センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)
62話 許せなかっただけだ
62話
(勝てはしないが……しかし、ニーの硬さがあれば、逃げる時間は余裕で稼げるか……?)
多くは稼げないだろうが、数秒でやられるという事はないだろう。
(……ニーは強いが、シグレは弱いな。ステは、俺と同じくらい……けど、GODレベルが解放されていないから、HPとMPが普通に低い。あいつは、ただのザコだ)
プロパティアイで見通したシグレのステータスは、色々と酷かった。
ホルスド相手では、まったく戦力にはなりえない。
(……シグレがもらったのは召喚系のチートで、俺はGODレベルというチート……神様からもらった力、どっちもスゲぇっちゃあスゲぇんだけど、ことこの状況においては、どっちも、クソの役にもたたねぇな……)
ゼンは、ニーとホルスドの力の差を計算しつつ、
(二分くらい稼いでくれれば、どうにか出来るか? 気付かれた時点で終わりって事を考えると、大胆には動けねぇ……慎重に、気配を消して、ゆっくりと……となれば、五分くらいは稼いでもらいたいところだが……どうかなぁ……ニーのHP見えないから、その辺の具体的な計算が出来ねぇ……てか、なんで、ニーのステ、HPだけ見えねぇんだ?)
心の中でブツブツ言いながら、ソーっと大木から降りるゼン。
その間も、ずっと、左目は閉じたまま。
何があっても対処できるよう監視は怠らない。
気配を消して、音をたてないよう、少しずつ距離をとる。
その間に、
「ぐっ、ああああああああああああああああああああああ!!」
シグレが、訳のわからない攻撃を受けた。
ニーの反応速度がまったく間に合っていない。
おそるべき攻撃速度。
悲鳴をあげるシグレの姿を見て、
「……」
ゼンの心が、一瞬、グアっと熱くなりかけた――が、
(バカか……落ちつけ。出て行ったって、死体が二つになるだけだ。もし、シグレを哀れに思うってんなら、ここは退いて、あとで、あのホルスドとかいうムキムキ野郎に代償を払わせてやればいい。俺はこれから強くなれる。GODレベルを上げて、魔法を磨いて、いつか、あいつを殺せるようになったら、その時――)
「ああああああああああああ!!」
二発目を受けて、激痛にのたうちまわっているシグレの姿。
とても見ていられないその姿から、ゼンは目を放さなかった。
体が、ワナワナと震えている。
脈が加速していく。
――『迷い』の質量が、どんどん重く、深くなっていく。
(やめろ、マジで頼む。出るな。やめろ。動くな。てか、逃げろ。何をしている。だから言ってんだろ、ここで出ていっても死体が二つになるだけだ。意味がねぇ)
ゼンは、シグレについての情報を頭の中から引っ張り出して並べて揃える。
なぜ、そんな事をしているのか。
知らない。
分からない。
知りたくない。
無視したい。
それが本音のはず。
なのに、ゼンは、頭の中にあるシグレの情報に目を向けてしまう。
知りたくないんだ。
本当に。
けど、なぜだか、本当に分からないのだけれど、ゼンは、シグレの情報に触れてしまう。
(……田中……シグレ……)
ゼンは奥歯をかみしめた。
彼女の情報に触れると、心の奥の方が痛んだ。
シグレは、高校であった『色々』について、口では、『大した事じゃなかった』、『さほど被害はなかった』と言っていたが、
まあ、もちろん、当り前の話で、そんな訳はなかった。
もっといえば、『イジメられていた気の弱い男子』を『助けるつもりはなかった』という発言だって、明らかなウソが混じっている。
『イジメに参加しなければ空気が読めていない』
そこまで極まった空気の中で、『何もしない』という『抵抗』は、明らかな『挑発』だ。
正義感からの行動じゃなかったのは事実。
示したかったのは正義じゃない。
――ただ、許せなかった。
だから、抵抗した。
それだけ。
その男子は、最初の自己紹介で、花が好きだと言った。
病気がちのお母さんを元気づけるために、色々な花を買ったり摘んだりしている内に、自分も好きになったと言った。
――それが、いじめの始まりだった。
『あいつ、狙いすぎだろ』
『いきなりのマザコン暴露とか、勇者だな』
最初は小さな、ちょっとした冗談交じり。
次第に加速、妙にヒートアップして、気付けば、取り返しのつかない空気。
確かに、少し吃音気味で、弱弱しさが少し鼻について、少し可愛い顔をしていたせいで、それが変にカラまって、妙な方向からのヘイトを稼いでしまって、少しだけ頭が良かったものだから、プライドの高い連中のストレス解消の的になって、それでもがんばって、必死に頑張ってニコニコしていたら、それがムカつくと、余計に拍車がかかって――
悲運と不運が重なって、
『彼』は壊された。
おっとりとして、優しくて、気が弱くて、少しだけ強くて、
だから、誰にも相談できずに、必死に、ニコニコと笑って――
つまり、単純な話。
シグレは、自分に言い訳をしながら――必死に戦った。
確かに、正義じゃなかった。
絶対に正義ではなかった。
ただ、許せなかったから、闘った。
それだけ。
『汚いものになりたくない』という『そういう【強い】感情』が、隠そうとしても『表』に出てしまう事くらい、そして、『その手の連中』が『そういう【弱い】感情』に対して酷く敏感だって事くらい、
――シグレは知っていた。
そのぐらい、あの世界で、十五年近くも生きていれば、誰だって分かる。
神様の推理力なんて必要ない。
当たり前の話なんだ。
ああ、もちろん、しょうもない闘いだ。
イジメなんて、小さな問題でしかない。
大した事じゃない。
ぬるい問題でしか――
フザケルナ
クソドモガ
シグレは、闘った。
『あんたがここにおるせいで、あたしまで余計な被害をこうむってんけど? 学校、やめてくれへん? あたしのために』
――お母さんが、喜んでくれたから。
一生懸命、勉強を頑張って、偉いねって。
そう言ってくれたから、
だから、やめられない――
そう言って、必死に血で汚れた笑顔でニコニコしながら、あの地獄にしがみついていたその手を、シグレは、血だらけの足で踏みつけた。
むりやり、手を放させて、シグレだけがあの場所に残った。
その闘い方が正しかったかどうか。
知ったこっちゃないよ、そんな事。
そんな話じゃないんだ。
どこまでいったって、
――ただ、許せなかった。
それだけの話でしかないんだ。
そうやって、
田中シグレは、
全力で闘って、傷ついて、
けど、泣き言を言える相手はもういなくて、
だから、自分は大丈夫だと必死にごまかして、
ずっと、ずっと、闘って、闘って
そして、ここにきた。
そんな女が、今、目の前で甚振られている。
――知りたくない情報だった。
――けど、知ってしまった。
――ゼンは、
(あのホルスドって野郎にムカついているのは分かった。同郷の同年代を甚振られてムカついている。了解だ。復讐したいって気持ちはOK、了解。それは充分に分かった。けど、頼む。ここでは動くな。頼むから、行くな)
己の感情に抵抗する。
頭の中が、異常なほど高速で回転する。
思考しようとは思っていない。
むしろ、脳死して逃げたいと思っている。
だが、とまらない。
(逃げろ。行くな。意味がない。というか、シグレがどうなろうと知ったことか。同郷? 同年代? ほんのちょっとだけ哀れな過去を背負っている? はぁあああああ? それがなんだ、アホか)
本気で思う。
本音。
飾りのない、心の声。
(つい数分前まで、顔も知らんかった奴で、数時間前までは、存在すら知らんかったヤツだぞ。それなのに、なんだ? どうした? 俺はラノベの主人公か? 違うだろ? 違うよな? てか、むしろ、いつも、軽蔑してただろ? なんで、知らんヤツを助けるんだって。ありえねぇだろって。ふざけんなって。そう思って生きてきただろうが。だから、行くな。絶対に行くな。後悔しかしない。無意味、無意味、無意味ぃいい!)
「……ふむ。どうやら、貴様の悲鳴では、イレギュラーを動かす事はできないらしい。となれば、これ以上は時間の無駄。さっさと壊して組み立て直すとしようか」
言いながら、ホルスドは、指先を、シグレの足ではなく、彼女の心臓に向けた。
(勝てはしないが……しかし、ニーの硬さがあれば、逃げる時間は余裕で稼げるか……?)
多くは稼げないだろうが、数秒でやられるという事はないだろう。
(……ニーは強いが、シグレは弱いな。ステは、俺と同じくらい……けど、GODレベルが解放されていないから、HPとMPが普通に低い。あいつは、ただのザコだ)
プロパティアイで見通したシグレのステータスは、色々と酷かった。
ホルスド相手では、まったく戦力にはなりえない。
(……シグレがもらったのは召喚系のチートで、俺はGODレベルというチート……神様からもらった力、どっちもスゲぇっちゃあスゲぇんだけど、ことこの状況においては、どっちも、クソの役にもたたねぇな……)
ゼンは、ニーとホルスドの力の差を計算しつつ、
(二分くらい稼いでくれれば、どうにか出来るか? 気付かれた時点で終わりって事を考えると、大胆には動けねぇ……慎重に、気配を消して、ゆっくりと……となれば、五分くらいは稼いでもらいたいところだが……どうかなぁ……ニーのHP見えないから、その辺の具体的な計算が出来ねぇ……てか、なんで、ニーのステ、HPだけ見えねぇんだ?)
心の中でブツブツ言いながら、ソーっと大木から降りるゼン。
その間も、ずっと、左目は閉じたまま。
何があっても対処できるよう監視は怠らない。
気配を消して、音をたてないよう、少しずつ距離をとる。
その間に、
「ぐっ、ああああああああああああああああああああああ!!」
シグレが、訳のわからない攻撃を受けた。
ニーの反応速度がまったく間に合っていない。
おそるべき攻撃速度。
悲鳴をあげるシグレの姿を見て、
「……」
ゼンの心が、一瞬、グアっと熱くなりかけた――が、
(バカか……落ちつけ。出て行ったって、死体が二つになるだけだ。もし、シグレを哀れに思うってんなら、ここは退いて、あとで、あのホルスドとかいうムキムキ野郎に代償を払わせてやればいい。俺はこれから強くなれる。GODレベルを上げて、魔法を磨いて、いつか、あいつを殺せるようになったら、その時――)
「ああああああああああああ!!」
二発目を受けて、激痛にのたうちまわっているシグレの姿。
とても見ていられないその姿から、ゼンは目を放さなかった。
体が、ワナワナと震えている。
脈が加速していく。
――『迷い』の質量が、どんどん重く、深くなっていく。
(やめろ、マジで頼む。出るな。やめろ。動くな。てか、逃げろ。何をしている。だから言ってんだろ、ここで出ていっても死体が二つになるだけだ。意味がねぇ)
ゼンは、シグレについての情報を頭の中から引っ張り出して並べて揃える。
なぜ、そんな事をしているのか。
知らない。
分からない。
知りたくない。
無視したい。
それが本音のはず。
なのに、ゼンは、頭の中にあるシグレの情報に目を向けてしまう。
知りたくないんだ。
本当に。
けど、なぜだか、本当に分からないのだけれど、ゼンは、シグレの情報に触れてしまう。
(……田中……シグレ……)
ゼンは奥歯をかみしめた。
彼女の情報に触れると、心の奥の方が痛んだ。
シグレは、高校であった『色々』について、口では、『大した事じゃなかった』、『さほど被害はなかった』と言っていたが、
まあ、もちろん、当り前の話で、そんな訳はなかった。
もっといえば、『イジメられていた気の弱い男子』を『助けるつもりはなかった』という発言だって、明らかなウソが混じっている。
『イジメに参加しなければ空気が読めていない』
そこまで極まった空気の中で、『何もしない』という『抵抗』は、明らかな『挑発』だ。
正義感からの行動じゃなかったのは事実。
示したかったのは正義じゃない。
――ただ、許せなかった。
だから、抵抗した。
それだけ。
その男子は、最初の自己紹介で、花が好きだと言った。
病気がちのお母さんを元気づけるために、色々な花を買ったり摘んだりしている内に、自分も好きになったと言った。
――それが、いじめの始まりだった。
『あいつ、狙いすぎだろ』
『いきなりのマザコン暴露とか、勇者だな』
最初は小さな、ちょっとした冗談交じり。
次第に加速、妙にヒートアップして、気付けば、取り返しのつかない空気。
確かに、少し吃音気味で、弱弱しさが少し鼻について、少し可愛い顔をしていたせいで、それが変にカラまって、妙な方向からのヘイトを稼いでしまって、少しだけ頭が良かったものだから、プライドの高い連中のストレス解消の的になって、それでもがんばって、必死に頑張ってニコニコしていたら、それがムカつくと、余計に拍車がかかって――
悲運と不運が重なって、
『彼』は壊された。
おっとりとして、優しくて、気が弱くて、少しだけ強くて、
だから、誰にも相談できずに、必死に、ニコニコと笑って――
つまり、単純な話。
シグレは、自分に言い訳をしながら――必死に戦った。
確かに、正義じゃなかった。
絶対に正義ではなかった。
ただ、許せなかったから、闘った。
それだけ。
『汚いものになりたくない』という『そういう【強い】感情』が、隠そうとしても『表』に出てしまう事くらい、そして、『その手の連中』が『そういう【弱い】感情』に対して酷く敏感だって事くらい、
――シグレは知っていた。
そのぐらい、あの世界で、十五年近くも生きていれば、誰だって分かる。
神様の推理力なんて必要ない。
当たり前の話なんだ。
ああ、もちろん、しょうもない闘いだ。
イジメなんて、小さな問題でしかない。
大した事じゃない。
ぬるい問題でしか――
フザケルナ
クソドモガ
シグレは、闘った。
『あんたがここにおるせいで、あたしまで余計な被害をこうむってんけど? 学校、やめてくれへん? あたしのために』
――お母さんが、喜んでくれたから。
一生懸命、勉強を頑張って、偉いねって。
そう言ってくれたから、
だから、やめられない――
そう言って、必死に血で汚れた笑顔でニコニコしながら、あの地獄にしがみついていたその手を、シグレは、血だらけの足で踏みつけた。
むりやり、手を放させて、シグレだけがあの場所に残った。
その闘い方が正しかったかどうか。
知ったこっちゃないよ、そんな事。
そんな話じゃないんだ。
どこまでいったって、
――ただ、許せなかった。
それだけの話でしかないんだ。
そうやって、
田中シグレは、
全力で闘って、傷ついて、
けど、泣き言を言える相手はもういなくて、
だから、自分は大丈夫だと必死にごまかして、
ずっと、ずっと、闘って、闘って
そして、ここにきた。
そんな女が、今、目の前で甚振られている。
――知りたくない情報だった。
――けど、知ってしまった。
――ゼンは、
(あのホルスドって野郎にムカついているのは分かった。同郷の同年代を甚振られてムカついている。了解だ。復讐したいって気持ちはOK、了解。それは充分に分かった。けど、頼む。ここでは動くな。頼むから、行くな)
己の感情に抵抗する。
頭の中が、異常なほど高速で回転する。
思考しようとは思っていない。
むしろ、脳死して逃げたいと思っている。
だが、とまらない。
(逃げろ。行くな。意味がない。というか、シグレがどうなろうと知ったことか。同郷? 同年代? ほんのちょっとだけ哀れな過去を背負っている? はぁあああああ? それがなんだ、アホか)
本気で思う。
本音。
飾りのない、心の声。
(つい数分前まで、顔も知らんかった奴で、数時間前までは、存在すら知らんかったヤツだぞ。それなのに、なんだ? どうした? 俺はラノベの主人公か? 違うだろ? 違うよな? てか、むしろ、いつも、軽蔑してただろ? なんで、知らんヤツを助けるんだって。ありえねぇだろって。ふざけんなって。そう思って生きてきただろうが。だから、行くな。絶対に行くな。後悔しかしない。無意味、無意味、無意味ぃいい!)
「……ふむ。どうやら、貴様の悲鳴では、イレギュラーを動かす事はできないらしい。となれば、これ以上は時間の無駄。さっさと壊して組み立て直すとしようか」
言いながら、ホルスドは、指先を、シグレの足ではなく、彼女の心臓に向けた。
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