センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)

閃幽零×祝@自作したセンエースの漫画版(12話以降)をBOOTHで販売中

30話 それでは、そろそろ、殺さないように、アリを踏もうか

 30話




「凄まじい強さだ」


 センBと三分ほど闘ってから、サイケルは、しみじみとそう言った。


「どうあがいても私には勝てないが……本当に素晴らしい強さ」




 既に右腕を失っているアバターラ『センB』。
 全身ボロボロで、息も絶え絶え。




「その強さに免じ、我が配下となる事を認めよう。『世界の全てを私にするための旅』に付き添う事を許可する。貴様にはその価値がある。全てが統一されたあと、最後の最後で一つになろう」


「笑わせんじゃねぇ……俺はまだ終わってねぇぞ」


 センBは、血走った目でサイケルを睨みつける。


「ここからだろうが……命のやりあいってのは……死に際で耀き、乗り越えてこそ……『今の俺』を置き去りにした俺と出会える……そういうもんだろう!!」


 センBは、細身の刀を召喚して、


「行くぞ、くそったれ! 俺は神の化身! てめぇなんかに負ける訳がねぇ、天上のアバターラ!!」




「その気概やよし! だが、無駄ぁ!!」




 超位の暴力。
 とどまることを知らないエネルギーの交差。


 そんな死の応酬を、若干離れた所で見学している本体のセンは、心の中で、


(うわー……クッソなまってるぅ……)


 嘆息する。


(まあ、千年くらい、使ってなかったからなぁ……しゃーないっちゃあ、しゃーないんだろうけど……)


 かつては、アバターラの戦闘力を、『自身の本気』の五割近くまで鍛えていたのだが、しばらく放っておいた間に、かなり腕が衰えて、三割以下にまで下がっていた。


(全盛期だったら、ギリ勝てたはずなんだけど……いや、まあ、そうだよなぁ……限界まで磨いた戦闘力なんだから、放っておいたら、そりゃ、なまるわなぁ……しっかし、キツい事実だなぁ……あんだけ、必死こいて磨いた力が、こうも簡単に衰えるかねぇ……)


 と、心の中で嘆いていると、


 いつの間にか自分の隣に陣取っていたユンドラが、


「あなたも……凄まじい使い手だったのね。アダムがつき従う訳だわ……すなおに尊敬する。さっきは、失礼な事を言って、本当にごめんなさい。……けれど、あのケタ違いの力を持ったオーラドールも……もう持たない……」


 ポロポロと涙をこぼしながら、


「神となったアレは、その異常に膨れ上がった力で世界を食らい尽くすでしょう……『全て』が、数日と持たずに終わる……」


「……」


「恨むわ……あなたが、ここに、アダムを連れてきた事……彼女を奪われさえしなければ、アレが、ああまで異常な事になる事はなかった……責任を取ってもらいたいと思うけれど……今のあなたは、あれほどのオーラドールを作りだしたばかり……流石に、もう何も残っていないでしょう……」


 ユンドラの言葉を聞きながら、センは、


「……はぁ、みっともねぇなぁ……なんも言いかえせねぇ。……あぁ、ダッセぇわぁ。まさか、こんなしょうもない計算ミスを立て続けに犯すとはなぁ……ぁあ、ぁあ、ったく……認めるよ。言い訳はしねぇ。俺の負けだ。若さゆえの過ちでも、不遜や自惚れによって足下をすくわれた訳でもない……ただのまっすぐなポカ。最も救えねぇ失態」




 センの潔い態度を見て、ユンドラは、思わず、笑ってしまった。


 もう笑うしかない。


 『もしかしたら』と何度か期待はしたけれど、全て裏切られた。
 ゆっくりと近づいてくる絶望の足音だけが大きくなっていく。




「せめて……外の世界を……一度でいいから……この目で見てみたかった……」




 そう呟いた彼女。


 もう完全に諦めてしまっている顔。
 淀みのない諦念。


 儚い溜息をつく。


 そんな彼女に、センは言う。




「過剰な期待はするな」


「は?」


「世界は美しかったが、それだけだった。それ以外の何かはなかった」




「……そう。けれど、見たかったという想いが変わる事はないわ」


「誰も、そんな話はしてねぇよ。過剰に期待してもガッカリするだけだから、今のうちに覚悟をしておけと言っているだけだ」




「今のうちもクソも……ワタシたちは、これから、アレに殺され――」




「さぁて……そろそろ解体作業も終わることだし、仕上げといこうか。ここからが一番難しい。最初は任せようと思っていたが……あそこまでなまったアバターラでは、あのザコに勝てない。クソたるいが仕方ねぇ。--もちろん、責任は取るさ。ケリは俺自身がつける」


 センはゆっくりと首をまわしてから、


「これから、俺は……殺さないようにアリを踏む。かなり神経を使う繊細な作業。けれど、俺なら完璧に遂行できる」


 センは、両手に二枚の札を取り出す。






「さあ、愚かさの発表会を始めよう」






 杯が記された一枚と、月が記された一枚。


 その二枚を空に放り投げ、








「月見で一杯」



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