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16話 意識の欠片

 16話




 ちなみに、『リラ』とは、喝采や称賛など、神を讃える全てが含まれた言葉。


 // 実は、これも、センが、面白がって『ちょっと言ってみただけ』の、元々は特に意味のない言葉。
 軽い冗談のつもりだったが、もはや、冗談ではすまなくなった黒歴史の一つ。
 ちなみに、『リラ・リラ・ゼノリカ』は、翻訳すると
 『ああ、美しき、神の光。主よ、その御側に近づきたく存じます。叶わぬ夢と知りながら、しかし、常に、心血の魄が欲してしまうのです。ああ、神よ。この上なく美しい神よ。全てを照らす、その希望に触れたく存じます。もし、その威光に触れる事ができたなら、どれだけ――』
 と、この先もまだまだ続く、クソ長い聖歌であり、
 かつ、世界中(第2~第9)に様々な翻訳方法がある格式高い讃美歌。
 後々、センは、『リラという言葉が、そんな事になっている』と聞いた時、
 顔をサーっと青くして、
 『えぇ、この一行に、そんな長い意味をつけたの? 何してくれてんだよ。てか、これ、内容……きっつぅ……』
 と心底から嘆いたが、
 今では
 『もう、いいや、どうでも』という領域に至っている //
















 ――全員で、完璧に揃って、神前に跪拝きはいした直後の事。




 キィィンと、空間が研ぎ澄まされていくかのような、
 すべての『曇り』を削っていくかのような、鋭い音が響いた。
 窓からそそぐ光の質が少しだけ変化する。






 ――空気が平伏した。






 全員の心にビリリとした緊張が走る。
 特に『何か』をされた訳ではない。


 魔法などいらない。


 ただ、流るる。
 まるで『それこそが摂理である』と心の芯が認識しているかの如く、
 自身の内側から、『想い』が溢れ出てくる。










 ――カツン――










 足音が響いた。


 天上のリズム。










 顕現したのは、強大な力を持つアバターラ。










 『究極神の化身』は、地に降りると、一歩だけ前に歩を進め、
 用意された小さな太陽に体を預けた。




 その場にいる全員の全身に、強烈な緊張が走った。
 ビシリ……ビシ、リ……という、不定形の、名状しがたい、背中を這いまわっているような感情の暴走。
 冷たい汗だけが、全身を流れていく。




 アバターラは、頭を下げている皆を見渡すと、


「そのまま聞け。主の命を伝える」


 凛と、すずやかに、淡々と、


「これより、この地にて、ゾメガを頂点とした組織『超魔王軍ゼノリカ』をつくれ。貴様らは、『禁域』に接続された裏ダンジョン『ゼノリカ』を拠点として暗躍する秘密結社、『世界の闇を支配する無上の巨悪』となる」






 誰もが黙って耳を傾けている。
 「なぜ、そのような事を?」という疑問などは投げかけない。


 もちろん、『なぜ、悪?』という疑問を胸には抱くが、口にはしない。






 『主がそうしろ』と言ったのなら、
 いつだって『ただ実行するだけ』だから。




「貴様らには、ある程度の裁量権をあたえる。もちろん、踰越ゆえつ濫用らんようは許さない。ゼノリカに、『主を不快にさせる愚か者』はいない。そう信じての決断である。諸々、留意せよ。……『それなりに自由』とは言ったが、当然、いくつかのルールは設定してある。これは絶対に守れ」


 一、これまで以上に、『ゼノリカ神法』を順守しろ。
 一、何よりも、己の腐敗を恐れろ。
 一、この世界の秩序を乱すな。
 一、表に出るな。
 一、常に、闇を愛し、裏に潜め。
 一、ゼノリカという『巨悪』を『認知できる』のは限られた者だけとする。
 一、強者(それなりの経験値)は殺すな。
 一、できるだけ弱者も殺すな。
 一、不快な悪事は禁じる。
 一、ただし、『巨悪』だと認識される演出は怠るな。
 一、ゼノリカ以上の『悪』を許すな。
 一、妨げにしかならぬ愚者は滅しても構わないが、アダムに相談・報告はしろ。


「以上だ。これは最低限。今後、確定で増える。そして、追加分は、アダムを通して伝える。主は忙しい。いちいち貴様らの質問に答えている暇などない。今後、もろもろの事は、アダムに聞け。必ず情報は共有しろ。言うまでもないが、ゼノリカ内での対立は絶対に禁じる。内輪モメは、主に対する最大の反逆である。決して、主に『貴様らの愚かさ』を数えさせるな。主は常に貴様らを見ている。……最後に、主の直接のメッセージだ。心を尽くして、耳を傾けろ」






 そう言った直後、アバターラに、






 偉大なる神の『意識の欠片』が宿る。
 そのフラグメントは、わずかな光でしかなかった。
 しかし、『場』は満たされていく。














 ――神が顕現した――












 この空間の圧力がグっと増す。
 ズンと重くなる。




 誰もが理解した。






 今、この瞬間における、全世界の中心は、


 他のどこでもなく、


 間違いなく、


 ――ここである――












 この上なく尊い神帝陛下のカケラを宿すアバターラは、全員の頭を見渡してから、










「……あげていい……」




 声の質が変わった。
 圧倒的強者の声音から、ゼノリカ(全てを包み込む光)の旋律に変わったのだ。


 それは、とても、美しかった。
 まるで、魂魄の芯を包み込むような――










「これは命令だ。頭をあげろ」









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