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73話 エレガ・プラネタの想い。

 73話 エレガ・プラネタの想い。










 ここは、聖霊国フーマーの上空、『フーマーの神都』のちょうど真上に、完全不可視化状態で浮かび続けている、『絶対神』が座する国。


 『天国』


 フーマーの『十なる使徒』に神託を与えている、『大いなる主』が統べし、
 何もかもが逸脱した国。






 ――中心である『アクロマギア神殿』
 その内部に存在する異空間、蒼天回廊の最奥で、
 笠木が天を貫いている、おそろしく巨大な、神希石の神座に座り、
 優雅に足を組んでいる超越者『エレガ・プラネタ』。
 その前に並ぶ五神。


 五神のまとめ役を務めているナルキナジードが、


「――これなら、確実に、アバターラを捕獲する事ができるでしょう」


 大いなる主――エレガに向けて、そう言った。
 ちょうど、今、『天上のアバターラ』の対策についての話し合いがまとまったところだった。




 次は確実にとらえると意気込んでいるナルキたちを横目に、


 大いなる主――エレガ・プラネタは、


「厳命する。かの者は、六番目の従属神たりうる器。決して殺してはならない」


 主の命に、五神は、恭しく頷いた。


 その姿を満足げに見つめるエレガ。




「夕刻も近い……朕は、『箱』の制御に向かう。あなた達は、休んでいなさい」




 そう言って立ちあがり、懐から取り出したカギを握りしめ、パチンと指をならした。
 すると、エレガの目の前に、『全てを閉じ込めた場所』と書かれた扉が出現した。


 扉を開けて、天国最奥の地へと向かったエレガを、みな、礼儀ただしく見送った。
 その扉は、エレガが扉を閉じると同時に消えてしまう。
 エレガの姿が完全に消えてしまってからも、五神は、しばらく頭をあげなかった。


 敬意と親愛に満ちた態度。
 五神は、誰もが、みな、エレガを愛している。
 天国の禁裏『エレガ・プラネタ』は偉大なる神。
 この世の誰よりも優れた、強大なる神。
 世界の導き手たる理想の神。




 エレガ・プラネタは――










 ★




 転移した先――天国最奥の宝物殿『全てを閉じ込めた場所』で、


「ぷふぅ~」


 エレガは、ヘニャっとした表情になり、大きく息をついた。


 そして、亜空間倉庫から、二頭身の丸っこいヌイグルミを取りだすと、
 そのフワフワのヌイグルミをギュゥっと抱きしめながら、


「ふふ……朗報だよ、クゥちゃん。あのね、今日、素敵な出会いがあったの。アバターラさんっていう、とっても強い人。ナルくんの腕をポーンってしちゃえる人。あ、大丈夫。ナルくんの腕は、あたしが戻してあげたから」


 ヌイグルミをなでなでしつつ、


「すごいよねぇ……ナルくん、とっても強いのに」


 とても、柔らかな表情を、少しだけ暗くして、


「ただね、あのアバターラさん、とってもプライドが高そうなんだよ。……すごく我が強くて……だから、ちょっと不安。ちゃんと仲良くできるかなぁ」


 不安げにそう言いながら、


「ううん、大丈夫。ちゃんと話せば、絶対にわかってくれる。みんなで仲良くできるよ。昔のナルくんたちも、結構、そんな感じだったしね」


 『全てを閉じ込めた場所』の奥へ奥へと進んでいく。
 ここは、耀きに包まれた空間。
 荘厳で、なのに、どこか空っぽさを感じさせる異質な空間。
 宝で満ちていたんだ。
 けれど、何も満たされてはいない。


 ――そんな場所で、エレガはつぶやく。




「闘うのは嫌い、けど、闘わないと、みんな死んじゃう……みんなで……生き残るの……絶対に……負けない……」


 ポータルから五分ほど歩くと、天国の最奥『全てを閉じ込めた場所』の中の『最奥』に辿り着く。
 そこは、『不快感』を具現化したような場所だった。
 キンとした無音に、紫の階段。
 不純物が混じった悪魔の血みたいな色の階段を上がったところに、その台座がある。


 エレガは、階段をあがり、台座に置かれている『禍々しい箱』に、右手をかざした。
 左腕だけで抱きしめているヌイグルミを、よりギュっと体に密着させる。
 ヌイグルミに支えられたエレガの体は震えていた。





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