ダイバー

空空 空

風の平原

 「......あたた......」
ちゃんと計算されていたのか、それともまぐれだったのか、ぼくは木の枝にぶら下がっていた。
 木の枝に引っ張られた服が、ぼくの首を緩く締め付ける。背負っていたランドセルも気づけば無くなっていた。今あるのは、やはり両手に抱えてあるアーキタイプだけだ。
「とりあえず、降りないと......」
 足を前後に動かし、揺れる。
 ガサガサと葉の擦れる音がするだけで、落ちそうにない。
 今度は、もっと力強く、無遠慮に揺れる。
 頭の上に木の葉が何枚か落ちてくる。その木の葉を蹴り上げるように体を思いきり、うねらせる。
 一瞬耳に入る枝の折れる音、その音を聞いたと思った時には既に尻餅をついていた。
「......いて」
 頭に折れた枝がぶつかる。
地面を覆う草を撫でると、夜露で湿っていた。
 草原の上で一人あぐらをかく。
どうもここは台地にでもなっているらしく、下に広がる小高い丘たちを見下ろせた。
 風が吹くたびに、草が波を作り出し、月の光がその上を滑る。二つほど丘を越えた先には村でもあるのか、ちらちらと頼りない灯火が群れていた。
 そういえば......と、自分の体を確認する。擦り傷の一つでも出来てるかもしれない。
 しばらく腕を撫でたり、ズボンの裾を捲ったりしていたが、傷らしい傷は見つからなかった。ただ......どう言うわけか、右足の靴の裏側には、赤黒い汚れが見つかった。
「なにこれ?......血?」
 だいぶべったりとついているが、心あたりはない。
「なんだろ......」
 考えていても拉致があかないので、尻をはたいて立ち上がる。
 サッーと、風が大地を撫でる音を聴きながら、目的地を決める。
「とりあえず人の居るところに行く」ゲームのストーリー進行と同じだ。人に会わなくちゃ物語は進まない。
 丘を二つ越えた先の村を指差す。
 夜だっていうのに、月の光がはっきりと世界の輪郭を描く。この世界の夜は、透き通った水に沈んでいるような、そんな感覚を覚える。
 夜の海に沈んだ、眼前に広がる平原を見て思う。
「そういえば......これって、帰れるの?」
 夜風は静かに「帰れないよ」と囁いていた。

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