりも遠い場所に立っている!)
死神の剣翼は、センの剣翼の対応にまわし、デスサイズと聖剣で削りを入れていく。
ヒラリ、ユラリと舞いながら、空間を制圧する。
時空を支配下において踊る。
もう、大技は狙わない。
スキの少ない小技でコツコツと、ダメージを蓄積させていく。
どちらが『強い』のか、明確にさせようともがく。
その『あがき』の果てに、
「ははぁ! 見えてきたぞっ!」
フッキはたどりつく。
「センエース! お前は、驚くほど正確で、速く、鋭い……が、殺し切れる! ギリギリの勝負になるが、このままいけば、俺が勝つ! やはり俺が最強だ!」
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