無能力者の少年は、最凶を破る最強へと成り上がる~魔王、勇者、古代龍? そんなもの、俺の前じゃあ珍しくもねぇ~

異端の雀

16話 「聖域の真実」

「ごめん、どちら様?
 恨み買ったんだろうけど、全く記憶がないんだよ」

 良く分からない場所で、知らない人に話しかけられたと思ったら、いきなりの死亡宣告。
 分からない事尽くし過ぎるので、一つ一つ整理していくことにした。
 
「何を言ってるの?
 君が私の事を、知っているわけがないでしょ。
 会ったことも無いんだから、恨みだって売られた覚えは無いよ」

 どうやら、本当に初めましてらしい。
 しかし、恨みもないのに殺されるとは、前世で何かやらかしたのだろうか。
 本当にそうだとしたら、自分が許せない。
 と言っても、今更どうにも出来ないのだが。
 
「じゃあ、何で俺は殺されるんだ?」

 アインは少女と目を合わせて、直ぐに行動出来るように脚を曲げる。
 そして、横目で周りをもう一度確認する。
 右には畑、左には小屋、後ろには一本道。
 遮蔽物となりそうなものは無いので、臨機応変に対応するしかあるまい。
 
「それは、君が開拓者だからかな。
 成長する前に、雑草は刈り取っておくべきだからね!」

 話し終わると同時、少女は空に向かって兎のように跳躍した。  
 スカートが危ない揺れ方をしていて、一瞬中が見えそうになった。
 そして、ふんわりと服に風を受けながら、靴の底をゆっくりと小屋の屋根の上につけた。

「私、お話が長い人は好きじゃないんだ。
 だから、もう死んで良いよ」

 無邪気な笑顔を浮かべながら、少女はそう冷たく言い放った。
 そして、か細く折れそうな両腕を広げる。 
 
「私の名前は、エリアーヌ。
 本当のエリアーヌよ」

 その言葉が合図となるように、辺りに暴風が吹き荒れる。
 肌を掠めるそれは、アインの頬に切り傷をつくる。
 反射的に、腕で顔を覆う。

「エリアーヌだと?
 お前がか?」

 二人目のエリアーヌ。
 いや、こちらが本当と言っていたのだからあちらは偽物なのか?
 すると、あのエリアーヌは一体何なのか。
 そして、なぜいきなりこちらのエリアーヌが俺を殺す気になったのか。
 訳の分からない事尽くしだ。

「そう、本当のね」

 エリアーヌが手を上げると、空中に何本かの槍が現れた。
 もちろん風で造られているのだが、殺傷力は十分だろう。
 槍の全長は三メートルほどで、先端は鋭く尖っている。
 それは、エリアーヌの周りを覆うように静止していて、今にも射出されそうである。

「外にいるエリアーヌは何なんだ?
 お前の話だと、偽物みたいな言い方だが」

「そうだね……エリアーヌの器とでも言うべきかな?
 私は本体、彼女は器。
 偽物では無いよ、何しろどちらもエリアーヌだから」

 何を言ってるかさっぱり理解出来ないが、要するにこのエリアーヌが本体なのだろう。
 もう一人は分からないが。

「君、そろそろ本当に死んでね」

 エリアーヌは上げていた手をゆっくりと下ろし、アインを指差した。
 まるで、標準を細かく調整しているかのように。
 そして、アインに向かって真っ直ぐに槍が射出された。

――――ピュウンピュウンッ。

「速っ!?」

 避けようとも思ったが、何しろ槍が巨大なので吹き飛ばされるのである。
 みっともないが、逃げ回ることにした。

 最初の一本は逃げ切れずに少し腹をかすったが、無駄に高性能な衣服のお陰で怪我はしなかった。
 二本目、三本目は思い出したように刀を造り斬撃を飛ばすと、吹き飛んだ。
 四本目は、不規則な動きをした。
 上下左右に動きまくるのだ。 
 狙いがつけずらいので、横一文字に凪ぎ払う。
 
「はあっはあっ……」

 かなり体力を消費したため、アインは息荒くなっていた。
 額に汗を浮かばせ、空気を口から吸う度にカラカラに乾いている喉がぴりぴりと痛む。
 喉から手が出るほど水が欲しいが、今はそれどころではない。

「私の魔法を吹き飛ばすなんて、君凄いね!
 やっぱり開拓者だからかなぁ?
 今度は、これで!」

 少女は興奮して顔を紅潮させながら、手の中につむじ風を起こした。
 それを、アインへと投げ付ける。
 アインは、反射的に刀で切り裂くこうとする。
 しかし、切り裂くどころかつむじ風は斬撃を吸収し、竜巻のように巨大化した。

「まじかよ!?」

 なすすべなし、ということか。
 したらば、逃げるしかあるまい。 
 だが、逃げていたところで消滅はしないだろう。
 どうすれば……。

「なあエリアーヌ。
 なぜお前らは一緒にならないんだ?
 本体と、器。
 お前の言うことが本当なら、一緒にあるべきじゃないのか?」
 
 問いを投げ掛けて、思考を操作する。
 少しでも竜巻の動きを送らせるためだ。
 これで消滅すれば、尚良い。

「一緒にいられないの。
 私は、ここにいなければならないの!」

 アインに怒り気味にそう怒鳴り、髪の毛をバッサバサと揺らす。
 その顔は、怒っているのだがどこか寂しそうだった。
 
「どうしてだ?
 呪いでもかけられているのか?」

「呪いみたいな物よ。
 私がいなければ、皆が死んでしまう。
 だから、開拓者の君を殺そうと思ったんだよ」

「俺を殺せば何か変わるのか?」

「変わる!
 だって、私はもうここにいなくていいんだから……」

 少女の頬を、一筋の涙が伝う。
 それは、悲しいのか、嬉しいのか、寂しいのか、どれもなのか。
 少女以外には、知るよしもない。

「じゃあ早く殺してくれ」

 アインは手を広げて、目をつぶった。
 完全に無防備な姿をさらして、棒立ちする。
 すると、少女は唖然とした。

「君は何をやっているんだ?
 そんなことをしたら、君は死ぬんだぞ?」

「ああ、良いよ。
 それでお前が幸せになるんならな」

 アインは、少女の心に語りかけるように、優しく話す。
 敵意を持たれずに、ゆっくりと心の深層に忍び込むために。

「じゃあ、死んでもらう」

 顔を腕で覆いながら、竜巻をアインに向けて走らせる。
 地面を削り、砂埃を撒き散らしながら。
 そして、遂にそれがアインを飲み込むという時――――――

「まだか?
 俺はここにいるぞ?」

 生きていた。
 竜巻は、直撃する前に消滅したのだ。
 アインや他人の手では無く、エリアーヌ自身の手で。

「死んでよ!
 なんで死んでくれないの……」
 
 エリアーヌは、崩れ落ちて涙を流していた。
 何を意味するのかは分からないが。 
 やはり、エリアーヌにアインは殺せないのだ。
 根は優しいエリアーヌだ、と分かっていたからこそ試せたことなのだが。

「それは、お前が優しいからだ。
 優し過ぎるんだよ」

「君に何が分かるって言うんだよ! 
 私は、何年も何年もここで暮らして、一人でずっと暮らして……そして!」

 言葉がつまった。
 それは、言いたいことが多いからではない。
 言いたいことが無さすぎるのだ。
 声にならない何かが、エリアーヌの喉に迫る。

「話さなくていい。
 で、どうすればここを出られるんだ?」
 
「ここは、内部の魔力を吸収して聖域の供給源とさせる場所。
 だから、私の魔力容量を上回る人かエネルギーが無いと……」

 なるほど。
 つまり、大量の魔力がここにあれば良いって事か。
 それなら話しは速い。

(核、魔刀が喰った魂って出せるか?)

《勿論です。
 実行しますか?》 

(頼む)

 思った通りだった。
 やはり、魔刀の喰った魂は、出し入れ出来るのだ。

 いきなり、アイン目の前に青い塊が出現した。
 と言っても、浮遊しているのだが。
 恐らく、これが魂であろう。
 不思議な光を放ち、見るものを誘惑する。
 
(魂に魔力って含まれてるか?)
 
 アインの考えが正しければ、魂にも魔力は含まれているはずだ。
 なぜなら、魔力が宿るのは身体であるが、魂は身体の一部であるからだ。
 とどのつまり、魂が含まれていれば――――

《はい。
 魔力を大量に含んでおります》

「よし、魔力をどうすれば良いんだ?」

「放出してください。
 そうすれば、吸収源が変更されて脱出出来ます」

 放出というと、魂に含まれた魔力を開放すれば良いのだろうか。
 大量にある魂を少しずつ開放して、魔力の代わりとする。
 
(核、やり方分からないから、頼む)

 結局核頼みだが、結果良ければ全て良しだろう。
 魂が一気に十個ほど膨張すると、淡い光となって消えた。
 今のが、魔力の開放だろうか。
 
「これで――――これで、外に出られる!」

 エリアーヌは胸元でガッツポーズをとり、嬉しそうにぴょんぴょん跳ね回る。
 髪が乱れるのも気にしないのだ。
 余程嬉しいのだろう。
 
「じゃあ、外に出してくれよ。
 村で、猪狂族オークが暴れてるから、早く行かないと」

 今もガリアやセルケイ達が応戦しているのだ。
 のんびりしている暇はない。  

「亀裂はどこ?
 そこから出よう!」

 直ぐ様アインらは、入ってきた亀裂を探す。
 しかし、いくら探し回ってもそれらしきものはどこにも見当たらなかった。

「もしかすると、君が魔力の代わりに使った魂が、亀裂を修復してしまったのかもしれない」

 とうとう、エリアーヌはある推論にたどり着いた。
 すると、このままでは一生外に出られないことになる。
 どうしたものかと悩んでいると――――

「何をしておる?
 結界をもう一度壊せば良いではないか?」

「アルヴァス?
 何でここに!?」

 振り向くとそこには、腰に手を当てて不思議そうにアインを見つめるアルヴァスが、立っていた。
 
 

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